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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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49話 もう目立っちゃったわー!

 左手でスーツケースと袋を抱えて上にふわふわ小鳥をのっけて、右手で獣人生徒の腕をつかみ、福籠(ふくごもり)(なぎ)は魔導学園の廊下を走る。


「逃がすな! 捕まえろ!」


 貴族生徒の取り巻き達が梛と獣人生徒を追いかけてくる。廊下で出くわす他の生徒達は悲鳴や歓声を上げながらも、巻き込まれないように通路の端や教室の中へ素早く避けていった。随分慣れた行動だ。


「駄目だよ、こんな事したら! 君や君のご主人様に迷惑がかかっちゃうよ!」


 ほとんど梛に引っ張られながら、獣人生徒が叫ぶ。


「大丈夫! 私の主は私だけだから!」


「どういう事!? 君、貴族のメイドさんじゃないの!? その格好シュミなの!?」


「細かい事は気にしないで!」


 さすがに推しを探すためにメイドに変装して潜入してますとは言えない。


「みっ、見つけたぞ! このわたしに手を出すとはいい度胸してるな……!」


 廊下の角から鼻血を流しながら現れたのは、さっき梛が顔面に飛び膝蹴りを食らわせた金持ちそうな男子生徒だ。


「ちぃっ、仕留めそこなったわ! どうやって先回りしたの……!?」


「今、仕留めそこなったって言った!?」


 このメイドさん、ヤバい人かもしれない。獣人生徒はそう思いつつも梛に言った。


「先回りじゃなくて、元の場所に戻ってきてるんだよ!」


「精神操作系の魔術で方向感覚が狂わされている!? つまりあいつをどうにかしないと先に進めないってわけね!」


「単に君が迷子になってるだけだよ!?」


 ツッコミにもお構いなしに、梛は荷物ごとふわふわ小鳥を獣人生徒に手渡すと、目の前を遮る金持ちそうな男子生徒の腕をつかんだ。


「何だ、わたしに擦り寄って慈悲でも請うのか? 下品な下級メイドの考えそうな事だな!」


 そう嘲笑った次の瞬間、さらに襟首をつかみ、跳躍した梛のむっちむちの太ももが相手の体と後頭部に巻きついて、金持ちそうな男子生徒は廊下に勢いよくひっくり返されていた。


『戦闘メイドの飛びつき腕ひしぎ逆十字固めが決まったーっ!』


 梛にしか見えないものの、光文字がプロレス実況者並みに熱いフォントで技名を表示する。


 つかんだ腕をさらに締め上げながら、梛は金持ちそうな男子生徒に丁寧な説明を始めた。


「よろしいですか、坊ちゃん。小鳥さんを持つ時は、あのように翼をつかんではいけません。人さし指と中指で、小鳥さんの首をやさしーくはさんで頭を固定し、手のひらで翼を軽く包み込んであげて下さい。くれぐれも体をギュッと握ってはいけません。小鳥さんはストレスでも命を落としてしまうほど繊細な生き物です。先ほどつかんでいた小鳥さんも、今の坊ちゃんと同じような気持ちだった事でしょう」


「いだーっ!? いだいいだいいだだだだだやめやめやめでーっ!?」


 痛みに悲鳴を上げる金持ちそうな男子生徒。しかし腕は何とも言えぬ弾力と柔らかさと熱ではさみ込まれている。あと顔にも太ももが……。


 めちゃくちゃいい匂いのするむっちむちの太ももがー!!


「やっぱりこのまま……やっぱりいだいっ! でも気持ちいい!? 痛い! もちもち! やめろ! やめるな! やめ……やめ……やめないでーー……っ!?」


 その時、金持ちそうな男子生徒はおのれの魂で新たな扉が開かれる音を確かに聞いた。


 そして痛みと興奮の入り交じった幸せそうな顔で、そのまま気を失った。


 梛は静かに立ち上がって乱れたスカートを整えると、明後日に向かって語りかける。


「お相手の肩を壊したり、ご自分が怪我をする場合もある大変危険な技ですので、全国のご主人様、お嬢様は決して真似をなさらないで下さいませ」


「誰に向かって話しかけてるの!?」


 思わずツッコむ獣人生徒だったが、取り巻き達が駆けつける足音を聞きつけて咄嗟に梛の腕をつかんだ。


「ここにいたらマズい。こっちに来て!」


 獣人生徒に手を引かれて走る梛は思った。


 男の子に手をギュッてされてるわーっ! この展開、何だかボーイミーツガールなアニメの1話っぽくない!? もしかして恋とか始まっちゃうのかしらっ!


