50話 教授に会いに行くわー!
「よお、ニビ。何か女子がウワサしてたんだけど、お前が美少女と一緒にいたって聞……き、巨乳メイド!? ニビが巨乳メイドと本当にデートしてる!?」
魔導学園の西塔を、ニビと名乗る獣人の男子生徒に案内してもらっていた福籠梛は、食堂から出てきた数名の男子生徒に声を掛けられた。
この子達折角おしゃれなデザインの制服をわざわざ着崩してるわ。異世界でもいるのね、ヤンキータイプの生徒って。……って、ちょっと待って、あれは!?
「……豚カツとポテトサラダにコーンスープ! 日替わり定食美味しそう……!」
そろそろ空腹を感じて完全に学食メニューの方に気を取られていた梛に、男子生徒達は物珍しげに近付いてくる。
「嘘だろ!? 何でこんな地味顔補欠野郎がこんな美少女巨乳メイドと……!」
「巨乳メイドうらやましすぎる!」
「巨乳最高! けしからんな!」
「ちょ……ちょっと、みんな失礼だよ! そんな事言ってると……!」
「おいおいそんなに揺れてっと揉んじまうじゃねえか、その巨にゅぐぶぉほーっ!!」
下品な手つきでからかってきたギザ歯の男子生徒の顎に、梛のアッパーカットが炸裂した。
「そんな事言ってると反撃くるよ」
「ニビ、言うの遅えよ……だが、気の強い巨乳メイドはキライじゃないぜ……?」
食堂前の柱を支えにギザ歯男子生徒が髪をかき上げながら立ち上がる。ダメージが大きかったのか、足は生まれたての子鹿のようにプルプルしていた。
「何なのこの乳揉みセクハラ男子」
「待て! 未遂でそんな母乳が出そうなアダ名をつけんな! おれはまだ本当の乳揉みを知らないんだ……っ! おれだって、おれだってカノジョさえできたら……!」
「オマエならすぐにカノジョできるって! こないだコクって一秒でフラれたばっかだけど!」
「もっと爆乳のカワイイ娘が見つかるさ! 貴族クラスの女子全員からウザ男子ランキング一位をとったお前でも!」
悔しがって柱を殴るギザ歯男子生徒に仲間の男子生徒達がもらい泣きしながら励ます。
「ごめんね、魔技科って普段女っ気がないもんだから、女の子来ると変に悪ぶってカッコよく見せようとしちゃうみたいでさ……」
「女子はちょっと悪ぶってる男に弱いだろーが。あの狂フェンリルなんか、新聞でちらっと記事になっただけで学園中の女子からキャーキャー言われてんだぞ?」
この男子生徒達がヤンキーキャラなのは、超絶美青年エルフ長老の影響らしい。
「マギカって何?」
「無視かよ!? まあいい、魔技科とは……」
「ニビ君に聞いてるから、乳揉未遂君はちょっと黙ってて」
「ちちもみすい君……」
「魔道具や水晶人形の構造とか整備とかを勉強するとこだよ」
「水晶、にんぎょう?」
「あ、知らない? うーん、簡単に言うと依代みたいなものかなあ。それに使われる人形のこと。発掘される結晶を使うんだ」
ニビが歩きながら制服のポケットから小さな水晶を取り出して梛の手のひらにのせる。
雑貨店や鉱石の展示即売会でよく見るような、六角柱の水晶だ。だがその中にさらに複雑な多面体の結晶が入っていて、ちらちらと小さな光が明滅している。
「わあ、何か可愛い」
「僕らが使ってる人工精霊も同じ結晶からできてるんだよ」
頭の上にいる小さなふわふわの小鳥を指さしてニビが言った。小鳥はニビの頭を巣の代わりにして落ち着いている。
「ん? ええと、つまりこの結晶が小鳥になるの?」
「形は人それぞれ違うよ。僕の人工精霊は仔犬の姿をしてる。血液で契約するから、自分の血脈に関係のある形状をとりやすいんだ」
「じゃあ、あなたのお友達は鳥の種族の人ってことね」
ふと楼閣群島で出会った鳥人族のキエリの姿が思い浮かんで懐かしい気分になる。
キエリちゃん、楽しく旅が出来てるかしら。チートケンタウロスのシャイヤールさんにめっちゃ振り回されてそうだけど。
「うん……ナギさんにも紹介できればよかったんだけど……」
明らかにニビの表情が暗い。
何かあったのね? ケンカとかした? でも途中で止めちゃうって事はもっと言いづらい事? それとも逆に聞いてほしくてこっちの反応うかがってる感じ?
ラノベ主人公とかでいるわよね。分かりやすく苦笑してヒロインに「な、何よ……!?」とかツッコまれて「いや? ただお前がそんな風に思ってくれてるなんてな」とか言う展開ね。大体この後いい雰囲気になるのよ。苦笑してわざわざ相手がツッコんでくれるなんて、ラノベの主人公特権よねー。リアルでやっても誰も拾ってくれない可能性の方が高いし……って、何の話だったかしら。
そうだわ、私がツッコむべきかツッコまざるべきか。それが問題なのよ!
けれどこの10代特有の繊細な間合いに、20代社会人が多少人生経験積んでるからって知った風な口きいてる感で何かあったかを訊いてもいいものなの? それともラブコメみたいに年上お姉さんポジションを押し出して距離感バグらせながらよかったら相談にのるわよ的に包容力溢れる感じで訊いてみる? ……おかしいわ。かつて自分も10代が確かに存在したはずなのに、思春期の子と話すのってこんなに難しかったかしら……? まさか、これがジェネレーションギャップというものなの!?
