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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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45話 ビフォーアフターが激しすぎるわー!

 お風呂で寝落ちして三途の川を渡りかけ、リッチの勧誘を受けていたところを竜牙兵に助けられた福籠(ふくごもり)(なぎ)だったが、目覚めると見知らぬ超絶美青年エルフの指を甘噛みしていた。


『本日未明、転生者(プレイヤー)の女性が自宅マンションで超絶美青年エルフの指にむしゃぶりつくセクハラ行為で逮捕されました。容疑者は気を失っていたのでよく覚えていないと供述していますが、超絶美青年エルフは起きてからもしつこく舐めまわされて気持ち悪かったと警察に話しているという事です』

『うわー、最悪ですね。この転生者』

『いますよねー、エルフを見るとやたらハイテンションになる人』

『もー、キモ過ぎて無理ー。エルフのお兄さん可哀想だよー』


 梛の脳裏で勝手に繰り広げられる、お昼の情報バラエティ番組風妄想。


 今度こそ間違いなく痴女として世間に晒されてしまう……!!


 だって目撃者もこんなにいる! ただいま噛み噛みしてる超絶美青年エルフ本人とエルフの美人補佐スズと髪色が海にいた時と違うツンデレセクハラとメタリック肌色の半裸ふんどし大男が!!


「ろおんむうむんぐ!? むぐぐうむうぐんむんむううも!?」


 どういう状況なの!? 知らない人もいるんだけど!?


「さっさと指引っこ抜けよ!?」


 未だにツンデレセクハラとしてしか認定されていない黒葛(つづら)が、梛がハムハムしている手を引き離そうとつかんだ。間髪入れずに超絶美青年エルフが黒葛を水浸しの床に蹴り飛ばす。


「気安く触んじゃねえ」


 冷ややかに()めつける超絶美青年エルフ。腹を蹴られてむせながら黒葛がキレる。


「てめえ、指くわえられただけで自分のモンになったとか思ってんじゃねえだろうなっ!?」


「はあ?! 訳分からねぇ事ごちゃごちゃ抜かしてるとシメるぞ、コラ!?」


 何だかこのガラの悪さ、覚えがあるわ……と、思いながらも、梛はまだ指を噛み噛みするのを止める事ができなかった。口の中にわずかに残った蕩けるような甘さを少しでも味わっていたいと無意識に探してしまうのだ。


「無理矢理手を引き抜いたら、彼女の歯が折れてしまいますよ。ご自身が狂戦士化しているの忘れてるんですか? あのままつかんで長老の腕の骨が多少折れてしまうぐらいは構いませんけど」


「構えや!?」


 美人補佐エルフに言われて、ようやく自分がまだバーサーカー状態だったことを黒葛は思い出した。能力は常態より遥かに強化されるが、一度変化してしまうと気持ちが落ち着くまでしばらく元に戻らない。


「ほら、起きたんならとっとと口開けろ」


 顔を赤くしながらも素っ気ない言い方で、超絶美青年エルフは梛が自分で口を開くのを辛抱強く待っている。キュクロプスを片手でつかんで引きずる握力や膂力(りょりょく)の持ち主だ。梛の顔を傷つけまいと配慮しているのだろう。そこに思い至らなかった己に、黒葛はまた落ち込んだ。


「んむう……」


 梛は艶のある唇を開こうとするが、何故か切なくなっていた。微かに微かに指にまだ残る甘み。口を開けたらこの幸せがなくなってしまう。何故こんなにこの甘みを欲するのか自分でも理解できない。


「うっ」


 超絶美青年エルフはひるんだ。梛の背後につぶらな瞳でおやつをねだるコボルトの子供が見つめている気がする。おやつちょーだい、と無垢な瞳が訴えかけてくる。


 それを世界樹の実を食べて生命力が活性化した状態でされるとどうなるか。


 世界樹の甘みが浸透した、匂い立つような梛の全身の艶やかさがこれでもかと感覚を刺激してくる。


 体の内側から淡い光を灯しているような、しっとりと潤う白磁の肌。あらわになった肩や膝の肌は桃の花が綻んだような明るい血色を浮かべている。


 艶やかな黒髪はますます光沢を帯び、絹糸のように肩口から零れて甘い香りをまとう。


 血流がよくなったせいか、滑らかなうなじを伝う汗まで真珠のように輝いていた。うなじから鎖骨を伝い、ふるふると揺れる大きな胸の谷間へ、吸い寄せられるように流れ落ちていった。


