54話 これってデートかしらー!
ふんわりとやわらかな生地にたっぷりと甘いキャラメルのかかったシフォンケーキが口の中に運ばれていくたびに、つやつや輝くぷにぷにほっぺ。
可愛い! つんつんしたいわ! でもヤバイ大人だと思われたくないからガマンするけど!
推しである異世界ミラーのイケメン鬼人族レン、その転生者で、小学生の槐愛蓮が美味しそうにケーキを食べるのを、内心悶えながら福籠梛は見守っていた。
「レン君、食べ方とってもきれいね」
小学生ならもうちょっと散らかしたり口周りをクリームだらけにしそうなものなのに、おしゃれなケーキプレートもレンのぷにぷにほっぺもお手入れされたばかりのようにきれいだ。まるでバラエティ番組で人気の、食べ方のキレイな大食いタレントさんのように、口の中へとシフォンケーキがどんどん吸い込まれていく。
「何て隙のない所作なの!? アニメでよくある『ふふっ、ほっぺにクリームついてるわよ。私がとってあ・げ・る』的なシチュエーションが全然できそうにないわ!」
思わず自宅待機している白キマイラのキーマに小声でぼやく。
「我が体じゅーにクリームくっちゅけてましゅたーに取ってもらうから、ケーキのお土産たっぷりお願いしゅるにゃ」
「キーマたんのモフモフに顔を埋めてクリーム舐めちゃうかもしれない魅惑の提案……!」
「ましゅたーの唾液まみれににゃるのはちょっと遠慮するにゃ」
「そこまで誘っておいて何でおととい来やがれ的な塩対応なのっ?!」
キャラメルクリームの甘さを堪能していたレンは、梛とキーマのやり取りに気付かずに笑顔で答えた。
「おじいちゃんとおばあちゃんに、一緒にご飯を食べる人と楽しくいられるようにって、いっぱい教えてもらったんです。テーブルにひじをつかないようにとか、噛む時にくちゃくちゃ音を立てないようにとか、お箸でお皿を動かさないようにとか」
「本格的ね。礼儀作法とかに厳しいお家なの?」
「いえ、逆って言うか、僕にたくさんご飯食べさせるついでに、色々教えてくれるって言うか。間違えても全然叱られた事ないし」
「孫甘やかしあるある!」
「お母さんのお仕事の都合で、僕、最近までおじいちゃん達のお家にいたんだ。お母さんと会えないの、すごく寂しくて、でもご飯食べてる時は元気になるから、毎日色んな料理のお店に連れてってもらったんだ。すごく美味しくてたくさん食べてたら、あっという間にこの体型になっちゃって、帰ってきたお母さんがびっくりしてた……」
「分かるわ! 私も似たようなものよっ」
ガトーショコラを頬張りながら梛は何度も頷いた。
「おねえさん、別に太ってないよ……?」
「子供の頃は結構レン君と似たような感じだったのよ。おじいちゃんは山へ柴犬と狩りに、おばあちゃんは川へ戦闘に」
「えっ、昔話のイントロっぽいノリでおばあちゃんは何と戦ったんですか……?」
「あっ、釣りよ、川釣り。よく釣りは自分との闘いだって言ってるから。ちなみにおじいちゃんは山菜採りとか罠猟の方ね。多分鹿肉?」
「たぶん?」
「もう捌いてあるのしか見た事なくって。何のお肉か聞いたらおじいちゃんが鹿肉みたいなもんだって」
「みたいなもの」
「すっごく美味しくっていっぱい食べると二人とも喜んでくれるから、調子に乗ってガンガン食べてたのよ。案の定、小学校に入学する時にはぽっちゃりキャラとしてデビューしたわ」
でもあの頃はクラスのみんなともよく遊んだりして、楽しかった思い出もある。ちょっと田舎で人数が少ない廃校寸前の小学校だっただからだろうか。みんなとは家族とか親戚みたいな間柄だった。
「どうやってやせたんですか? 僕、いまお医者さんに体重を減らすように言われてて頑張ってるんだけど、あんまり減らなくて……。あっ、今日は好きなの食べていいって、お母さんにチートデーにしてもらってます……」
それでもカロリーを気にしてシフォンケーキにしたものの、たっぷりかかったキャラメルの誘惑に抗えなかったレンの恥ずかしそうな顔に、梛は再び脳内で悶えまくる。
照れくさそうなレン君可愛い! 推しがリアルでも可愛すぎるわ!
「痩せたのは当時人気だったアニメにハマって……」
ハッ、オタバレしたらレン君に引かれちゃうかしらっ!? でも真剣に質問してもらったんだから、私も真面目に答えたいわ!
