67話 推理ものっぽいわー!
「ちょ、ちょっと待ってナギさん。一体いつからここに?」
魔力循環について、召喚教授の講義をそのまま受けようとしていた福籠梛に、獣人の男子生徒ニビが尋ねる。
「ニビ君がお夜食持って研究室に入るのが見えたから……」
「ほぼ初めから!? 後ろからこっそりついてきたってこと?」
「ご、ごめんねー。急に出てきて驚かせたらお夜食ひっくり返しそうで危ないかもって思って。いつ声かけようか待ってる内にタイミング外しちゃって……」
キラキラと魔力漏れで輝くリッチの姿で、頬に手をあてて幼い乙女のように梛は恥じらった。
「どういう経緯でそんな姿に……」
「姉様のおみ足が……」
「ダンジョンで探知術式、だっけ? あれに引っかかっちゃって、どうにかしようと思って収納してたキーマたんに憑依して……」
「女神の御使いってリッチにも憑依できるん……えっ? それがずっと喋ってたキーマたん本人なの!? し、死んでる? いや、リッチだから生きてる? どっちにしても怖い! いつもそんなの持ち歩いてるの!?」
「大事なキーマたんの体だもの!」
「姉様のおみ足……」
リッチを愛でるメイド。いや、メイドはナギが御使いとして使役していた対象だから、リッチを愛でる御使いか。この人、ヤバイ御使いなのかも。ぬいぐるみの如くリッチに話しかけている梛を想像して、恐怖の汗を流すニビに気付かず、梛はふと思い至る。
「でもよく考えたら、このリッチの体もキューブさんから出したんだから結局探知術式に引っかかってたって事になるのかしら……だめねー、慌てると」
「え、まあ、いいんじゃないですか、失敗ぐらい誰でもしますし……」
「ニビ君、こっち見て話して。何でそんな怖がってるの」
謎の光を発する圧が強めなリッチと見つめ合う度胸はニビにはなかった。
「べ、別に怖がってないよ? そ、それよりダンジョンって言ってたけど、地下水路からそんな所まで行ったの?」
「セクハラ野盗に教えられてー」
「セクハラ野盗!?」
「ダンジョンのボス部屋で安全装置がおかしな事になっててピンチなのを助けられたって言うから、レン君か西塔の生徒さんがいるんじゃないかって思って見に行ったのよ」
「おみ足は触られていないですよね!? 私のおみ足は!?」
セクハラ野盗に反応する召喚教授。
「あなたのじゃないけど、みんな胸派だったわ。そしたらムサリスさんがクラーケンをやっつけてて」
「えっ、ダンジョンにクラーケン出るの!? それにムサリスって、あの大魔道士ムサリス!?」
「なんだかんだで発情期の猫みたいなのにおしっこかけられて」
「なんか一気に端折らなかった!? それどういう事!? 猫獣人にマーキングでもされたの!?」
「その後、大きな倉庫でレン君に会ったわ」
「そうなん……ええっ!? それ最初に言ってよ! ……って言うか、目がチカチカして情報が全然頭に入ってこない!」
姿と気配を消す結晶の効果を止めているので、ひたすら梛リッチの体から魔力が漏れて、研究室が怪しげなカラオケバーみたいな雰囲気になっている。
「ダッ、ダッ、ダダダダダダダダダンダンダンジョンでムサお……大魔道士ムサリスに会ったというのは本当ですか……!?」
目を瞬かせるニビを押しのけるように、いつにも増して挙動不審な動きで召喚教授が尋ねてくる。
「え、ええ、ダンジョンの安全装置の点検に来たんですって。何か顔青いけど大丈夫……?」
わなついた両手で、血の気がなさ過ぎて灰色になった顔を覆う。
「そ、そんな……生きて……生きていたなんて……」
「ど、どうしたの教授は? もしかして宿敵だったとか?」
ニビに尋ねても首を傾げるばかりだ。
「どっちかって言うとよく古代魔術の講義でよく題材に取り上げられてるよ。ムサリスに関する論文もいっぱい書いてるし……」
その時梛はピンときた!
