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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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46話 この後どうするのー!

 アニメのマスコットキャラがプリントされたルームウェアに着替えた福籠(ふくごもり)(なぎ)は、休眠状態の白キマイラを抱えてリビングに戻った。


 魔族の姿からリッチに戻ったキーマを筆頭に、超絶美青年エルフと美人補佐エルフのスズとツンデレセクハラをひとしきり眺め、部屋が半壊した状況を推察する。


「つまり、てらってらに輝くいかついキーマたんを見て興奮したあなた達が、くんずほぐれつ部屋をめちゃくちゃにしたって事ね?」


「語弊ありまくりの言い方すんな」


 言うものの、黒葛(つづら)はルームウェア姿の梛にちょっと毒気を抜かれていた。うちの姪の部屋着とほぼ同じじゃねえか。しかも巨乳の圧力で二頭身のマスコットキャラが大食い大会を連覇したみたいな作画崩壊を起こしている。寧ろオレ得サービスシーンでしかない。


「あながち間違っていないから訂正出来ませんね?」


「できねぇ事はねぇだろうが」


 苦虫を噛み潰したような顔をして超絶美青年エルフが美人補佐エルフのスズに舌打ちする。


「我の体が目当てだったの……!?」


「おっさん骸骨が何言ってんだ」


 キャッ、と腕で自分の体を抱きしめて驚くリッチのキーマに、黒葛がツッコミを入れる。


「賃貸なのに、どうすればいいの……。こういうのって個人賠償責任保険とかになるのかしら……? 保険がきくとしても高級マンションの修繕費なんて全額補償されるか分かんないし、お給料何年分払わなきゃいけなくなるのか、想像もつかないわよー……。折角ボスから紹介してもらったステキ物件だったのに、こんな大穴開いてるし、ご近所迷惑どころの話じゃないわ……」


 夜風が吹き込み、冴え冴えと輝く月と眼下の街明かりが美しい。


「結界を張っていますので、あと半日はもちますよ」


「明日の朝イチで大騒ぎになるって事ですよね!?」


 笑顔のスズに思わずツッコむ。


「わめくな。戻せば問題ねぇ」


 狼の刺繍が施された派手なスカジャンの超絶美青年エルフが、面倒臭そうにシステムキッチンから飛び降りる。海水は引いたとはいえ、ぐずぐずに湿った床に休める場所はないので、土足でキッチンの上に腰かけていたのだ。


「……スズさん、こちらの存在しているだけで全てを浄化するかの如き空気清浄機みたいな美の結晶イケメンはもしかして……」


 宝石で作り上げたかのような美しい姿に、野性の獣の魂が宿っているかのような苛烈な気迫をまとった美青年。年齢は梛と同じぐらいか。サイズアウトしそうなシャツなせいか、バキバキに鍛え上げられた腹筋が際立つ。長く伸びたプラチナブロンドは、梛が着替えている短い時間で精緻なフィッシュボーンに編まれていたが、それをやったのは長年長老の世話係をしているスズだった。ほっておくと手入れを面倒くさがって髪を手近な刃物ですぐ切ってしまうからだ。


「もしかしなくても見た目だけはいい長老です。ほら、あなたが治療費払うんだから骨ぐらい折ってもいいだろうみたいな事言ってるからドン引きされてますよ」


「んな事言ってねぇわ!?」


 美人補佐エルフのスズに怒る超絶美青年エルフの正体を知って、大興奮する梛。


「ちょ、長老!? 何でこんな神進化を!? 初めて会った時も大概美少年だったけど、美貌と野性の奇跡のマリアージュが起きるなんてどういう事……!? あっ、もしかして芸能界に殴り込み!? 長老なら、らぶちゅるちゅと双璧をなすアイドルになるのは間違いないわ! デビューしたらすぐにパリコレのトップモデルとしてランウェイ練り歩いてそのまま世界の長老として覇権を取れるわー! 応援します! 課金します!! アクスタとTシャツと抱き枕くだしゃいっ!!」


「……ぅるせぇよ。何だよ、世界の長老って」


 引き延ばされるプリント柄から伝わる胸のやわらかな揺れ具合と梛の興奮した笑顔に、数瞬気を取られてからそっぽを向く超絶美青年エルフ長老。


「さっきまで平気で指吸ってたのに何を急に騒いでんだよ」


 梛のはしゃぎように黒葛がぼやく。内心気が気ではない。長老エルフめ、年齢がちょっと上がったら女にも興味出てきやがったな……!? 巨乳に笑顔を向けられたぐらいで満更でもない顔しやがって……!


