65話 目と目で通じ合うわー!
呪いの首飾りによって意思を奪われていたはずの鬼人族レンが、山盛り警備甲冑に囚われていた福籠梛を引っこ抜いて、天井めがけて投げつけた。
「レン君何を……!?」
レンと一瞬視線が合う。呪いの首飾りから滲む怪しげな力に抗いながら、その目はまっすぐ梛を見つめていた。
梛は悟った。
もしかして私の推しへの愛の力で一瞬意思を取り戻せたの!?
「分かったわレン君……! 天窓破って脱出しろって事ねー!!」
天井に窓はなかった。
鬼人の尋常ならざる膂力でもって投げつけられた梛の警備甲冑は、そのまま天井を破壊し、屋根上まで投げ出される。警備甲冑でなくては出来ない荒業脱出法だ。
「警備甲冑の耐久性を理解してるのね、レン君っ」
「勝手な事をするな!」
優雅な男子生徒の指輪越しの叱責で呪いの首飾りが発動したのか、短くうめいてレンが片膝をつく。
「ちょっとレン君が苦しんでるじゃない! 今の言葉で呪いが発動してるわよ!」
屋根に開いた穴から身を乗り出して梛が叫ぶ。
「……なっ……まさか……?」
本当に不審者の言うように、首飾りに呪いの効果があるのか?
急変したレンの様子に一抹の不安を感じた優雅な男子生徒は、己の指輪を見つめる。よくある遠隔通信用のものだと思っていたのに。微かに残る異質な魔力。どうして気が付かなかったのか。
これは魔族が使う力だ。いつの間に顧問と入れ替わった? それとも最初からあの顧問は我々生徒を裏切っていたのか……?
「くっ……これは……」
指輪を外そうと引っ張っても、まるで根でも生えているかのように動こうとしない。
自分も顧問の陰謀の持ち駒のひとつに過ぎないという事なのか。
「むくんでるの? 油か洗剤塗ったら?」
「違う! この指……」
言いかけて優雅な男子生徒はハッと口をつぐんだ。指輪を渡した顧問がこの会話を聞いている可能性がある。
だとしたら自分がそれに気付いた事を知られるわけにはいかない。顧問が連れてきた強化選手達には、不審者の言う呪いの首飾りが付けられている。彼らを危険に晒すわけにはいかない。
今はあえて大会の事しか頭にない、愚かで従順な生徒として振る舞わなければ。
「昨夜は大会の勝利の前祝として、高級料理をたらふく食べたからな。指がむくむのも当然だ」
「急に悪役令息ムーブ!? それ、レン君の分もちゃんとあったんでしょうね!」
優雅な男子生徒は感心した。こんな時でも、不審者は逃げるどころか自分の安全より鬼人の食事の心配をしている。出来れば顧問が来る前に逃げてほしいのだが。
「さあな? だが我が部に貢献すれば幾らでも褒美は与えているさ。やつれて見えるのは大会に向けた練習が少々厳しいだけの事。呪いなど言いがかりも甚だしい。貴様も帰って喧伝するといい。我らは優れた選手には最高級のもてなしを提供しているとな!」
これだけ言えば顧問が集めてきた強化選手がひとまず無事だと気付くはず。
「もし文句があるようなら、ルール通り大会で我が部に勝利し、鬼人ら強化選手をそちらの補充人員として迎え入れればよいだけのこと。貴様にあの大会を勝ち抜く気概があるならな!」
「えっ、勝負に勝ったらレン君が……自分のものに……!?」
「なんなら生徒会に強化選手が手ごわ過ぎますーとでも泣きついてルール変更してもらっても、こちらはいっこうに構わんが?」
生徒会に呪いの首飾りについて説明して速やかに強化選手の利用を禁止にしてもらえれば……!
「そこまで言うならその大会とやらに出てやろうじゃないのっ!」
煽り過ぎたっ!