 滅多にないシチュエーションに、真剣に逃げる獣人生徒の後ろでついスキップしてしまう梛。


 二人は先ほど走っていた廊下より明らかに広い吹き抜けの通路へ出た。学園の双塔の中心辺りだろうか。向かい側にも同じような金属製の通路が並走している。通路は全ておしゃれな唐草模様の格子で囲われていた。


「うわあ……。あれ何?」


 唐草模様の格子越しにさらに見上げると、円形の吹き抜けの上層には巨大なオブジェがあった。艶々と白く輝く球体が赤い鎖で編まれたハンモックの中におさまっている。


 赤い鎖は白い球体を取り巻く金の円環へと放射状に広がってつながれているようだった。


「奉納試合の会場……って、何でスキップしてるの!?」


 そういえば見取り図にも塔の向かい合った所に土星の輪っかみたいな場所があったっけ。祭壇とかどうとか書いてあった覚えがある。


「こっちの方が速く走れるのよ!」


「それ絶対嘘だよね!?」


 ホムンクルスメイドの脚力があればあながち嘘とも言い切れない。多少勾配のある通路も、息切れすらせず難なく登れてしまうのだ。


「い、いたぞ! ま……待て、平民、ども……!」


 吹き抜けに現れた取り巻き達が通路の梛達を見つけて叫ぶ。かなり走り回ったのか、息が上がってヘロヘロだ。


「しつこいわね……」


「大丈夫。もうすぐあきらめるから」


 獣人生徒が言ったように、取り巻き達は球体のオブジェのある辺りまで来ると、自然と追いかけるのを止めて悪態をつくばかりになった。


「あら、本当だわ」


「貴族の生徒は西側の塔には怖がって滅多に入ってこないからね……」


 しばらく通路を走って完全に追ってこない事を確認すると、突き当りにある出窓の休憩スペースでようやく足を止める。オープンタイプなので廊下を行き交う生徒達がチラチラと視線を送るものの、それ以上話しかけてくる事はない。


「ちょっと休ませて……」


 汗をぬぐいながらも律儀に押し付けた荷物を抱えている獣人生徒。真面目な子かもしれない。


「もっちゃもっちゃ、こっちは貴族以外の生徒の生活圏でしゅ。うにゃうにゃ」


「キーマたん、もしかしてまたういろう食べてる?」


「今度はみたらしゅ団子にゃ。タレに世界樹の実をちゅかってみたにゃ。とろーりしゅてて甘くて美味しいでしゅよ」


「キーマたんが作ったの!? 私も食べたいわ!」


「ちゃんとましゅたーの分もたくさんちゅくってましゅよ」


「キーマたんの気配り上手っ!」


「あの……またどこ見て話してるの……?」


 置いていかれてる感のある獣人生徒が恐る恐る声をかける。


「気にしないで。助けてくれてありがとう」


 梛がスーツケースやらを受け取りながら笑顔で言うと、獣人生徒は照れくさいのか顔を背けた。


「べ、別に大した事してないよ……。こっちこそさっきは助けてくれてありがとう……」


 言いながらも獣人生徒の尻尾がウキウキ嬉しそうに振り回されている。犬科っぽいピンと立った耳と太くてしっかりした尻尾は髪と同じ灰色だが、尻尾には一房だけピンクっぽい色が混ざっている。


