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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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55話 レン君を探しに行くわよー!

「ましゅたー、おかえりにゃー。我ブラッシングで今最こーにモフモフにゃ」


「ただいまキーマたん、モフらせてー!」 


 帰還した福籠(ふくごもり)(なぎ)の声を聞いて、キーマの実験助手をこなしていたホムンクルスメイド達が反応した。


 聖人の如く諸手を広げてお出迎えする、可愛い白キマイラのキーマ目がけて、梛がヘッドスライディングで突撃する。


 すると梛が両手に携えていた大きな保冷バッグをメイド二名がサイドから素早く受け取り、別のメイド達は大きな胸とフローリングとの摩擦によって失速する可能性を瞬時に計算し、モップで梛とキーマの間をカーリングよろしく高速で磨き上げ、またあるメイドは完璧な軌道計算によってキーマの立ち位置をそっと修正する。


 こうしてチームホムンクルスメイドの見事な連係プレーによって、梛はキーマのモフモフのお腹に思い切り顔を突っ込んだ。


「キーマたんのモフモフ最高ー……」


「やけに帰りが早かったにゃ。我気をきかせてお話控えてたのに」


「だっていくら推しだからって、リアルで10歳の子供を長時間連れまわすあぶない25歳だって思われたくないもの……。それに早くミラーのレン君を助けに行かないと!」


「頑張るのはえらいでしゅが、自分の体にちゃんと栄よー補きゅーするにゃ。夕ご飯はメイド達特せーの推しとのはちゅでーと記念のお赤飯と鯛の煮ちゅけに卵のおしゅい物でしゅよ」


「お祝いしてくれるの? 嬉しいっ! ありがとうメイドちゃん達……! お夕飯を食べたら出発……の前にもう少しお腹吸わせてキーマたん成分補充させてちょうだい!」


「我のモフモフからしゅか摂取できにゃい栄よーがあるでしゅね。可愛いお手々でヨシヨシもするにゃ」


 おしゃれした梛の頭をぷにぷにの肉球で撫でるキーマ。


「キーマたんのここぞという時の神対応しゅきっ! そうだわ、重要なご報告があります」


 キリリとした眼差しで梛はキーマを見つめた。


「多分我にはじゅー要じゃにゃいでしゅが聞くにゃ」


「レン君からいつでも連絡して下さいって、電話番号も教えてもらったの! ヤバい大人だと思われなくてよかったわー」


「やっぱりじゅー要じゃにゃかったでしゅ。浮かれてお子様のしゅー寝時間帯に電話しゅたらヤバイ大人だと思われるでしゅよ」


「ハッ!? じゃあいつ電話できるの!? 小学校の帰宅時刻の夕焼け小焼けが鳴ってる時に、待ち構えたかのように電話掛けてくるのって子供にはかなりホラーよね!? 結局休日? それとも今日みたいにお休み取って午前中に連絡した方がいいのかしら?」


「しょれだと授ぎょーの真っ最ちゅーだと思うにゃ。でーとで浮かれて思考が空回ってましゅよ。お家帰ったら頭休めるでしゅ」


「そ、それもそうね……キーマたんのモフモフのいい匂いで落ち着いておくわ……って、何かすごく甘い匂いしない? デザートも作ったの? お土産にケーキいっぱいあるんだけど」


「これは夕ご飯と違うでしゅ。実験に世界樹の実をちゅかってたにゃ。しょれにしてもお土産たくさんあるでしゅね。今日はお給料日でしゅか」


 大きな保冷バッグをメイド達が取り囲んであれこれ好みのケーキがあるか物色している。起伏の少ない表情ながら、うきうきしているのが伝わってきて微笑ましい。


「それがお土産を買って帰ろうと思ったら、すでに用意されてたのよ。お会計も済んでたし。スタッフさんに聞いても『すてきな方でした~』って、何か目がハートになってて要領を得なくて……。レン君が言うにはもしかしたら親戚の人がお店にいたのかもって。家族で外食してる時とかにその親戚の人がいるとしょっちゅうそういう事になるんですって」