「が……額面通りに受け取る必要はないのだぞ?」
言葉の裏を読んでくれ、と願う優雅な男子生徒の思いとは裏腹に、梛は警備甲冑姿で言い放つ。
「そして学園レン君を恋愛強化選手として迎え入れるわっ!!」
「んっ?」
大会で勝利すると強化選手が味方に補充されると聞いた梛の脳内では、レンを主人公にした学園ドラマの第二クールが始まっていた。
「そして体育館裏でレン君に壁ドンされて、破壊された体育館の補修工事で部活が突如お休みになり、その流れで下校デートをするのよっ!」
「どんな流れかよく分からんが、我が部は優勝候補の筆頭だ。早々に戻って我が部の対策会議でも開くのだな」
早くここから立ち去らないと、警備甲冑が屋根まで上ってまた捕まるではないか。
優雅な男子生徒が内心ハラハラしていると、梛は屋根を踏みしめて言い放つ。
「私が必ず勝って推しとデートするんだから、あなたは首を洗って……!」
警備甲冑の重量に負けて足元の屋根が崩れた。
「待ってなさあああああああああ……!」
バランスを崩して屋根を激しく転がっていく梛。そのまま木立の植え込みに落下する音が響いた。
「何だ!? 不審者だ!」
「不審者ですって!? どこにいるの!?」
「お前の事だよ! この化け物がっ!」
「きゃーっ!?」
人間の警備員にまで見つかって騒がれている。
「大丈夫なのか、あれは……」
優雅な男子生徒はぼやきながら、ふとそばにいる鬼人を見やった。
恐らく呪いで意識がおおかた封じられているはずなのに、口の端が微かに上がっている。あれだけ怖いと感じていた無言の圧もない。
「そうか……お前はあれを信じているのだな」
だったら自分もそうしてみようか。大袈裟な悲壮感を漂わせて悲劇の主人公のように不幸ぶるよりよっぽどいい。
「大会で会うのが楽しみだ。名前は何と言ったか……そうそう、確かお前はナギと言ってたな」
そう言うと、鬼人と目が合った。
めっちゃ睨んでる。
「えっ、何で……? すまん、何か気に障ったのなら謝る……」
いつもより七割増しの圧力を鬼人から感じて、優雅な男子生徒は青ざめながらその場を離れた。
その頃梛はその場にいた人間の警備員に追い回されて木立の中を逃げ回っていた。ぶつけたり落下したりで憑依した警備甲冑もそろそろ限界だ。
「リッチの体どこっ!?」
焦っているせいで潜ませたリッチの居場所が分からない。
「それともまさか自分にも結晶の効果で見えなくなってるとか!? だったらどうやって戻ればいいの!?」
焦れば焦るほど自分がどこにいるのか分からなくなってくる。
もうこのままレン君を助けに大会に出る事も出来なくなるの……?
「……ところで大会って、何の大会?」
優雅な男子生徒は大会としか言ってなかった気がする。
「それってニビ君が言ってたのと一緒の大会の事でいいのかしら?」
だとすると結晶を使ったフィギュアの審査という事になるのだろうか。
「カードバトルみたいに熱いノリで披露するとか……? あっ、リッチがいたわっ!」
あれこれ違う事を考えたおかげか、すっかり落ち着いた梛の前方に、姿を消したリッチの輪郭が見える。周囲の景色と溶け込んで、よほど気を付けていないと気付かれる事はないだろう。
そんなリッチのすぐ目の前で、男女の生徒がイチャイチャしていた。
「そ、そろそろ寮に帰る時間だな……」
「そ、そうですね先輩……」
「えっと、楽しみだな競技祭典……」
「は、はい、明日はとうとう開会式ですね。先輩は何の競技に出場されるんですか……?」
「俺は馬車競技だ。その、君は舞踏会には出るのか? まだ出場者は募集しているけど」
「ま、まさか! 私には恐れ多いです……!」
「そうか……毎年女子にはすごく人気だから……守護騎士と、その、恋仲になる女子もいるって……」
「確かに舞踏会の守護騎士様達は一言では言い表せないような魅力的な方達ばかりですけど……わ、私には、その、先輩の方が騎士様のように素敵だと……」
「……で、では俺がその、君の騎士になってもいいだろうか……!」
「せ、先輩……!」
見つめ合ってる。めーっちゃ見つめ合ってる。
ずうっと見つめ合ってる。
「手ぐらいつなぎなさいよっ!」
「わあっ!?」「きゃあっ?」
あまりにも初心な生徒二人のもどかしさに、自分の恋愛レベルの低さを棚に上げて叫ぶ梛。
「首なし騎士!?」
レンと戦い甲冑はひび割れ、兜は弾け飛び、施設の屋根から転げ落ちていい具合にボロボロになった梛は、どう見てもさまようデュラハンのようにしか見えなかった。
「だめだ! 彼女は渡さない! 命を奪うなら俺にしろ!」
「いやっ! だめです先輩! 先輩のいない世界なんて耐えられない!」
「ああ、俺もだ!」
ひっしと抱き合う男女の生徒。
「手はつながないのにハグは出来るってどういう事……? これも愛のなせるわざ? いいもの見せてくれたから命は取らないわ。ほら、二人で仲良く帰りなさいよ」
「え? あ、はい……? た、助かったのか……?」
ここにいられるといつまでたってもリッチが回収できない。
「お幸せにねー!」
支えあう二人を見送ると、梛はやっとリッチに憑依し直して召喚教授の元へ戻っていった。
その後、施設そばには恋愛成就のオネエな首なし騎士が出るスポットとして、学園七不思議に追加されたのだった。
いつもお読み下さってありがとうございます! まとめ読みして下さったりとか、気になった話をのぞいて下さったりお時間作って読んで下さって本当にありがとうございます!!
次回更新は9月30日頃を予定しております。
台風で偏頭痛デバフがー……。皆様もどうかお気を付けてお過ごし下さい。




