64話 深読みしすぎよー!
イケメン鬼人族のレンの行方を追って、巡回中の警備甲冑に憑依し倉庫に忍び込んだ福籠梛が遭遇したのは、呪いの首飾りをつけた制服姿のレンだった。
「まさか無抵抗のレン君に制服を着せて楽しんでたんじゃないでしょうね!?」
「使用人でもあるまいし、するわけがないだろう。大会参加への決意表明でもするのかと思えば……」
優雅な男子生徒は内心困惑していた。さっきからどうも警備甲冑をのっとった不審者の発想が斜め上で、会話が噛み合っていない気がする。別派閥の工作員とは違うというのか。
「そんな事より戦力として組み込んでる以上はちゃんとレン君を賓客としてもてなしなさいよ! 以前見た時よりちょっとお肌の艶がよくないわ!」
不審者が世間から恐れられている鬼人の肌艶の状態まで把握している。やはり鬼人の関係者か。だとすると、同じ鬼人か。先ほどの打ち合いも能力的に劣る警備甲冑で互角の状態まで持ち込んでいた。
ふざけた言動に気を取られそうになるが、それも計算かもしれない。油断させてこの鬼人を奪い返しにきた可能性が高い。だが大会の貴重な戦力を奪われるわけにはいかない。不審者に気付かれないように後ろ手で術式を編んでいく。
この片角の鬼人は大会の強化選手という名分で、奴隷商から買った戦闘奴隷だと顧問は言っていた。能力の高い奴隷を生徒として、一時的に加入させるのは大会の常套手段。
他のチームの戦闘奴隷と間違われないよう、顧問が西塔側からのスカウトも含めて、強化選手に皆同じ首飾りをつけさせた。あの首飾りを外すという事は、チームからの脱退を意味するが、そうはさせない。
鬼人と言えば常に戦場の最前線に君臨する戦闘特化の種族。下手をすると味方まで巻き込まれる攻撃力の高さを誇る。
その強さゆえに他の種族からは恐れられ、時に疎まれ、鬼人も個の強さを求めるからか、群れる事を良しとしない傾向があった。
不用意に近づかないよう顧問から遠隔通信の指輪を授けられた時は正直ほっとした。実際そばにいるだけで、怖気が来る程の圧力を感じる。
そんな鬼人の待遇や体調を気遣う素ぶりを見せる不審者。それこそ使用人達の振る舞いそのものだ。
もしや、この鬼人は何らかの事情で奴隷落ちした一族の長か、或いは王なのか……?
「貴様とこの鬼人は一体どういう関係だ」
「かっ、関係ですって!?」
激しく動揺する警備甲冑の不審者。
「そ、そんな急に、関係だなんて、レン君の前でそれを言うのはちょっと……」
あやしい。やはりとらえて尋問するべきか。
「ちょっと恥ずかしいけど、敢えて言わせてもらうわ!」
言うのか。
「レン君は……私の推しよ!!」
「推し? 推しとは何だ。王や指導者の事か?」
不審者は両手を上げて天を仰いだ。多分、仰いでいるはず。兜はさきほど鬼人が吹き飛ばしたので、頭の角度が分かりにくくなっている。ただ何となく、聖職者が祈る姿と重なるのだ。不審者なのに。
「王? 指導者? そんな人間が決めた小さな枠にはおさまらないわ! 推しとはつまり、全身全霊をかけて解き明かす宇宙の真理そのものよ!」
「何だって……?」
「推しがいなければ私は太古の海でうねうねしてる原生生物。推しによって己という存在を認識し、生かされ、推しが幸せになる事で新たな存在として進化する事が出来るの」
この不審者、魔族か? もしくは鬼人と契約したネームドモンスターか。
「そして推しの生き様に思う存分応援する事で、さらに推しの存在が世界に浸透するのよ! 推しへの貢献による経済効果は4兆以上と予測されているわ!」
「金貨4兆枚以上……!? 国すら買えるではないか……」
そこまでの価値がこの鬼人にはあると……? だったらなおさら奪われるわけにはいかない。
優雅な男子生徒が腕を上げると、倉庫の暗闇から金属音が響く。現れたのは、梛が憑依したのと同じ警備甲冑だった。
「すでに取り囲まれてるっ!?」
梛がレンの待遇について抗議している間に、巡回していた警備甲冑が優雅な男子生徒の合図を受けて戻ってきてしまったのだ。
「きゃーっ!?」
警備甲冑が全方位から押し寄せてくる。近場の積み荷の上に跳躍しようとした梛のすね当を、レンが素早く足払いした。
「きゃあっ!?」
ひっくり返った梛の上に、警備甲冑が怒涛の勢いで積み重なっていく。
「あっ、やだ、ちょっとー!?」
あっという間に不審者を下敷きにした警備甲冑の小山が出来上がった。不審者が動かせるのははみ出した片腕だけだ。
その姿を無表情のレンが無言で見下ろしている。
「このアングルでもカッコよさが迸ってるわっ!!」
「貴様の推しはお前を守る気がないようだが?」
呆れる優雅な男子生徒に、梛が言い返す。
「レン君を呪いの首飾りで操っておいて何言ってるのよ」
「何……? 呪いで操る、だと?」
にわかには信じがたい言葉に眉をひそめる。
「何しらばっくれてるの? その首飾りがあちこちでろくでもない使われ方されてるの知ってるわよ。シロたんがつけられてたのなんか、命令聞かないと電気でビリッときて痛かったし……って、レン君にお仕置きとかしたら承知しないわよっ!」
怒りながら唯一自由な片腕で床をバシバシ叩く不審者。
これは罠か? 自分を騙そうとしている? しかし、自らの利益のために夜会や会合で虚言を弄する貴族の連中のように、腐臭をまき散らす言葉とは伝わる思いが違う。
まるで恋をする乙女のように、そして幼子を守る乳母のように、ひたむきさが伝わってくる。
「レン君、このキザなお兄さんに嫌な事されてないっ!? ちょっとイケメンだけど、レン君にやなことする奴はおねえさんがギャフンて言わせてやるわっ!」
内容は全く乙女らしくないが。
鬼人は無表情のまま、一歩警備甲冑の小山に近付いた。
「レン……。お、ねえ……さん……」
ふと、鬼人の口から言葉が漏れたかと思うと、まだギャフンギャフン言いながら、バシバシ床を叩いていた不審者の腕をつかむ。力が強すぎるのか、籠手が軋んでひびが入っていく。
「ちょっと! ギャフンを言い過ぎだからってレン君に何をさせるつもり!?」
確かにこれ以上うるさくギャフンギャフン言うようだったら、消音魔術でもかけようかと考えていたが、鬼人にはまだ何も言っていない。
「な……ナギ……」
「えっ、レン君、いま私の事呼んだっ?」
呟いていた鬼人が、突如大きく振りかぶる。
「んんっ!? きゃあーっ!?」
うず高く積み上がった警備甲冑の山から腕の力だけで体を引き抜くと、鬼人はそのまま不審者を倉庫の天井めがけて思い切りぶん投げていた。
いつもお読み下さってありがとうございます!5日に一気読みして下さった方もありがとうございます!!
近頃雨の被害が大きいですが、皆様のお住まいの地域は大丈夫でしょうか。雷も頻繁に鳴るので、音が聞こえる度にパソコンのプラグを慌てて抜いております……。
次回更新は9月20日頃を予定しております。