「でーと見られてたでしゅか」


「ハッ、実は親御さんがこっそり一緒に見てたパターンもあるのかしら!? やっぱり早めに帰っておいてよかったわ……」


 りゅおってぃの金離れのよさが、却って親族一同監視してるぞアピールの気配を生み出していた。


「よし、キーマたんも充分吸えたし、ご飯食べてミラーに行くわよー!」


 ホムンクルスメイド達が腕によりをかけて作った夕飯とお土産のケーキを皆で食べる。ケーキはレンが食べていたキャラメルシフォンケーキだ。


「推しと同じケーキっ! もっと仲良くなれたら一口シェアとか出来るのかしらっ。……あ、でもそういうのが苦手な人もいるわよね」


「我はましゅたーとしぇあしゅてもいいにゃ」


 キーマが自分の食べていたケーキの皿を押し出す。


「キーマたんのそゆとこキュンとするわっ」


 キーマはさらに少し照れくさそうにあるものをそっと押し出す。


「これもましゅたーとしぇあしゅるにゃ」


 それは膝を抱えてコンパクトにまとまったキーマの前身であるリッチだった。


「きゃあっ!?」


 急に食卓に全身骨格を出されると、異様な雰囲気になってちょっとコワイ。


「実験完りょーしゅたから持ってくでしゅよ」


「さっき言ってたやつ? 自分の体で実験してたの?」


「我の体はこの可愛いモフモフでしゅよ。我は天ちゅ開闢(かいびゃく)からモフモフにゃ」


 長いふわふわしっぽで床をペシペシ叩いて可愛らしい抗議ポーズを取るキーマ。


「どこまで遡ってもモフモフ可愛いキーマたんは何の実験をしたの?」


「世界樹の実を精製しゅて骨格コーティングと魔力回路のアップデートしゅたにゃ。負の魔力を正の魔力に転換しゅる事で魔力伝導率も受肉時間も遠隔操作性も大幅アップ。リッチでありながら治癒魔じゅちゅもこれでちゅかえるにゃー!」