思わぬ難題に直面して、梛のコミュ力はフリーズしかけた。何せ学生時代はほぼボッチ。自分から10代男子と話した経験なんてほとんどないし、話しかけた内容もほぼほぼ学校の用事だった気がする。本当はクラスのオタク君達の会話にどれだけ混ざりたかった事か……!
私も深夜アニメの感想とか推しキャラの神回とか熱く語りたかったわよ! でも思わずうっかり話しかけたら、カースト上位の女子とか、チャラい男子が何故か私じゃなくて反応に困っているオタク君達の方をからかうし……彼らの平和なオタク生活を守るためにも混ざりたくても混ざれなかったのよーっ!!
あの時は話しかけてごめんねーっ! あなた達の作品への愛とリスペクトに溢れた推し語りは最高だったわよー!!
「着いたよ、ナギさん。ここが教授の研究室」
「……あら?」
脳内の断崖絶壁で海に向かって己の不甲斐なさと葛藤している間に、入り組んだ通路の奥にある扉の前へたどり着いていた。
「きょーじゅー、いますかー?」
ニビは古びた木のドアを軽くノックすると、そのまま開けて中へと入る。
「えっ、入っていいの?」
「大丈夫だよ、危ない時は鍵かかってるから」
「危ない時って何?」
「召喚の実験してる時とか」
部屋の中はまるで物置のように古い本が積み上げられ、危ういバランスで天井までそびえ立っていた。
うねる木々の暗い森を歩くが如く、ぐらつく本の山を避けながら、奥へ奥へと進むと、意外にもぽかりと開けた空間が見えた。吹き抜けの天窓に嵌められたステンドグラスで光が色鮮やかに輝いて、磨かれた石畳みへ降り注ぐ。
「高位しょー喚の魔法陣になってるにゃ」
石畳を照らす天窓の輝きは、それ自体が魔法陣の模様となっていた。
陽の光で創られた魔法陣の前に背を向けて一人の青年が立っている。魔法陣に手をかざすと、厳かな声で詠唱する。
「来たれ! 我が飢えを満たせし究極の一品! 本日の日替わり定食召喚!!」
煌々たる輝きが魔法陣から溢れ出ると、中央に顕現したのはさっき食堂で見た豚カツとポテトサラダとコーンスープの定食セットだった。
「きょーじゅー、お腹空いたからってまた召喚術を出前代わりに使って……」
先に本の山を抜け出したニビが呆れて声を掛けると、びくりと体を震わせて青年が振り返った。褐色肌に耳の尖ったイケメンだ。
「うにゃ? 我このちょー命種見覚えあるでしゅ」
「楼閣群島でハルピュイアに捕まってた人よ。……って、その時キーマたん一緒じゃなかったっけ」
表情を観察しようにも、前髪で目が隠れていてよく分からない。青年はニビを見ると、オドオドしながら早口で呟き始める。
「だってこの時間の食堂若年生徒が溢れて人いっぱいで無理無理無理無理あんな所にご飯独りで食べに行くなんて絶対無理無理無理息忘れる食べ方忘れる手が震えてスープ零れただけで絶対十年そこらしか生きてない人間女子から陰でキモキモ言われるに決まってる……!」
やだ、この人もボッチでジェネレーションギャップコミュ障? 何か親近感湧いちゃう……。
あまりの陰キャぶりに梛が妙な仲間意識を覚えている間にも、ニビが溜息をつきながら召喚陣の日替わり定食を近くの小さなデスクへと運んだ。
「支払いどうしますか?」
食堂の従業員も慣れたものなのか、定食のお盆にしっかり請求書が添付されている。
「ニビ君支払いお願い……お釣りはお駄賃にしていいから」
「だったらお釣りで豪邸が建つ古代金貨なんか渡すの駄目ですよ。もっと細かいのないんですか?」
「えっと、確かこの辺に……」
ローブのポケットから小銭を取り出していた褐色肌召喚青年が、ようやく本の山から抜け出してきた梛の気配に気付く。
やにわに威勢よくローブをひるがえし腰に手を当てると、威圧的なオーラを放って声を張り上げる。
「……よくぞここまで辿り着いたな、冒険者よ! しかしここを越えたくば私を倒してからにしてもらおうか!!」
「な、何ですって!?」
「あ、ごめんねー。教授、人見知りがすごくて、初見の人だと緊張しすぎて昔の現役だった頃の定型文でしか挨拶できなくなるんだ」
「何の挨拶なのよ!?」
「昔は魔竜姫の四天王してたんだって。本当かどうか知らないけど」
「し、四天王!? しかも魔竜姫ちゃんの!?」
魔竜姫、と聞いた途端、高圧的に天を仰ぐポーズで視線を合わせないようにしていた褐色肌召喚青年が梛を勢いよく凝視した。
「ま、まさかそのお姿は……!」
「あ、これは他人の空似です」
今の梛は魔竜姫をモデルにしたホムンクルスの戦闘メイドに憑依しているに過ぎない。
しかし褐色肌召喚青年は梛の足にしがみつくと、頬ずりして泣き出した。
「このふくらはぎの弾力は間違いなく魔竜姫様-っ!!」
「足で個人を識別してるーっ!?」
いつもお読み下さって本当にありがとうございます!皆様のお陰で毎回何とか更新できております。
ほんの一瞬でも息抜きや気分転換になりますように。
次回更新は4月30日頃を予定しております。




