52話 女子寮に来たわー!
今日はレン君と初デートの日! お気に入りのミニワンピースでめいっぱいオシャレしたわ!
待ち合わせの噴水公園。胸の高鳴りをおさえながら待っていると、ついにリアルのレン君が来てくれたのー!
「ナギおねえさーん! リアルのレンでーす!」
私に爽やかな笑顔で駆け寄ってきたのは、異世界ミラーでの鬼人族のレン君そっくりのレン君だったのよー!
「あなたがリアルのレン君!? とってもおっきいのね! 本当に小学生!?」
「もちろんです! ランドセルも背負ってますよ! 最近の小学生は成長が速いんです!」
「そうなのねー! とってもカッコイイわ!」
「ましゅたー、しょの設定だいぶん無理があるにゃ」
「ハッ!?」
現実世界から可愛い白キマイラのキーマにツッコまれ、ようやく福籠梛は妄想デートから正気に戻った。
推しのレンから、召喚教授伝いでリアルでの連絡先を渡された事で、完全に浮かれまくって脳内暴走していたのである。
「あらっ、ここは? ニビ君はどこ行ったの?」
気が付けば女子生徒に先導されて、全然見覚えのない通路を荷物を抱えて歩いていた。
通路の両側面には等間隔で扉が並び、扉の間には生徒達が物置やら休憩場所に使っているらしいフリースペースのような窪み。窪みの天井には小さな丸い採光窓。
差し込む光の先には必ずと言っていいほど色彩豊かな花々が活けられ、無機質な通路の空気を和らげていた。
「そうか、異世界って言うより現代のマンションっぽいのよね」
この魔導学園に潜入してからずっと覚えていた違和感の正体がようやくはっきりした。塔の外観は大きな二枚貝なのに、あまりにも内部構造が機能重視のデザインなのだ。
東塔は貴族の資金力にあかせて内装に手をかけていたようだが、西塔では異世界ミラー特有の民族的デザインやファンタジー感がすっぽりと抜け落ちてしまっている感じがする。
「何か言ったか? もうすぐそこだ」
先導していた女子生徒が声を掛けてくる。鍛えられた体幹による美しい立ち姿とまとめられた赤い髪。何だか見覚えがある。頭の中で『赤っぽい人』検索をかけてみる。
レン君。レン君はグラデーションな赤い片角がカッコイイのよ。髪は黒だから違うけど。
眼鏡令嬢の眼鏡執事。性別も身長も違うけど髪色とかちょっと似てるのよね。勇者の末裔だっけ。
らぶちゅるちゅの吸血鬼のきゅーみーちゃん。赤って言うより桃色の髪よね。きゃわいいわっ。
獣人生徒のニビ君。一房ピンクっぽいけどシッポだったわー。
後は……キーマたんが隠れ住んでいた館に突入してきた騎士達の中にいた、スライム培養部屋で偉そうなだけの伯爵家騎士を制止していたくっころ女騎士さんが髪赤くなかったかしら?
と言うか、そっくりなんだけど本人? 騎士じゃなかったの?