「指を吸って……きゃーっ!? わ、私、異世界ミラーの至宝に何て無礼な事をっ!? いくら世界樹の実が甘くてお口の中が幸せ状態で周りはどうでも良かったからって……!!」


 頬を赤らめながら照れる梛を見て、黒葛はふと思った。じゃあ、オレが世界樹の実をこいつの口元に持ってったら、我を忘れてあの柔らかそうな唇でアレなことをしてくれる……?


 未だ継続中の狂戦士化の速さでもって世界樹の実をいくつか摘むと、マジシャンの如く指に挟んで梛の目の前に差し出した。


 さあ、存分にオレの指ごと甘さを吸い尽くして二人でスウィートな幸せに浸ろうぜ……!


 その黒葛を上回る速さで差し出された世界樹の実を指でつまみ取り、一瞬で口の中に放り込む梛。


 もきゅもきゅ味わいながら、梛は満足気な表情で黒葛に向かって親指を立てた。


「オレが欲しいのは指じゃねえ……! 何であーんしてくれねえんだよ……!」


 部屋の隅っこで壁に手をついて小声で悔しがる黒葛を特に気にせず、美人補佐エルフのスズが解説する。


「部屋の状況はお察しの通りですが、溺れて仮死状態になったあなたがリッチの一歩手前の状態になっていたので、長老が世界樹の実を食べさせる事にしたんです。万病を癒し、あらゆる怪我から再生させ、不老不死となる、全ての生命の根源たる力が宿る存在ですから、リッチとの契約による魂の(くびき)を無効化するにはうってつけと言えるでしょう」


 部屋の中央に燦然と輝く黄金の世界樹。シャラシャラと揺れる葉擦れの音ですら、体の不調を整えてくれそうな心地よさがある。


「えっ……そんなすごいもの私に使っても……って、不老不死!?」


「ミラーの世界樹の話です。さすがにこちらの世界の園芸用土だけで育てた千年ちょっとの若木にそこまでの力はないようですね」


「せ、千年……?」


 梛には意識がなかった小一時間の間に、いきなり部屋に生えたようにしか見えない。


「我々長命種が持つ特殊能力のひとつです。時間の流れに干渉できますが、自身もその影響をうけます。世界樹を実のなる状態まで成長させるには千年ほど時間が必要だったので、その分長老も時間経過したわけです。本来の年齢に戻るにはまだ全然足りてませんけど」


「そう言えば以前、霊峰を元通りにするのに時間を巻き戻す秘術を使って、五千年ぐらい若返ったとかどうとか……」


「そうです、覚えていらっしゃったんですね」


 長老エルフの反抗期エピソードが強烈で記憶に残っていたのだが、それはさすがに本人を前にしては言いづらい。しかし言わずにおれない事もある。


「そんな……美少年から超絶美青年への華麗な変身バンクを見損ねるなんてっ!!」


「魔法少女みたいに言うなよ」


「アニメだったら録画してヘビロテするのに!」


「動画撮ってますよー」


「何撮ってんだ、てめぇ」


「スズさん、それスマホに送ってくだしゃいっ!」


「何送ろうとしてんだ、てめぇは!」


「仕方ありませんね、話を続けましょう。あの時は伝説の勇者の末裔が、力加減を間違えて霊峰に大穴を開けてしまったんですが、魔族が攻めてきたんじゃないかと勘違いした森中の民が大恐慌に陥って大変でした。本人を捕まえて抵抗しないのをいいことに、公開処刑にしろだの人間を根こそぎ粛清しろだの若い連中が面倒臭い騒ぎ方をして。長老が珍しく仕事してくれたお陰で収まりましたけど」