 すべらかな胸の曲線は、無粋とも思える獣の被毛に包まれて隠されている。だが絞めつけられて押し上げられていることで、逆にコルセットをつけたように、その胸の柔らかさと弾力と魅惑的な大きさを強調していた。


 被毛は必要最低限の箇所しか隠しておらず、隙間からもちもちとした肌がのぞいている。ひきしまったくびれも豊満な尻もむっちりとした太ももからすらりと伸びた脚線美も隠しきれていない。


 そんな触れずにはいられなくなるような、輝くばかりの肢体の持ち主が、大きな瞳を潤ませて己の指を離すまいと切なげに見つめてくるのだ。やわらかな唇をきゅっとすぼめ、きれいに並んだ白い歯で、神狼の子供みたいな甘噛みをして。


「……?」


 言葉をなくした超絶美青年エルフは、己の体が震えているのに気が付いた。それなのに体が熱い。


 この震えには覚えがある。遠い昔、霊峰に棲まう神狼と出会った時に感じたものと同じ。どれだけ戦っても到底敵わぬものが存在するのだと思い知らされた、熱く血潮が巡るあの感覚。そして圧倒的な強さとは美すら感じさせてしまうものだと悟ったあの日。


 世界樹の実を食べた事で生命が満たされた梛の魂を、神狼の如く強大に感じてしまうとは。


「長老?」


「俺が武者震いとはな……。人間の潜在力は侮れねえ」


「何でそうなるんですか。これだから万年喧嘩上等思考で心の機微を放置してきた脳筋エルフは……」


「はあ?! 誰が脳筋だ、コラ!?」


 抗議する超絶美青年エルフを尻目に、美人補佐エルフのスズは梛に言った。


「大丈夫ですよ、シロたんさん。世界樹の実の甘さは女神が地上にもたらした甘露ゆえに、初めて口にした者はその甘さの虜になると言われております。ですが、こちらの世界で精製される砂糖や麻薬のような中毒性はありませんし、病を誘発する物質も含まれておりません。成ったものはどうぞご自由にお食べ下さい。2、3個で甘さにも慣れて落ち着きますから。いつまでも長老の指の出汁を吸っていたら情緒が世紀末の覇者になりますよ」


「んなわけねえだろ!?」


 スズがこちらをご覧下さいと言わんばかりに掲げた手の先へと、まだ無意識に指をあむあむしながら梛は目を向けた。


 リビングのど真ん中に、黄金に輝く大きな樹が生えていた。そこには金色の実が鈴なりになっている。


「……って、部屋が半壊してるわーっ!?」


 あまりの部屋の変貌ぶりに、梛は世界樹の甘さを求めることもすっかり忘れて叫んでいた。


『何という事でしょう。リビングの中心には金色に輝く世界樹が観葉植物の如くそびえ立っているではありませんか。自らの光合成を促すために天井のライトを覆ってしまわない配慮がなされているのが世界樹のすごいところ。根っこはいくつか並べられた土袋をすっぽりと包み込んで生命力を感じさせます』


『そして素足でも心地よい無垢フリーリング材は木材として加工されていたにも関わらず、世界樹の分化全能性と重力屈性と生命力によって接ぎ木のようにくっつき離れなくなっているではありませんか』


『根っこと同化して波打つ床は、壁が破壊されてめちゃくちゃになったバスルームからあふれ出す海水によって流れを作り出し、お部屋に渓流のような清涼感を演出しています。その渓流も部屋の隅に溜まってしまうかと思えば……何という事でしょう。ベランダの窓が崩壊して大きな穴を開けているではありませんか。これなら海水が部屋に溜まって淀んだり潮くさくなることもありません。窓の穴から流れ落ちる滝を見ながらランチを取る楽しみだって増えます』