「きょー授に呼ばれて女子寮の案内しゅてもらってるにゃ。男子が入ったらだめなとこでしゅ」
梛が憑依したホムンクルスメイドの額の宝石伝いに、キーマがこっそり説明する。
「女子寮? 何で?」
「きょー授が特例留学生枠でましゅたーの学園滞在を許可しゅたからでしゅよ」
「特例留学生? エリート枠って事?」
「海外で問題起こした貴族の子息が更生アピールしゅるためのトンズラ手段って言ってたにゃ」
「不祥事生徒扱い!」
「ここが君の部屋だ。一応個室になる」
扉を開けて部屋に入ると、何だか懐かしい感じがする。以前住んでいたマンションと同じぐらいの間取りだ。浴室とトイレ、小さいキッチンがついてちゃんと部屋の間に仕切りがある1Kタイプだ。
「狭いかもしれないが、西塔の寮部屋では広い方だから我慢してくれ」
梛を貴族だと思っているのか、赤髪の女子生徒が少し申し訳なさそうにしている。
「えっ、大丈夫よ。全然狭くなんてないもの。窓も広くて明るいし……」
言った途端、窓に影が差して部屋が暗くなる。
「え?」
思わず窓の外を見ると、そこにはこちらを覗き込む大きな目がふたつ。
「きゃーっ!?」
「みゃーっ?!」
梛が叫ぶと声に驚いて窓の大きな目も悲鳴を上げる。
「こらっ、新入生を驚かせるな」
赤髪女子生徒が窓のベランダに出て、大きな目に向かってたしなめる。
「ごめんなさーい。にび君がでえとしてた女の子見たかったのー」
梛もベランダに出ると、大きな目の持ち主は人懐っこい笑顔を浮かべた。
「うっ、ウサ耳巨人……!?」
中庭にいたのはウサギの耳をした獣人の女子生徒だが、その身長が梛のいる三階の部屋と同じぐらいあった。さらに耳の高さも入れると大体20メートル前後にもなる。
「よろしくなのー」
体は大きいが、ふわふわした髪と口調で可愛い顔立ちをしている。幼い雰囲気とは裏腹に、体型は梛とよく似たむっちむちタイプだ。
「ちょっとスカート大丈夫!? 男子生徒に思春期っぽい言い訳されながらのぞかれるわよっ」
「だいじょうぶー。下は作業着だよー」
「すごい組み合わせね。ジャージみたいなものかしら」
「とりあえず寮内にそんな不届き目的で入ってくる男子生徒はいないから安心してくれ」
赤髪の女子生徒がそう言った途端、中庭に誰かが駆け込んできた。
「妨害工作員よ! 捕まえて!」
工具を持って半泣きになった男子生徒が、鬼の形相をした女子生徒達に追いかけまわされている。
「いたわね、男子」
「いつもはいないんだが」
赤髪女子生徒が溜息をつく間に、中庭にいたウサ耳女子生徒が男子生徒に向かって軽くジャンプした。
「ぴょーんとなー」
轟音とともに男子生徒がウサ耳女子生徒の足の下敷きになった。女子生徒達が拍手喝采でウサ耳女子生徒を褒めたたえる。
「捕まえたよー」
「捕まえたって、結構ドーンて感じのすごい音したけど!?」
「足の裏モフモフだから大丈夫ー」
「ホントに大丈夫!?」
「侵入者に情けはいらん」
赤髪女子生徒がベランダの柵を乗り越えて跳躍する。三階の高さをものともせずに着地すると、ウサ耳女子生徒のモフモフに包まれた足の裏から這い出してきたボロボロの男子生徒の襟首を捕まえる。
「風紀委員に突き出してくる。寮で分からない事があればその都度皆に聞いてくれ。夜型の生徒に対応して門限はないが、食堂は夜中はやってないから何か食べたければ自炊してくれ」
簡潔に説明すると男子生徒をズルズル引きずりながら赤髪女子生徒は去っていった。鬼の形相だった女子生徒達は、今度は赤髪女子生徒の凛々しい姿にキャッキャしながら中庭から去っていく。
「捕まったヒトかわいそーだねー」
「足で遠慮なく踏みつけてたわよ?」
「競技祭典は大事だものー。でもあのヒトも無理矢理やらされてるのー。上流貴族の側仕えの騎士階級の子達がよくあーいう事やらされてるよー。命令に逆らったらお家にメイワクかかっちゃうから、嫌って言えないんだってー」
「それじゃ捕まってもさっきの子のお家が大変になるんじゃない?」
「それはこっそり先輩がうやむやにすると思うのー。先輩も苦労人だからー」
さっきの赤髪女子生徒はウサ耳女子生徒の先輩にあたるらしい。確かにキーマの館でもエラそうな伯爵家騎士に手こずっていた。
「こないだもお仕事して爵位だけ上のえらそーな同僚を危ない目にあわせたって、仕事場が東塔から西塔に左遷になったのー」
「ごふっ」
危ない目って、スライムに憑依して伯爵家騎士を蹴り飛ばしたアレの事かしら? アレの事しかないわよねっ!? つまり私のせいで出世街道から外れちゃった!?
