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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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47話 やっと魔導学園に行くわよー!

「ちょっと、いつまで寝てるつもり? 早く起きないとノーパンで潜入する事になるわよ」


「きゃあっ!?」


 丈の短いメイド服のスカートを押さえ込みながら、ホムンクルスメイド姿の福籠(ふくごもり)(なぎ)は乗っていた荷馬車の背もたれから上体を起こした。


「は、履いてる!? 履いてるわよねっ!?」


「ちょっと、幌で目隠しされてるからって、人の目の前でスカートめくって確かめないでよ。本当に脱がしてたらどうすんの。もうすぐ着くんだからしゃんとしなさいな、お寝坊さん」


 向かいの席に座って在庫表を確認しながら、セクシーマッチョ店主が呆れた顔で梛を見ている。今日も鍛え磨かれた美筋肉をお洒落な三つ揃えのスーツに包んでいた。


「すみません……昨日あんまり寝てなくて」


「激しゅかったにゃ……」


 ホムンクルスメイドの額に取り付けられた宝石を経由してリアルでお留守番をしているキーマもぼやく。


「あらやだ、二人してお楽しみだったの? わたしも混ぜなさいよ」


「お色気要素ゼロでしゅよ……」


「えらく声がやつれてるわね」


「何というかご近所との人間関係と言いますか……」


 超絶美青年エルフの長老セリの能力によって、戦闘によって破壊された梛の部屋は元通りの状態になった。部屋の真ん中に世界樹が育ったままではあったが。


 ベランダと浴室の穴もふさがったし、家具の傷痕もなくなった。流れ落ちた海水も大量に逆流してきて慌てたが、何とか青いキューブに吸い戻す事は出来た。


 しかしその後、事件は起きた。


 セリ達や黒葛(つづら)が帰る直前に、リッチ状態に我慢できなくなったキーマが白キマイラの体に憑依し直したのだ。


「にゃふー……やっぱり我、このモフモフの体が一番でしゅ……落ち着くにゃー……」


 その場でぐるぐる何度か回った後、大きく伸びをして毛繕いを始めるキーマ。


「えっ? 憑依したのか? それ毛皮じゃなかったのかよ」


「毛皮じゃないでしゅ! この可愛いちゅぶらな瞳を見るにゃ! しぇ界中の可愛いモフモフ達に協力しゅてもらってしょ材をあちゅめ、魔王のしてんのー時代で培った人工生体技じゅちゅと夢と浪漫とモフモフ愛をたっぷりちゅぎこんだ我のしゃいこー傑作キマイラにゃ!」


「魔族のおっさん、キャラ変わってんぞ」


 大興奮で黒葛に説明するキーマの言葉に、超絶美青年エルフ長老が反応した。


「てめぇが魔王の四天王……?」


 不動明王みたいな憤怒顔をするセリの圧に、キーマと梛と黒葛はイマジナリーも含めてしっぽを足の間にしまい込む。


「にゃんでバレたでしゅか!?」


「キーマたんがいつも通り自分でボロを出してるのよっ!」


「魔王の四天王のリッチと言えば、狂気の工房長とか呼ばれていたダンジョン魔獣制作者でしたね」


 美人補佐エルフのスズの言葉で黒葛が思い出したように言った。


「冒険者仲間から聞いた事あるな。そいつが作ったダンジョンモンスターは知能が高くて、戦況が不利になるとすぐ逃げたり平気で強い人間側に寝返ったりするって。お前のことだったのかよ」


「あと何故か動物好きと家庭持ちにはほとんど攻撃しないので、独身男性の冒険者がダンジョンに行く前によく生還率を上げる口実として、惚れた相手に結婚を申し込むとか……」


