53話 リアルのレン君と会えたわーっ!
福籠梛は噴水公園で推しのレンを待っていた。
ついに梛は推しと現実で会うことになったのだ。
「妄想じゃないわっ! 私、本当にリアルのレン君と会えるのねっ!」
感動で震えると、梛の大きな胸もプルップルのプリンのように揺れる。たまたまその揺れを目撃してガン見した通りがかりのランナーはコースアウトして芝生を果てしなく転がっていき、デート中の某カレシはカノジョから破局パンチをくらって空を大旋回しながら舞い上がる、そんなうららかな昼下がり。
「緊張するわ……。キーマたん、私おかしくない?」
お気に入りのミニワンピースに可愛いパンプス。潤んだたれ目とぽってりした唇で顔立ちが派手にならないよう、透明感と清潔感重視な子供が怖がらないナチュラルメイク。仕事では邪魔にならないようにまとめて結ぶ事の多い長い黒髪も、今日は毛先を巻いてサイドからの三つ編みでゆるふわなハーフアップにアレンジした。
そして目印には自分が異世界ミラーでのナギだと証明するために、レンと一緒に手に入れたレアアイテム、元『貔貅の守り』で今は『レン君の守り』に改名してしまっている、宝石でできた獣の像。
「ましゅたーの言動はちゅね日頃ユカイにゃ。我のちゅぎに可愛いでしゅよ」
「発言が甘じょっぱいキーマたんが可愛くて仕方ないわっ!」
「気をちゅけないとひとりでお話しゅるヒトに思われましゅよ」
家でお留守番しているキーマの声は、魂のつながりがある梛にしか聞こえていない。
「だって緊張しすぎて落ち着かないんだもの……こんな事なら、私だって分かる目印にキーマたん連れてきたらよかったわ……」
「我可愛いから目立ちしゅぎるにゃ」
はふうっ、と悩まし気な溜息をつき、腕で自分の体を抱きしめると胸がさらに押し寄せられて谷間の艶めかしさを浮き立たせる。
通りすがりの学生達が日本の未来について白熱した意見を交わしながら、爽やかな笑顔の下では理性と欲望が巨乳美女に話しかけるか否かをかけた戦いのゴングを鳴らしていた。
「えしゅえにゅえしゅで送ったメッセージも緊張ししゅぎだったでしゅ」
突然のご連絡を失礼致します。
株式会社Nanakusaエンタテインメント異世界特別営業推進課の福籠梛と申します。
異世界ミラーの魔導学園召喚科教授のご紹介でメールをさせて頂きました。
「SNSね? だっていくら推しとはいえ、小学生にどんなメールを送ればいいのか分からないもの……それに親御さんが見るかもしれないんだから、ちょっとでも信用できる相手だって思われたいのよっ! 傍目から見れば子供に会いたがる25歳の社会人よ! 危険な香りしかしないわっ!」
「おねーさん?」
後ろから声を掛けられて、梛はハッと我に返る。レン君? レン君なの!?
「おねーさん、大丈夫? さっきから溜息ついてるけど、なんか困りごと? よかったら相談のるよ。オレら、一応某有名大学の学生だし? 問題解決力はそこらの連中よりあると思うんだ……よね……」
そこにいたのは、巨乳美女への欲望が勝利した通りすがりの学生達だった。カッコつけて声を掛けたまではよかったが、振り返った梛と間近で対面して学生達はその衝撃に目を見張った。
うおおおおおおーっ! でけえええええええええー!! しかもエロ可愛美女おおおおおおおお!!
一瞬で脳内の語彙力90%が巨乳美女に浸食された。
デッカ……この後どうやってデッカああああ……話を続ければいい!? 女子って巨乳ううううネコ好きだよね? シュレディンガーのむっちむちいいいいい猫でも語るか!? ……ダメだ、巨乳が見事過ぎて頭ん中がぷるっぷるな事しか考えられなくなるううううう!
