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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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63話 ファンサがすごいわー!

 ようやく探し出した鬼人族のレンは、フードを背にやったマントの裾をさばくと、沈黙したまま福籠(ふくごもり)梛(なぎ)に剣を向けた。


 冷ややかな鋭い双眸には何の感情も宿っていない。


 小学生の転生者(プレイヤー)、槐(えんじゅ) 愛蓮(あれん)が体を間借りしている時は、周囲を明るく照らすような澄んだ笑顔をしていたのに。


「そんな……レン君、嘘でしょ……?」


 梛の震える声にも反応しないレンの背後から、貴族然とした優雅な佇まいの男子生徒が姿を現した。


「警備甲冑の術式を乗っ取ったか。どこの派閥の者だ。おおかた我々の研究を盗むか破壊に来たのだろうが……」


「レン君の制服コス最高おおおおーっ!!」


 梛の歓喜に満ちた叫びが倉庫に響き渡った。


「……えっ?」


「カッコいいっ! カッコイイわっ!! 噓でしょ!? まさかレン君の制服姿が拝める日が来るなんて! ちょっと着崩してるのね! すっごく似合ってるわ! まさか第二ボタンまで外してるの!? マントを外したら鎖骨が見えちゃうわっ! きゃっ、ステキッ!」


 梛は憑依したリビングアーマー姿で喜びに打ち震えた。


 傍目には呪われて制御不能に陥った甲冑が、グネグネと悶え苦しんでいるようにしか見えなかったが。


「制服のオシャレデザインとレン君の宇宙に祝福されたイケメンっぷりが今まさに新世界を作り出そうとしているのねーっ!!」


 梛の早口コメントが止まらない。楼閣群島で別れたきり、レン成分にずっと餓(かつ)えていた梛にとって、魔導学園の制服を着こなした推しの姿はあまりにも刺激が強かった。


「新宇宙誕生ーっ! その名は学園レンくーん! キャーッ! レン君主演の青春ドラマが始まっちゃうわーっ!」


 推しが存分に供給された梛のお花畑な脳内では、すでにレンを主人公とした学園ドラマの第一クールが展開されている。


 入学式に遅刻しそうになった女子高生梛が食パンをくわえて、ちこくちこく~! と、ケンタウロスのシャイヤールを自転車がわりに新たな学園生活へと疾走している。


「そして高速道路モードで一般道を暴走するシャイヤールさんを制御できなくなった私を、フランスパンをくわえたレン君がちこくちこく~! って、言いながら助けてくれたりなんかしてっ!」


「……何だこの色々おかしい侵入者は……まさか、こやつを連れ戻しに来た知り合いか?」


 普段女子生徒達から黄色い声援を浴び慣れている男子生徒は、完全に眼中にない己の存在感の薄さにちょっと複雑な心境になったが、顔には出さず優雅な仕草で指輪をはめた手を口元にかざすと言った。


「鬼人よ、そやつはお前の敵だ。排除せよ」


 指輪が妖しい光を放つと、レンの瞳にも同じ色の光が揺れる。


「敵……排除……」


 ゆらりとレンの体が傾いたかと思うと、再び強力な踏み込みで梛の懐まで間合いを詰める。


「きゃあっ!?」


 恐ろしい速さの斬撃を何とかしのいでも、すぐに次々と刃が襲いかかる。しかも一撃一撃が重い。


 全身鎧の体がどんどん押されて後退していく。


「くっ! こっ……こんなのって……!」


「残念だったな、どこぞのネズミよ。警備甲冑がいかに優れているとしても、鬼人の力には到底及ばぬぞ。命が惜しくばお前の持つ情報を……」


「こんなの、もうほぼ握手会だわー!」


「え……?」


 侵入者がまた変な事を言い出した。


 レンから攻撃を受けているにもかかわらず、梛の声はウッキウキに弾んでいた。


「レン君が私だけ見てるっ! すっごい真剣なまなざしで迫られてるなんてっ! レン君とこんなに近い距離初めてっ! 神ファンサしゅごいっ!」


 ダンジョンでは魔竜姫の体が大きすぎてレンにハグすら出来ず、楼閣群島では追いついたと思ったらハルピュイアとの戦闘になるわ、召喚教授に先にグリフォンデートされて再び別れてしまうわで散々だった。


 今、ようやく推しを目の前で堪能する事が出来ている。


 ひじ当を破壊した瞬間も、籠手を陥没させた瞬間も、兜を弾き飛ばした瞬間も。


 もう余すところなく全て目に焼き付けて脳内フォルダに永遠に保存したい!


 推しの一挙手一投足を見逃すまいと、目を見開いて攻撃を受けていた梛の動きが変わった。


「何っ……!? 鬼人の攻撃を受け流しているだと……!?」


 恐るべき集中力は梛にゾーンに入ったかのような状態を生み出していた。


「やだ、ファンに配慮した立ち回りまで!? そんなにじっくり見てもいいのっ!? レン君、優しいっ」


 自分が攻撃を見切れるようになった事にも気付かず、ゆっくり動いてるようにしか見えないレンの神対応に感激する梛。


「やっぱり第二ボタンまで外してるっ」


 レンの素早い突きをかわして、梛は至近距離でデコルテを堪能する。首筋に流れる汗の美しさを照れながらもつい目で追ってしまう。


 鎖骨から胸元に流れ落ちるかと思いきや、汗は首の途中で見えなくなった。


 針金状の黒いものがレンの首に巻きついている。


「また見覚えがあるわっ!?」


 それは梛も白コボルトの時に経験した、呪いの首飾りだった。


「早くその警備甲冑を倒せ」


 レンの背後にいる優雅な男子生徒の声で、ようやく梛はもう一人いる事に気付く。


「誰なの? さっきからずっといたみたいな顔して話しかけられたわ?」


「ずっといたんだが、やっと気付いたか」


「つまりあなたが黒幕ね!? この首飾りを外して彼を開放しなさい!」


「さあ、何の事だか。この鬼人は我々のチームの一員だ。欲しければ貴様も大会に出ればいい」


 不敵な笑みを浮かべると、優雅な男子生徒は言った。


「勝てば望み通り開放される。勝てればな」

いつもお読み下さってありがとうございます!22日と25日にがっつり読んで下さった方もありがとうございます!!日々色々とありますがほんの少しでも気分転換になれば幸いです。

次回更新は9月10日頃を予定しております。


追記:誤字ってた箇所とかを直しました。気付いてないだけでまたあるかもですが……

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