 高らかに宣言するキーマを取り囲んで、メイド達が拍手喝采と手作り紙吹雪で実験成果をねぎらった。


「が、頑張ったのねキーマたん」


「これでましゅたーがまた溺れてもしゅぐ助けられるにゃ」


「気持ちはすっごく嬉しいけど盛大なフラグ立てないで!?」


 キーマにとってはお風呂で寝落ちした梛を自力で助けられなかった事に、忸怩たる思いがあったのだろう。梛はキーマをぎゅっと抱きしめた。


「ありがと、キーマたん。私、キーマたんをひとりぼっちになんかしないから。ずっとずっと一緒よ」


 赤ん坊のようにだっこされたキーマがクルクルと喉を鳴らして目を細める。


「我ましゅたーとずっと一緒にゃ」


「キーマたんが愛しすぎるわっ! ミラーに行ったらすぐ召喚教授に召喚札もらって呼ぶから!」


「あ、我実験でちゅかれたから今日は呼ばなくていいにゃ。もう寝るにゃ」


「急に死海レベルのしょっぱい対応! も、もっと甘えてキーマたん!」


 ぐいーんと両手で梛の大きな胸を突っ張ると、キーマはあっさり熱い抱擁からすり抜けた。


「我眠いにゃ。また今度にするにゃ。おやしゅみ、ましゅたー」


 仕事帰りのサラリーマンのようにおっさんくさい足取りで、キーマはしっぽだけ振って寝室に去っていった。


 眠いのも事実だが、何の躊躇もなく自分が欲していた言葉を伝える梛のまっすぐな思いが心に響いて、涙が零れそうになるのをこらえる元魔族のおっさんキーマだった。


「お、お休み……そんなしょっぱいキーマたんもしゅき……」 


 がっくりとうなだれる梛をメイド達が頷きながら肩を軽く叩くと、すぐに夕食後の後片付けに取り掛かる。


「皆、切り替え早いわ……。折角家事をしてもらってるんだから、私もいつまでもめげてる場合じゃないわね。レン君を助けに行くわよ!」


 ソファに座って青いキューブを呼び出すと、梛はすぐにミラーへと魂を飛ばした。


「姉様の膝枕姉様の膝枕姉様の膝枕姉様の膝枕ぁ……」


 月光に照らされて浮かび上がったステンドグラス召喚陣の中心に置かれた長椅子で、召喚教授がホムンクルスメイドの膝枕で甘えていた。


「いやーっ!?」


 反射的に立ち上がると放り出された召喚教授の頭をつかんで顔面に膝蹴りをかます。


「ひとがメイドちゃんから離れてる隙に何てことするのよ、このセクハラ教授っ!」


「ごっ、誤解です……」


「セクハラ行為を五回も!?」


「ちちちち違います、女神の御使いよ! そそそそそちらのメイドから膝枕を申し出て……!」


「えっ!? メイドちゃんの方が!?」


 梛が意識を向けると、メイドの魂が確かにこくりと頷いた。


「何でそんな視聴者しか喜ばないサービスシーンの提供を!?」


 梛の問いに答えるように、メイドの腕が動くとエプロンのポケットからペンとメモ用紙を取り出して流麗な文字を綴り出す。文字というよりほとんどピクトグラムだった。それを最近出番がご無沙汰だった光文字が翻訳する。


『部屋の片付けが完了したので他に仕事はないか確認しました』


「えっ? 片付け?」


 言われてみれば、部屋が随分とすっきりしている。梛がリアルに戻る際に大雪崩を起こしていた本の山がない。本の山の奥に隠れていた本棚に、全て整然と並べられている。梛がリアルに帰ったあと、この部屋でメイドの仕事をしていたらしい。


「こんなに広い部屋だったのね……」


 掃除もされて、石畳も壁も家具もピカピカに磨かれて輝いていた。


「たたた頼んだ仕事を全部あっという間にこなすので、そのあの私が何か寛げるものを頼むと楽器の演奏と詩の朗読と膝枕が出来ると……!」


「最終的に膝枕を選んだのあなたじゃないのっ!」


「魔竜姫様そっくりのおみ足で膝枕を提案されて私が断れるとでも……!?」


「挙動不審になるほど人からの陰口とコンプラに怯えてるのに断りなさいよ。そもそも選択肢に何で膝枕入れたの、メイドちゃん?」


『オプションとして備わっています』


「キーマたんにメイド制作依頼した変態貴族の注文ね!?」


 呆れながらもホムンクルスメイドが特にストレスを感じていないようなので梛は安心した。


「膝枕の件はまあ、置いとくとして、地下水路の入り口ってどこなのかしら。レン君がどこから入ったかだけでも分かると助かるんだけど……」


 キーマは地下水路の上は広大な森林が広がっていると言っていた。梛が覚えているのはチュートリアルダンジョンと地下水路がつながっている辺りだけで、魔導学園からは少々距離もある。


「それなら調査してもらったギルドの方の報告書がここに……」


 意外としっかりとしたレポートになっていて、水路の地図や調査にかかった時間などこと細かに記載されている。


「入り口……東塔にあるのね」


 大騒ぎをしたばかりで梛の顔というか、胸の大きさを覚えている生徒もまだたくさんいるはずだ。


「そそそその辺は訓練施設の裏側になっているので人目にはつきにくい場所です」


「だったら今から見に行ってくるわ」


「でしたらあのこれを……」


 恐る恐る召喚教授が差し出したのは、ニビが見せてくれたのと似たような水晶の球体だった。


「姿と気配が隠せます」


「えっ、助かるわ。ありがとう」


 何気なく言った梛の言葉に召喚教授がのけぞって後頭部を長椅子の角に打ち付ける。


「姉様に褒められたー!!」


「喜び方がコワい! あと姉様じゃないから!」


 何で自分より年上の魔竜姫四天王から姉扱いされるのか。そういえばリアルのレン君もやっぱりおねえさんって言ってた。


「そろそろ名前で呼んでほしいわー……」


 研究室から出る際に梛がぽつりと呟いたのを、召喚教授の尖り耳はしっかりと聞き取っていた。


「えっ……ななななな名前呼び……っ? いいんですか……っ?」


 何かを勘違いして乙女のように頬を染め、梛を見送る召喚教授だった。

いつもお読み下さってありがとうございます!6月7日に1話からまとめ読みして下さった方もありがとうございます!!少しでも気分転換になれましたら幸いです!皆様に読んで頂ける事が日々の支えになっております。

次回更新は6月20日頃を予定しております。


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