「えっ、マジで? それ成功率どうなんだよ」


「成功するのは元々恋人同士か、かなり親密な間柄だと聞きますよ。寧ろそれ以外は生き残りたい為にダシに使うなと玉砕するみたいですね」


「異世界もそういうとこシビアなんだな……」


 スズと黒葛の会話に超絶美青年エルフ長老のバキボキと指を鳴らす音が重なる。


「まさか、こんな所で魔王の残党に会えるとはなあ……!」


 言いながらセリの蹴りがキーマを狙う。咄嗟に紙一重でかわすと折角元に戻ったシステムキッチンが衝撃で粉砕された。


 壊れた蛇口から勢いよく水が噴き出す。さらに攻撃を受けてギリギリでかわすものの、その度に家具や床が破壊されていく。


 吹き飛ぶクローゼットの扉、砕け散る照明カバー、割れる有機ELテレビ、木材チップの如く粉々になる本棚と紙吹雪になる漫画本。


「きゃーっ!? 『美マッチョ聖女の世直し筋トレ旅行記』限定サイン本がーっ!」


「にゃー!?」


 セリに殺意のこもった笑顔を向けられ、しっぽをボワボワにしたキーマを梛が抱き抱えて制止する。


「待って下さい長老ー!」


「邪魔すんな、仮にも四天王名乗って魔王の片棒担いでた落とし前は……」


「キーマたんは四天王とは名ばかりで、リッチ時代は24時間無理矢理働かされてた社畜の中の社畜さんだったのよーっ!!」


「……は?」


「労働基準法とかなさそうだよなあ、魔王軍」


 黒葛が妙に納得して頷いている。


「我、魔王の手しゃきににゃるの嫌だったから断ってたでしゅ。でも魔王軍で働かないと隠れてしゅんでた森のモフモフ絶めちゅさせるって脅しゃれたにゃ……」


「それってキーマたんと初めて会ったとこ? 地下水路あったからてっきりもっと街中だと思ってたけど」


「あれは古代都市の遺跡でしゅ。魔導学園の都市一帯は何層にも色んな時代の遺物が重なった構造にゃ。地下水路の上は広大な森林地帯があるでしゅ。人間は滅多と入ってこないにゃ。こにゃいだの騎士とか野盗は例外でしゅよ。普段は静かでいい所にゃ」


「長命種が暮らしていますからね。歴代の長の霊廟もある古い森です」


 美人補佐エルフのスズが言った。スズに笑顔を向けられた超絶美青年エルフ長老が舌打ちしてそっぽを向く。


「魔王軍が近くに拠点を設けたのに、手を出されずに残っているのがずっと不思議だったんですよ」


「他のしてんのーは蹂躙したかったみたいでしゅけど、あの森は希少な植物相で構成されてるから魔王軍の身体強化薬とか人工魔獣の製作とかのしょ材あちゅめに必要不可欠だって、あることないことメリットだらけの報告書いっぱい提出したにゃ。会議では毎回我の早口レアしょ材収集苦労話で他のしてんのードン引きさせるでしゅ」


「色々画策したのね、キーマたん」


「社畜リッチでもただでは搾取されないにゃ」


「……帰るぞ」


 超絶美青年エルフ長老がキーマを一瞥してから立ち去ろうとする。


「長老……」


 梛が声を掛けるとセリはぶっきらぼうに言い放つ。


「興が削がれただけだ。ただし今後そいつが少しでも怪しい動きをしたら容赦しねえ」


「長老!」


「しつけえな。今日は帰るっつってんだろ」


 振り返ったセリを真っすぐ見据えて梛は言った。


「壊したお部屋、もっかい直してから帰って下さい!」


「……」


「すみません、うちの長老が生ける屍並みの考えなしで」


「誰の頭が腐ってんだコラぁ!?」


 超絶美青年エルフ長老が再び自分で壊した梛の部屋を直したものの、さすがにセリが体を借りている転生者の方が疲れていたのか完全に元通りにはならず、床に散乱されたままになった食器や漫画やらを片付ける羽目になり、睡眠時間が大幅に削られてしまったのだ。


 そして片付けてから梛は気が付いた。ホムンクルスメイド全員に手伝ってもらえばよかったのだと。


 とりあえず世界樹の実で栄養補給はしてきたので、いきなりぶっ倒れて三途の川でリッチの癖になる歌を聞かされる事はないはずだ。


「女神の御使いの世界も色々あるのねえ。ところであなた、こないだのミミック持ってる? 骨入れてた、あれ。ちょっと荷物が増えて入りきらないのよね」


「ああ、はい。どうぞ。ちょうど今空いてるので大丈夫です」


 リッチのキーマがシンデレラフィットしていたミミックは、梛が寝ぼけて次元収納から出した際に黒キューブの角で蓋が壊れてしまったが、超絶美青年エルフ長老が部屋の時間を戻した時に、形だけは元に戻っていたのだ。