「珍しくとか言ってんじゃねえ。普段霊峰に守られてるくせに、ろくに森の警邏(けいら)もしねえわ、高出力とはいえ人間の魔力を防ぐ結界も咄嗟に張れねえわ。早く気付いて総出で対応してれば霊峰のどてっぱらにあんなでかい穴が開く事もなかったんだ。もっと鍛える必要があるっつっただけだろ。百年足らずのガキどもや足萎えの翁連中ですら体張ったから森に被害が出なかったんだ。ぎゃあぎゃあ騒ぐだけの腑抜けはいらねえ。魔王を返り討ちにするぐらい徹底的に性根を叩き直してやる」


 てっきり長老が率先して処刑しようとしてたのかと思ったが、そうではないらしい。思えば、赤髪の執事の態度も処刑を宣告した相手に対する態度ではなかった気がする。


 長老カッコいい……!


 梛とキーマとうっかり黒葛も超絶美青年エルフ長老の生き様にときめいた。それぞれコボルトと白キマイラと獣人の経験者なので、頼れる群のリーダーにちょっと弱かった。


「……って、俺の事はどうでもいい。それより部屋の状態はお前が海水垂れ流す前ぐらいまで戻すからな。だが世界樹はこのままにしておく。定期的に実を食って生命力の底上げしておけ」


「底上げ……?」


「自覚してねえな。リッチと契約しているのに、魔力も生命力も関係なく垂れ流しで供給してやがるだろう。また風呂で溺れるぞ」


「ええっ!? それは困ります!」


「我と契約やめますか、マスター……」


「涙出てないけど思いっきり泣いてる声で提案しないで!? つまり魔力だけを供給できればいいんでしょ!? ……って、どうやるの? こう? それともこう!?」


「何だか色々混ざって生きのいいヘドロみたいな念が送られてきます、マスター」


「そんな嬉々として混ざりたくってるものをどう分離すればっ!?」


 言われてみれば、今まで特に気にして魔力を使った事がなかったかもしれない。魔力だと思って使っていたものに、生命力とか気合いとか、思い込みとか諸々混ぜて、己の命を削っていただけだったのだ。


「一番いいのはミラーで魔術についての基礎を学ぶことですね。魔力の感覚さえつかめれば、無意識に生命力を消費する事もなくなるでしょうから」


「魔術を学ぶ……」


 そう言えば明日魔導学園に潜入するではないか。その時にどこかの授業に潜り込めないかしら。


「なあ、オレのベランダもどうにかしてくれよ。海水で庭が浸かってんだよ」


 直接超絶美青年エルフに頼み辛いのか、美人補佐エルフのスズに向かって黒葛が言いにくそうに切り出す。


「えっ、海水って……もしかして、うちの下の階なの?!」


「お、おう……」


「何でうちにいるんだろうって思ってたのよ」


「不審者を見る目! 海水の出どころ調べに来ただけだからな!?」


「うわっ! 本当に水浸しになってる! ていうか、ベランダ広っ! すごい花壇いっぱいだわ」


 ベランダに開いた穴から下を覗くと、梛のベランダより広いスペースに花壇やプランターやらが並べられて丁寧に作り込まれている。


「……」


「露骨に意外そうな顔すんな! オレじゃねえよ! 姪が育ててんだよ」


「だったら海水も対象範囲だな。この部屋に逆流してくるから全部吸い戻しておけよ」


「えっ?」


 ベランダから黒葛の庭を一瞥した超絶美青年エルフ長老は、梛の返事も待たずに周囲の時間を遡行させ始めた。階下に流れ落ちた海水が怒涛となって押し寄せる。


「ちょ……えっ、待って、ちょっと、きゃーっ!? キューブさん助けてーっ!」


 少々間に合わずに頭から海水を被ったものの、何とかキューブの次元収納で再び海水を吸い戻せた梛だった。

いつもお読み下さってありがとうございます! 初めましての方もありがとうございますー!

何回見直してもどっかに誤字が残ってる……頑張ります……

雪が降るところもあるぐらい冷え込んでますが、皆様体調はいかがでしょうか。あったかくしてお体大切になさって下さい。

次回更新は3月20日頃を予定しております。

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