62話 そんなのってないわー!
たどり着いた建物の壁に光が吸い込まれていく。
「この中にレン君がいるのねっ」
福籠梛は結晶の力で姿を消したまま、建物の入り口を探して壁沿いに歩いた。
「あっ、誰か来る」
こちらへやってくる足音が聞こえて、反射的に木立の陰に身を隠す。自分の姿が見えないと分かっていても、用心に越したことはない。元野盗達は梛の大きな胸の動きすら感知してしまうのだ。似たような能力者がいないとも限らない。
「……そう言えば今は筋肉も脂肪もないんだったわ」
先に憑依していたホムンクルスメイドのつもりで居丈高貴族生徒達にうっかり骸骨姿を晒してしまったが、同じ事をここでやらかしたら、レン君を探す前に騒ぎになってしまう。
「レン君の守りの光も相手には見えなくなるのはいいけど、結晶の効果がなかったら電飾つけて歩く骨格標本みたいになってるのよね、これ大丈夫なのキーマたん……」
リッチの骨の表面は、キーマの実験でピカピカのミラーボール状態になっていた。
「クラブとかのダンスフロアの天井からぶら下がってる方が目立たないかしら……絵面怖いけど」
それにしても光り過ぎじゃないだろうか。詳細を聞きたいキーマの気配はいつもより遠くに感じる。モフモフを愛でまくる会の部長に頼まれて、真面目に猫精霊達の引率をしているようだ。骨には淡泊だがモフモフには優しい。
陰でやり過ごそうとしていると、やって来たのは隊列を組んだ全身鎧の集団だった。建物の周りを巡回警備しているようだ。
「ハッ! もしかしてついていったら施設内に入れる!?」
レン君の守りの光は先ほどから同じ場所を指し示して動く気配もない。梛は通り過ぎた隊列の最後尾の警備の一人に憑依しようと凝視した。吸い込まれるように意識が鎧の中に入り込む。
「……あらっ? 空っぽ?」
てっきりキーマの館で見た騎士達の仲間かと思ったら、鎧の中には誰もいなかった。
「ファンタジー系の小説とかアニメで出てくるリビングアーマーかしら」
梛は気が付いていなかったが、鎧の中に入った瞬間、元々憑依させられていた霊は梛の意識体の巨乳に弾き飛ばされて、一片の悔いもない笑顔で成仏していた。
中身もないのに思ったより動かしやすい。腰に長剣を佩いているのを確認すると、目立たないように他の鎧と歩幅を揃えて建物の周辺を歩いていく。
しばらく行くと建物の入り口が見えたが、動く鎧達の巡回はまだ続くのか通り過ぎようとする。
梛は速度を落として距離を取ると、踵を返して入口へ向かった。
入り口の扉にも動く鎧が二体いたが、梛を仲間だと認識しているのか扉を開いても全く反応しなかった。
「こんなに警備がいるって事は何か貴重な物が保管されてるのかしら……?」
建物の内部は照明が消されて薄暗い。音の反響具合でやたら広い空間だというのは分かるが、誰かが作業しているような気配はなかった。両サイドに何かの大きな荷物が置かれて布で梱包されているのが、微かに見て取れる。
「それよりレン君は……」
レンの居場所を探ろうと手元を見やって、はたと気付く。
「レン君の守りを置いてきちゃった……!」
動く鎧に憑依したので、リッチが持っていたレン君の守りはそのままになっているのだ。
「うう、今から取りに戻るのも時間がかかりそうだし……」
がっくりと肩を落としながらも、レン君の守りの光が壁の中に吸い込まれていたのを思い出す。
「私が隠れてた所って確かこっち側よね」
記憶を頼りに先へ進むと、ほのかに明るい場所に出た。
「あったわ! まだ光ってる!」
倉庫の壁から見覚えのある光の筋が現れて、暗がりへと伸びていく。
「でも細くなってる!? 急がなきゃ!」
梛の意識がリッチにいないせいなのか、光の筋は徐々に細くなっている。急いで光が示す方へと走り出す。糸のように細くなっていく光の先にちらりと反射する輝きがあった。
「えっ?」
レン君の守りが床に落ちている。
「もしかして……これレン君が持ってた方の?」
宝石でできた獣の像だが、自分が持っているものとは少しずつデザインが違う。
「れ、レン君! 近くにいるの!? 聞こえてたら返事して!」
薄暗い空間に、梛の声だけがこだまする。だがしばらく待ってもレンからの返事はない。
「そんなあ……じゃあ、どうやってレン君を探せばいいの……?」
完全にレン君の守り頼りで行動していたので、こんな状況は想定外だ。
空っぽの鎧で頭を抱えていると、ふと背後に微かな気配を感じた。
「きゃあっ!?」
咄嗟に避けた直後に、ギリギリの位置で刃が鋭く閃いた。
「危ないじゃない!」
梛が最初の刃をかわすとみるや、相手はすぐに間合いを詰めて切り込んでくる。避けながら腰の長剣を鞘から抜いて応戦する。動きが速すぎて防戦一方だ。
「でもなんか覚えのある太刀筋っ!?」
わずかな隙をついて後退すると、充分な間合いを取って対峙する。
フードを被った相手も剣を構え直す。
「しかも見覚えのある構え方!?」
次の瞬間、相手が力いっぱい踏み込んで一気に間合いを詰めた。風圧でフードが外れる。
何度も見たグラデーションの美しい赤い角。
「れ、レン君!?」
梛を襲ったのは表情のかけらもない鬼人族のレンだった。
いつもお読み下さってありがとうございます!11日に一気読みして下さった方々もありがとうございます!!皆様に書く力を頂いております。コツコツ頑張りますー。
次回更新は8月30日頃を予定しております。