「そ、そそそそれは大変ね……っ」
「先輩は西塔の方が嫌味な上司も面倒臭い同僚もいないからすっごくイイって噛みしめてたー。やりがいがあって楽しいってー」
今の環境の方がお仕事充実出来てる! 少し前の職場の人間関係にもがいていた自分を見ているようだ。
「転職できてよかったわねっ」
「先輩いると嫌がらせ工作も激減するからよかったよー」
ウサ耳をぴよぴよ動かして嬉しそうにしていた女子生徒の制服のポケットから、ぴょこりと見覚えのある姿が顔を出した。
「聖獣ヒカリネズミ!?」
楼閣群島で神殿をカラカラ回していた巨大ハムスターそっくりだ。ウサ耳女子生徒のポケットに入るぐらいだから、多分別のヒカリネズミだとは思うが。梛から見れば熊サイズのハムスターも十分大きく見える。
「聖獣様知ってるのー? この子わたしの人工精霊なのー」
「やっぱり聖獣ヒカリネズミなの?」
「ご先祖様に聖獣様がいるんだよー。作業に戻ってこいって連絡来ちゃったー。行ってくるねー」
ウサ耳女子生徒は手を振ると、さっきより強く中庭を蹴った。向かいにある大型倉庫を軽々と飛び越えていく。
「わーっ!? 跳んでくるんじゃねーっ! 歩いてこーい!!」
「みゃみゃー?! ごめんなさーい!」
ウサ耳女子生徒は着地した先で誰かに怒られていた。
「色んな生徒さんがいるのね……」
嵐が去ったような感覚を覚えながらも、抱えていた荷物を収納スペースに片づけていく。ただの潜入用の小道具だと思っていた制服も自分のサイズとぴったりで、まるでセクシーマッチョ店主には、こうなる事が分かっていたかのようだ。
「とにかく異世界のレン君を探し出してみせるわー!」
「しょの前にこっちの本人に会う連絡しゅるでしゅよ」
「ハッ! そうだわ、連絡先もらったんだった! ひとまず帰らなきゃ!」
いそいそとベッドに横たわり現実へと戻ろうとする。
「待つにゃ」
キーマが鋭く制止した。
「ここでキューブ呼び出しゅたら、探知スキルに引っかかるにゃ。女神の御使いだってバレるでしゅよ」
「そ……そう言えばっ! えっ、じゃあどうするの? 私、帰れないって事!?」
「魔導学園の外に行かないとだめにゃ」
「詰んでるじゃない! 潜入の意味がっ! それにリアルの体はどうするの?」
ホムンクルスの体と違って生身である以上、疲れもするしお腹も空く。
「ましゅたーの体の面倒はこっちでちゃんと見れるから大丈夫にゃ」
「キーマたんが頼もしすぎるっ! でもリアルのレン君と連絡とれないのはすっごい困るわ。学園のどこかに探知スキルに引っかからない場所がないかしら……」
「きょー授に聞くのが速いにゃ」
「それもそうね」
女子寮を出て確認に行くと、今度はいそいそと研究室の入り口まで出迎えにきた召喚教授はあっさりと言った。
「あの魔法陣の中なら反応しません」
それは食堂の定食を召喚していた天窓からの日差しを利用した魔法陣だった。
もうすぐ陽が沈みかけている。
「きゃー!? 早く中に入らないとー!?」
大慌てで駆け込んだせいで、山と積まれた本がバランスを崩して大雪崩を起こしていく。
召喚教授が崩壊する本から身を挺して梛を守り、何とか呼び出したキューブで現実世界へと帰還する。
「あ……危なかったわ……」
肩で荒く息をつき、背中をなでて労わるキーマを抱きしめた。
「あなたの犠牲は忘れないわ、教授……」
「またメイドの足にしがみついて喜んでるにゃ」
「蹴っていいわよ、メイドちゃん!!」
本日もお越し下さいまして本当にありがとうございます!初めましての方も、毎回お読み下さる方にもちょっとでも楽しんで頂ければ幸いです。
次回更新は5月20日頃を予定しております。気温の上下が激しくて大変ですが、熱中症や食中毒など充分お気を付け下さいませ。