『そんな滝の水源はバスルーム。内側に次元収納が貼りついて海水を垂れ流しているので、大量の水を自分で海まで汲みに行かなくても大丈夫。そのまま海水浴だってできてしまいます。次元収納から突き出して壁を破壊している黒いキューブも所々えぐれて、いいアクセントになっています』


『破壊と言えば目立つ金色の世界樹があるお陰で、部屋中の戦闘跡も気になりません。ソファは陥没して折れ曲がり、床は蹴られた衝撃でくぼみ、大理石のシステムキッチンは爪撃の余波で切り刻まれ、魔力のレーザーで焼かれた壁は高熱で溶けてガラス質と化していますが、光輝く世界樹の前ではただのおしゃれなインテリア』


『三つ巴の戦闘と世界樹による今回の破壊作業。賃借人(ちんしゃくにん)の福籠さんは驚いてくれるでしょうか』


「きゃーっ!? 何でこんな事になってるのーっ!?」


 梛が復活した影響なのか、光文字もやたらと力を込めて部屋の状況を解説してくる。ただ部屋のあまりにも無惨な状態に、さすがにツッコむ余裕は梛にはなかった。


「我のせいです。マスター」


 力なくうなだれていた大男が言った。


「誰!? 何でこの人半裸でふんどし姿なの!?」


「……我は魔族のおっさんにゃ。エプロンは体に合わなくてこうするしかなかったです」


 聞き覚えのあるフレーズと、額に輝く宝石に気付く。


「もしかしてキーマたん!?」


 驚く梛に魔族姿のキーマは頷いた。


「マスターがお風呂で溺れてたけど、モフモフのままじゃ何も出来なかったです。だから元の姿が必要でした」


「って、言いながら何か溶けてるわよ、キーマたんー!?」


 甲冑装甲めいたキーマの体が、見る間にドロドロと溶けていく。床に流れ落ちた肉体は水に触れると立方体の結晶になって固まった。


 後に残ったのは骸骨姿のリッチのキーマだった。奇跡的にふんどしにしたエプロンが残って、何とも言えない立ち姿だ。何となくキーマと黒葛の目が合った。


「本当にリッチなのか……。あ、エプロン返さなくていいからな」


 またモソモソとエプロンを外そうとするキーマを黒葛は制止した。


「大丈夫です、マスター。錬成段階色々すっ飛ばして造った急ごしらえだから、骨から生成される魔力の濃度に耐えられないだけ。我もモフモフの方も問題ない。我はマスターが生きていてくれればそれでいい」


「キーマたん……心配かけてごめんね」


 リッチの体だからか近寄ろうとしないキーマを、この時ばかりはヨシヨシしたくてたまらなくなる梛。


「それよりマスター、早く着替えないとさすがに我のモフモフでも風邪引くですよ」


「ん?」


 キーマに指摘されて自分の体を見下ろす梛。キーマの体とモフモフ尻尾で巻かれているだけの素っ裸状態だった。


「きゃーっ!? キーマたんのふんどし姿ツッコんでる場合じゃなかったー!」


 てっきりモコモコのルームウェアでも着ているのかと思っていたら、ほぼ半裸である。ちょっとずり落ちてきた白キマイラのキーマの体と尻尾をあわててかき寄せる。


「すみません。着替える前に少しお願いしたい事があるのですが……」


 寝室のクローゼットに向かおうとした梛に、申し訳なさそうに美人補佐エルフのスズが声をかける。


「バスルームに貼り付いてるキューブを戻して海水を止めてもらえませんか?」


「うきゃー!? 次元収納開きっぱなしになってるー!?」


 意識の戻った梛によって、様々な傷痕を残しつつも、ようやく階下への漏水は止まったのだった。

いつも見て下さる方も初めましての方も、ここまでお読み下さって本当にありがとうございます!!21日と22日と25日に一気読みして下さった方々もありがとうございますー!何回お礼申し上げても足りないぐらい励みになっています……。

次回更新は3月10日頃の更新を予定しております。寒暖差が激しいのでお体大切にお過ごし下さいませ。

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