「その、ロケ地巡りとか、声優さんの舞台とか、自分の好きなものいっぱい見に行ってたら、いつの間にか今の体型になってて……」
ただ成長期と重なったからなのか元々の体質なのか、胸とお尻のお肉は残って、中学生の頃からそこだけさらにボリュームが増してしまった。
その辺りからクラスメイトの反応が変わってきた。男子からは下ネタオンパレードな言動で不必要に接触を試みられ、女子からは梛を敵認定するグループと遠距離警戒するグループと一部友好的だがやたら梛の胸で興奮するグループに分かれてややこしい対人関係が形成された。
セクハラを撃退しても友達を作ろうとしても何故かラスボスとの最終決戦並みに問題があらぬ方向へと拡大する。今まで愛情たっぷりの祖父母と大らかな小学校のクラスメイトとの交流の中で、のんびりマイペースに育った梛にとっては完全にキャパオーバーな事態となった。
そしてちょっぴり明後日の方向へ悟った。
ぼっちになればいいんだわ!
己の未成熟な心とまだ成長中の胸とお尻の平安を守るため、ややこしい人間関係を避けに避けまくって梛は孤高の存在となる事を選んだ。
だが転生者となり異世界ミラーで様々な種族の人々と出会うようになった今なら分かる。
ぼっちにこだわる必要はなかったかもしれない……!
もう少し人間関係の経験値を重ねていれば、あの世紀末のように荒廃していた中学時代にも、悪意と下心以外の感情で接してくれる誰かと良好な交流関係を持てていたかもしれない。オタ友なら学校の外でも作れたはずだ。
今こうして推しのレン君とデートしてケーキを食べているみたいに。
「……これってデートなのかしら……?」
レンからリアルの連絡先をもらってホイホイ来てしまったけれど、何か大切な話があるんじゃないのかしら。
「推し活かあ……」
「ダイエットって考えると大変そうだから、好きな事いっぱいしてればいいんじゃないかしら」
「好きな事……異世界でレンお兄さんになって冒険するのが、僕好きです」
シフォンケーキの最後の一切れを食べると、レンはフォークをそっとケーキプレートの上に置いた。あれも多分マナー通りにやってるんだわ、と梛はいい加減に置いていた自分のフォークの位置をなおした。
「召喚科の教授に聞いたわ。ミラーのレン君、地下水路の探索に行ってから行方が分からなくなってるって」
レンはどこかほっとしたように頷く。
「楼閣群島から魔導学園に護衛したついでに、競技祭典の準備を色々手伝ってたら西塔の生徒さんが何人か行方不明になって。探しに行ったんだけど、途中で不意打ちくらって意識が離れかけちゃったんだ」
「そうだったのね。怪我とか大丈夫?」
「ダメージ自体はほとんどなくて、すぐに起きようとしたんだけど、体に入れなくなっちゃって。多分レンお兄さんが危ないから僕の意識が入らないようにしてるのかも……魂自体はつながってるから、無事なのは分かるんだけど、少しずつ弱ってるみたいだし。何だか力が抜けてく感じがするんだ」
「そうなの!? 私すぐ助けに行くわっ!」
「助けてくれるの? ナギおねえさん……」
「当たり前でしょ! レン君は一緒にダンジョンとか楼閣群島を冒険した仲間よ!」
そして私の推しなのよー!
「ありがとう、ナギおねえさん……! よかった……僕のせいでレンお兄さんを危ない目に合わせたのに、相談できる人がほとんどいなくてどうしようって……」
レンの細くなった目から涙が零れる。今まで不安で仕方なかったのだろう。梛は慌ててハンカチを差し出した。
「自分の事追い詰めないでレン君。ミラーのレン君だって、体の主導権を取り返そうと思ったら出来たみたいなのに、今までしてなかったって事はレン君の判断に納得してたって事よ」
「そう……なのかな……」
「そうよー。こないだ私が体貸してもらってたケンタウロスのシャイヤールさんなんて、全然話聞かずに時速100キロで突っ走るタイプだったから大変だったのよー?」
梛の言葉に涙をぬぐいながらくすりと笑うレン。
「あのまっしろいケンタウロスさん、すっごく強そうだったね。……あれ? ナギおねえさん、また転生先変わったの?」
「そうよ。今度はホムンクルスのメイドちゃんで戦闘もできるから、大丈夫。レン君の事、絶対助けに行くわね」
「はいっ、お願いします!」
希望に満ちたレンの笑顔にクラクラしながら、梛は拳を握りしめた。
鬼人族のレン君を助けて、異世界とリアル、両方のレン君から認知してもらうわ!!
動機にだいぶん不純物が混ざっていたが、俄然やる気が出た梛だった。
いつもお読み下さって本当にありがとうございます! 初めましての方もお越し下さってありがとうございます!!若干睡眠不足で文字入力がいつも以上に誤字だらけです。チェック漏れあったら申し訳ございません……。後書きも前書きに書いてました……皆様は睡眠時間確保してお体大切になさって下さいませ……更新したらしっかり寝ます……。
次回更新は6月10日頃を予定しております。