 そこにもう一度リッチの体を片付けようとすると、キーマが部屋に置いておいてほしいと言ってきた。


 今朝も梛が目を覚ますと、先に起きていたキーマはモフモフの真っ白な体を朝日に輝かせながら、同じく朝日で眩しく煌めいて部屋をディスコ状態にしている世界樹をじっと見上げて物思いにふけっていた。何か考えがあるのか、それとも別の思いがあるのか。


「見た目の割に中狭いわね……ああ、なるほどそういうこと」


「荷物入りそうですか?」


「ええ、思ってたより使えそうよ。あ、ほら、そろそろ学園が見えてくるわ」


「えっ、あれが学校……!?」


 セクシーマッチョ店主に促されて御者台から覗いた梛は驚愕した。


 どう見ても建物には見えない。最初は崖かと思ったぐらいだ。


「え、何あれ……?」


 大地から海岸に向かって大きく突き出している漆黒の巨大建造物。


 大きく波打つ双塔は、まるで巨人が使う金属でできた扇状のテーブルナプキンにも見えた。


「巨大オオシャコガイ!?」


 おおよそ建物らしからぬ形状に混乱する梛。魔導学園はどう見ても、超巨大サイズの二枚貝だった。


「だから魔導学園だって言ってるじゃない」


「学校!? 建物なの!? あれの中に入ったら挟まれない!?」


「挟まないわよ。ま、神々の時代には動いてたらしいけど。古代人はあれに乗って魔王や竜と戦ったって伝説があるわ。ほんとかどうかは知らないけどね。原初の海に棲む神獣の亡骸とも言われてるわよ」


 ふと梛は、三途の川近くの花畑から暗闇に落ちた時の事を思い出した。うねる闇の中で会った鱗を持つ何か。あれと目の前の貝みたいな建造物が、どこか似た雰囲気を感じさせる。


「つまり骨の中で学園生活送ってるって事? あ、この場合、殻なのかしら? 不便じゃないのかしら」


「生体しょ材だから魔力補充しゅれば都市生活にひちゅよーな設備や機能は動かせられましゅ。そこらの城壁よりよっぽど堅牢で安全に暮らせるにゃ」


 二枚貝型の双塔の周囲に寄り集まるように、中型の貝類みたいな構造物が密集している。巻き貝タイプのものが目立つが、中にはサンゴみたいな枝分かれしたものや、棒状の貝なのか何なのかよく分からないものもある。双塔と違って明るく多彩な配色だが、ただどれもそこら辺のビルより遥かに大きい。


「あの周りのは?」


「都市を統治する学長府とか、研究機関とか、生徒の訓練場とか色々よ」


「お城とかはないんですね」


「学術都市ですもの。つまり学園内で実権を得られれば莫大な利益を得られるってわけ。だから周辺貴族が自分たちの子供をここに入れたがるのよ」


「ハッ、生で悪役令嬢とか見られるのかしらっ!?」


「あなた潜入しに行くんだから、目的果たすまでは目立っちゃダメなの分かってる? 派閥争いに首突っ込んだら大変よお」


 セクシーマッチョ店主に呆れられて我に返る梛。そうだ、今から自分は学園都市に潜入しに行く。


 そしてレン君がどこにいるか、楼閣群島で助けた召喚術の教授らしい青年に尋ねに行くのだ。


 その人に会うまでは、とりあえず目立たず隠密行動を徹底しなければ。


「そんなわけだから、あなたはここに入って」


 梛はセクシーマッチョ店主に首根っこをつかまれると、覚えのある箱の中に突っ込まれた。


「って、これミミックなんですけど!? 荷物って私のことだったのーっ!?」

初めましての方も、いつもお読み下さる方々もいつも本当にありがとうございます!毎回読んで頂けるのが嬉しくて、どうお伝えしようか悩んで結局最初の一文になってしまいます……。感謝の気持ちをいっぱい込めてコツコツ頑張ります……!

次回更新は3月30日頃を予定しております。

まだまだ寒暖差がありますのでお体冷やさないようお気をつけ下さいませ。

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