「分かったわ!」
「いきなりどうしたの、ナギさん?」
「ダンジョンの安全装置をボス部屋3秒全滅ループの危険な状態にしたのは、あなたね召喚教授!?」
「えっ!?」
「……と、思わせるように誰かが仕組んだって事がね!」
「ええっ!? どういう事!?」
「ニビ君の言葉にものすっごいミスリード的なフラグを感じたからよ!」
「えっ、論理的に推理したとかじゃなく?」
「話の流れ的に推理したのよ!」
「話の流れ的に」
「漫画や小説じゃ犯人から目を逸らすよくあるパターンだわ! そうやって内部分裂を誘って主人公と仲間がケンカ別れしたりぎくしゃくして鬱展開に陥る事もあるのよ。ふふふ、こんな事もあろうかと、普段から名探偵コ〇ンとか名探偵プ〇〇ュアとか見て推理力を磨いておいたのが役に立ったわね」
何かの推理ものっぽいポーズを取って、にやりと不敵に笑う梛。今はリッチなのでその笑顔には誰も気付かなかった。
「推理力なのかな、それ」
「探偵として覚醒した事でここから推理回が増えるかもしれないわ。決めゼリフ考えておこうかしら。えーと、うーんと、そうね、じっちゃんの名はいつもひとつ!」
「名前がひとつって事はナギさんのおじいちゃん、平民って事?」
「……そういえば子供の頃、おばあちゃんと結婚するためにしゃくなんたらと家名を捨てたとか言ってたような気が……って、何の話してたっけ?」
横道にそれまくって本筋を見失う梛だった。
「確かに教授って、普段から挙動不審だから濡れ衣着せるには持って来いな人材だよね……」
まだ落ち着かな気に研究室をふらつく足取りで徘徊している教授を見て、ニビが頷く。
「ナギさん、最初に憑依してたメイドさんはどこにいるの? そろそろ教授を落ち着けないと動揺し過ぎて倒れそうだよ」
「確かになんとかしないと、魔力循環の講義受けられないし、レン君を見つけた時の話の続きもできないわね……」
梛は研究室の天窓の光で創り出される魔法陣に入ると、キューブを呼び出して次元収納を開いた。
現れたメイドは梛とニビを確認すると、滑らかなカーテシーで挨拶する。
月光の中でふわりと佇む巨乳の美少女メイドに、ニビはちょっとドギマギした。ナギとは全然違う物腰柔らかな雰囲気。黒髪が月の光で銀色に見えると、何故かそれがとても彼女にしっくりときて美しい。
「ちょっと教授を落ち着かせたいんだけど、協力してもらえるかしら。もちろん、セクハラしようとしたらちゃんととっちめるから」
梛の女子高生時代そっくりの姿をした巨乳メイドは、召喚教授の様子を一瞥すると、心配無用とばかりに大きな胸に手をあてた。
長椅子を天窓魔法陣の中心に移動させると丁寧な所作で座る。
「姉様の膝枕あぁぁぁぁー……」
そこに吸い込まれるように召喚教授が身を投げ出した。顔に伝わる心地よい太ももの弾力に、召喚教授は一瞬で癒された。
「……では魔力循環のやり方だが、まず最初に」
「その状態で続けるの?」
巨乳メイドの膝枕を満喫しながら、真面目な口調で講義を始める召喚教授に梛はツッコんだ。
「ここが私の世界の中心だっ!」
頑として膝枕ポジションから動こうとしない。
「メイドちゃんに頭ヨシヨシされながら膝枕してもらうのはさぞかし素敵な世界なんでしょうけど」
自分とそっくりの姿をしたメイドで満喫するのは抵抗があるのでやめてほしかった。
「すいません、普段はもうちょっと大人しい人なんですけど……ここまでメイドさんの太ももにこだわるとは僕も知らなくて……」
「メイドにこだわっているのではない。姉様のおみ足が完璧に再現されたこの圧倒的脚線美が私を至福へと誘うのだ……!」
「……とりあえず、話はできるし続けましょうか。メイドちゃん、嫌だったらすぐ蹴り飛ばすのよ」
梛は諦めて膝枕召喚教授から魔力循環の講義を受ける事にした。
いつもお読み下さってありがとうございます!初めましての方もありがとうございます!!10月3日に1話から一気読みして下さった方もありがとうございますー!!コツコツ頑張りますー!
自律神経がレベル一桁なので見事に寒暖差疲労の真っ只中です。皆様もどうかご自愛くださいませー。
次回更新は10月20日頃を予定しております。