「いえ、間に合ってますのでいりません」
梛は冷ややかな目で断った。
「悪質訪問リフォーム業者を見るような目! ……そう言わずに5分だけでも! オレら全然アヤしくないっすよ!」
なおも食い下がる学生達の後ろから、毅然とした声が響き渡った。
「止めて下さい! いやがってますよ!」
そこにいたのは、しっかりと足を踏みしめて毅然と立ち向かうむっちり体型の少年だった。
「え、あっ、ああ、ご、ごめん。何だ、親子連れか……」
割と常識的な学生達は、子供の気迫に理性を取り戻してすごすごとその場を去っていった。
「れ……レン、君……」
まんまるお腹にまんまる顔の重量感あふれる少年は、ぐっと手を握りしめて深々と梛に頭を下げた。
「リッ、リアルでははじめまして! 槐 愛蓮です。僕が転生者で鬼人族だった、レン……です……」
徐々に声が小さくなる。頭はずっと下げたままだ。
「ましゅたー、ましゅたー。ご挨拶しゅてもらってるでしゅよ」
「ハッ、ありがと、キーマたん!」
フリーズしていた梛はキーマの声で我に返ると少年と同じぐらい深々と頭を下げた。
「こっ、こちらこそ初めましてっ! 福籠梛と申しますっ! ミラーでは竜牙兵の時とか楼閣群島で大変お世話になりました! ナギでしゅッ」
緊張し過ぎて語尾を噛んだ上に声が裏返ってしまった。
「……」
沈黙に耐えられなくなって梛は赤面して笑った。
「もうっ、ごめんねー。レン君に会うの楽しみ過ぎて緊張で嚙んじゃったわー」
「そ、そんな謝らないで下さい。僕もナギおねえさんに会いたかったです」
レンの言葉に梛の涙腺が緩む。良かった……! ストーカーな大人に認識されてなくて良かった……!
「でも、おんなじぐらい会うのがこわくて……」
「やっぱり危ない大人だと思われてたっ!?」
衝撃を受ける梛に慌てて手を振るレン。
「お、思ってません! そうじゃなくて、僕が、ミラーのレンと全然違うから……」
顔も体も腕も足もたっぷりついた脂肪で大きいだけで、異世界のレンのように引き締まった筋肉はどこにもない。クラスメイトの女子はみんな、細くて足が速くてサッカーやバスケができる男子に夢中で、太って足が遅いレンの事など歯牙にもかけない。
「あら、レン君が現れた時そっくりだったからすぐ分かったわよ、私」
「えっ?」
「さっき私を助けようとしてくれてた時の目が、異世界のレン君とおんなじだったもの。カッコよかったわよ!」
レンは自分のお餅のようなほっぺに両手をあてて、目を瞬かせた。
お肉で引き伸ばされて糸目になりかけているが、学生達に立ち向かっていた時の目は異世界ミラーで梛達を助けようと奮闘するレンの瞳の輝きそのものだった。リアルでレンが存在する事を実感して、感動のあまりフリーズしていた梛であった。
「そ……そっかあ……」
緊張していたレンのまんまる顔に笑顔がようやく浮かんだ。
「それにお洒落なコーディネイトね」
レンの服はブランド物のセットアップスーツ。きちんと体型にあったこなれ感のある着こなしを見ていると、梛よりよっぽどお洒落の素養が高い事がうかがえる。
「あ、これお母さんが選んでくれたんです。いつもお世話になってる人に会うんだからちゃんとした格好しなさいって」
「素敵なお母様ね。で、どちらにいらっしゃるのかしら?」
梛が周囲を見渡すと、レンは笑顔で言った。
「今日は二人で楽しんでらっしゃいって言ってました」
「親御さんいないのーっ!?」
いくら異世界ミラーで面識はあるとは言えほぼ初対面の大人と会うのに、保護者同伴じゃないってどういう事ー!