「でも危ないよ。貴族にあんな事して」


「んー、私もそう思うんだけど、つい……」


 小鳥の扱いがひどいのを見た時、額の宝石を通してキーマが「許せないにゃっ」と、言ったのを聞いた。聞いた途端、体が勝手に動いていた。


 もしかすると、憑依している銀髪ホムンクルスメイドがその言葉に反応したのかもしれない。


 まあ、反応しなくても多分、自分が似たような事をしていたかもしれないが。


「こいつ、友達の人工精霊なんだ。僕のは多分友達が持ってる。早く返してやりたいのに……」


 振り回されていた尻尾がぱたりと力をなくすが、梛の目はモフモフに釘付けになっていた。


「モフモフ尻尾にモフモフのケモ耳! 触りたい……撫で回したいわ……! でもリアルだったら男子高校生の耳とかお尻とかをいきなり触るようなものよね。完全にセクハラメイドに認定されるわ。外見は10代でも中身は大人なんだから、節度ある距離を保たなきゃ……!」


「ましゅたー、我の方が可愛くてモフモフにゃ。我くまなくモフモフのモフモフにゃ。おしゅしゅめはお腹のこの辺のモフモフにゃ」


 ポフポフと自分のお腹を叩いている可愛い音まで聞こえてくる。


「モフ度を張り合ってるキーマたんモフ可愛いわ!」


「……さっきから誰と話してるの? 相手いるんだよね……?」


 梛の呟きが聞こえていた獣人生徒が再び恐る恐る尋ねる。もしかして独り言多めのだいぶんヤバいメイドだと思われているのだろうか。


「相棒のキーマたんよ」


「……ええと、空想的な?」


「ちゃんといるわよ! 今呼んであげるから! 召喚! キーマたん!」


 叫んで手をかざしたが、キーマが現れる気配は全くなかった。静まり返る廊下。何もなかったかのように通り過ぎてくれる生徒達。


「しょー喚札もうないでしゅよ。我行けないにゃ」


 リアルから額の宝石を通してキーマの冷静なツッコミが入る。


「これじゃただの右眼や左腕が疼く思春期の私じゃないっ!」


 ガックリとうなだれる梛に、どう声をかけたものか思案する獣人生徒。


「あ、えーと、でも、召喚って事は教授の知り合い?」


「教授って、楼閣群島から戻ってきた教授の事!?」


 ガバリと起き上がって詰め寄る梛に目が泳ぐ獣人生徒。目の前で揺れる胸の大きさに動揺しながら頷く。


「その教授に会いたいの! 東塔の研究室って、ここからだとどう行けばいいの?」


「えっと、階段で上層階まで登ってから渡り廊下を渡るしかないよ。こっちの昇降機は予算の都合で頻繁には使えないし……」


「分かったわ、階段ね。ありがと!」


「あ、待って!」


 行きかけた梛を獣人生徒が慌てて呼び止める。


「その教授だけこっちの西塔側にいるから、会いたいなら案内するよ」


「えっ、そうなの? じゃあ、お願いしてもいいかしら」


「うん、いいよ。西塔って、東より構造が入り組んでて迷子になりやすいから」


 とってもいい子だわ! 潜入早々悪目立ちしてしまったけれど、こんな協力者と出会えるとは。


「ありがとう。私ナギ。あなたは?」


「入館証と随分名前が違うけど……」


「えっ? あー、えっと、皆からはナギって呼ばれてるの!」


 苦し紛れな言い訳に、獣人生徒は笑いを堪えながら言った。


「うん、僕も皆からニビって呼ばれてる。じゃあ、いこっか。教授の研究室、塔の端っこの方なんだ」


「何で一人だけ違う所なの?」


 楼閣群島でちらりと見ただけなので、どんな性格なのか全く分からない。研究一筋の変人タイプだったら、推しの居場所を教えてもらうのは骨が折れるかもしれない。ゲームみたいに、レア素材を集めてきたら教えてやらん事もないとか言われるパターンも十分あり得る。


 梛の不安をよそにニビは爽やかに言った。


「行方不明になってる間に、貴族派閥の息のかかった他の教授達に研究室奪われちゃったんだって」


「そんなトイレ行ってたら自分の席取られてたみたいなノリでっ!?」

いつもお読み下さる方も初めましての方も本当にありがとうございます!3月28日と4月5日に一気読みして下さった方々もありがとうございますーっ!!

次回は4月20日頃の更新を予定しております。まだまだ寒暖差が大きいので、体調崩されませんようご自愛くださいませ。

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