「もしかして私のメール、お母様には読んでもらってないのかしら。同学年のお友達だと思われてる?」
「ちゃんと読んでましたよ」
「読んだのに二人っきりにするのーっ!?」
「ナギおねえさんの働いてる会社に親戚が働いていて、ナギおねえさんの事、どんな人か聞いたみたいです」
「あっ、そうなの? それなら一応大丈夫かしら……」
その親戚が誰かは知らないが、とりあえず梛の事は信用できる相手だとレンの母親に伝わったらしい。
「それじゃあ、立ち話もなんだし、どこかでお茶でもしながらお話しない? レン君どこか行ってみたいお店とかある?」
「えっと、ナギおねえさん、甘いもの好きですか?」
「ええ、大好きよ!」
「じゃあ、この近くにすっごくおいしいケーキのお店があるので、そこに行ってみませんか」
「もちろんよ!」
満面の笑顔で梛は頷いた。レンの案内で、梛達は近場にある人気の古民家カフェへと向かう。
推しにエスコートしてもらえるなんてっ! これはもうデートと言っても過言ではないわよねっ!
「二名様ですね? 本日親子割デーとなっておりまして、こちらのメニューがおススメです」
デートじゃなくて傍目には親子連れにしか見られてなかった……!
「そういえば私、年齢的には子供が二、三人いてもおかしくないんだったわ……」
がっくりとうなだれる梛だったが、すぐに美味しそうなメニューのケーキに気を取られてレンと一緒に選んでいく。
その様子を割とすぐ近くの席から観葉植物越しにこっそり伺う人物がいた。
「課長、予定めちゃくちゃ早く済んだからって会社戻るんすか?」
「直帰してもやる事ないしなー……。何か仕事以外で張り合いがないねんなー」
「それ働き過ぎっすよ。家帰りましょうよ。……って、さっきからどうしたんすか。コーヒー冷めちゃいますよ」
「いや、何かいとこの子がおるなー思って」
商談後に部下と遅めの昼休憩を取っているりゅおってぃこと宇薄課長だ。
槐愛蓮は従甥にあたるが、一緒にいるのがどうも母親っぽくない。何となく気になって観察していると、相手が店員を探して立ち上がり、店内を軽く見回した。
「……!」
シロたんやんかー!!!!!!!!
何やあの可愛いカッコ普段見せへんやんあんな髪もミニのワンピも、いや可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いどんだけ可愛いねん待ってくれ可愛すぎんか最高やんかもうアカンわどうしてくれんねんめっちゃ可愛いでホンマ何であんな可愛いねん嘘やろマジか俺殺す気かー!!!!!
「……」
「課長、課長? 胸押さえてどうしたんですか……?」
「……予定全部済んだし、俺今日はやっぱり直帰するわ。支払い俺がやっとくし、お前も帰りや」
「あざっす。どうしたんすか急に? まあ、帰りますけど」
「世界が眩しいねん……」
「えっ、白内障っすか? 検査行った方がいいっすね。じゃあ、お疲れっした」
「気ぃ付けて帰りやー」
どこか悟ったかのような穏やかな笑みを浮かべてりゅおってぃは部下を見送ると、こっそり店員を呼んでレンと梛のテーブルの会計を済ませてから店を立ち去った。
「よし、帰りにシロたんに似合うアクセサリー買って帰るか」
ごく当然のことをしているかのように、うっきうきの足取りでりゅおってぃは高級ブランド店が立ち並ぶ通りに向かっていった。
一方レンと梛はどのケーキを食べようかまだ二人して楽しく悩むのに夢中で、支払いが済んでいる事など知る由もなかった。
いつもお読み下さってありがとうございます!ここ数日まとめ読みして下さる方もいて本当にありがとうございます!!励みになります。
次回更新は5月30日頃を予定しております。
急に暑くなりましたが、お体ご自愛下さいませ。




