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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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44話 復活するわよー!

 狂フェンリルの二つ名を持つエルフ美少年セリを中心に、光の粒子が螺旋を描き始める。魔力よりはるかに純度の高いエネルギー。大気もつられて渦を巻く。


 黒葛(つづら)はそれに覚えがあった。青いキューブを授かった時。異世界ミラーの女神から、加護を受けた時の光そのもの。


 渦巻く光がセリのかざした掌へと凝縮する。輝きの内側からさらに眩しい光が広がり、掌から溢れる。


 注がれた光が園芸用土に浸透すると、すぐに土が盛り上がり、小さな双葉が広がった。


 まるで何十、何百倍にも速めて動画を見ているように、輝く双葉は葉を増やし幹を太くし枝を増やし、新芽を広げて成長していく。植物というより呼吸をする動物のごときしなやかな動きで大きくなっていく。


 そして樹の成長に合わせるように、セリの姿も成長していた。


 プラチナブロンドは早春の小川のように輝きながら長く伸び、中学生ぐらいだった華奢にも見える骨格が大きくなり、筋肉がさらにつき、顔つきも精悍さが増していく。それでもエルフとしての美しさはさらに磨かれて、黒葛でさえ目を奪われるほどの、結晶のように煌めく美貌へと変わっていく。


 世界樹を成長させる力は、セリ自身の時間も早めていく。長命のエルフでなければ世界樹より先に寿命が尽きるような荒業だ。


 それでも……と、黒葛は息を飲んだ。たとえ自分がエルフだったとしても、あれほど生き生きとした不敵な笑みを浮かべながら、こんな命の使い方を自分は出来るのだろうか。


 ……一方その頃、福籠(ふくごもり)(なぎ)は一面の美しい花畑を歩いていた。


「あら、ここってどこかしら? きれいね、キーマたん」


 そう言って振り返っても、白キマイラの姿も声もない。咲き乱れる花々がそよ風に揺れて、様々な香りが鼻腔をくすぐるばかり。


 静かで、きれいで、穏やかで、目にも心にも満たされ過ぎて、少し寂しい所。


「ミラーってわけでもなさそうだし……」


 小首を傾げる梛。お気に入りだがちょっとデザインが可愛くて、なかなか着る機会のないミニワンピース。ミラーなら誰かの体に間借りさせてもらっているはずだが、ミニワンピを着た大きな胸とお尻は自分のもので間違いなさそうだ。髪もいつも通りの長い黒髪で、銀髪メイドに憑依しているわけでもないらしい。


「んー、誰かいないかしら。夢だったら都合よく誰か出てきてくれるんだけど……」


 キョロキョロと見回していると、そばに川が流れているのに気が付いた。対岸に運よく人の姿が見える。


「都合がいいわ! やっぱり夢なのかしら? すみませーん! ここってどこなんでしょうかー?」


 梛が手を振って声を上げると、対岸の人物が答えた。


「三途の川よーう」


「ひいおばーちゃーん!?」


 笑顔で手を振り返すのはどう見ても、梛が幼い頃に亡くなった曾祖母(そうそぼ)だった。


「もうこっち来るんかーい? 歓迎会開こうかねー? 御馳走いっぱい用意するよーう」


「温かく出迎える気満々なの何でっ!? こういう時、お前はまだ来ちゃだめだって止められるものなんじゃないの!? 私まだ全然そっち行くつもりないわよーっ!」


「あら、そうなのー? 神様イケメン多くて素敵よーう。梛ちゃんイケメン好きじゃろー?」


「だから何であの世に誘惑する気満々なのっ!? イケメンは好きだけど、神様見たさに三途の川を渡るわけにはいかないのよ! まだ推しにも会えてないんだから!」


 叫んでから、ハッとする。そうだ。私には会いたい推しがいる。異世界ミラーで出会った超イケメン鬼人族のレン君(中身は小学生)が!!


 対岸の曾祖母はにっこり微笑んで手を振った。その姿が少しずつ対岸から離れていく。


「梛ちゃんは現世でまだ頑張るんじゃーって、歓迎会メンバーに連絡しとくよーう」


「歓迎会すでに参加者まで招集してたの!? どんだけご先祖に待ち構えられてるのよ!?」


「頑張るんだよー、梛ちゃん。あんたのことは実のひ孫みたいに思ってたからねー」


 実のひ孫みたいに思ってたからねー……。


 実のひ孫みたいに思ってた……。


 実のひ孫みたいに……。


「実のひ孫じゃないってこと!? 何で別れ際にものすっごい重要情報ぶっ込んでくるのっ!? ちょ、ちょっと待ってひいおばあちゃん! それもっと詳しくーっ!!」


 衝撃の真実を確かめようと梛が手を振っても、相手の姿はどんどんと小さく遠ざかっていく。


「もうお風呂で寝るんじゃないよーう……」


 その言葉を最後に、曾祖母だと思っていた相手は対岸の霧の彼方へと姿を消してしまった。


「ハッ、そういえば私、お風呂の途中で意識なくしてた!? いけない、帰らなきゃ。キーマたんが心配してるわ……!」


 ようやく己の現状を思い出して、川とは反対の方向へと歩き出す梛。


「ましゅたー……ましゅたー……」


 心配そうなキーマの声が前方から聞こえてくる。 


「あっ、私はここよ、キーマた……って、きゃあっ!? キーマたんはキーマたんでも……リッチの方のキーマたん!?」


 花畑でしょんぼりとたたずむのは、裾の長い衣を(まと)い、額の宝石をねっとりと輝かせた骸骨姿のキーマだった。


 リッチのキーマと対峙するのは初めてだが、確かに全てのモフモフが背を向けて逃げたくなる不気味な恐ろしさが漂っていた。キーマの塩対応もなんとなく分かる気がする。


 人間の姿で向き合ってみると、意外と背が高くて威圧感も半端ない。


 しかも全身の骨から重々しい魔力がドロリ、ドロリと滲んでは滴り、気化して立ちのぼり、また吸い寄せられるように骨にまとわりつく。魔力の濃さで周囲の空気が黒ずんでいく。


 そんな魔力の泥濘(ぬかるみ)から骨の腕をゆらりと差し出し、眼窩に妖しい光を灯す。あれは多分、笑っている。


「ましゅたー……こっちに来て我と同化するにゃー……。今なら初回特典で我そっくりの不気味なオーラもお付けしゅるでしゅよー……」


 リッチの姿とおっさんみたいな声で、にゃーとかでしゅーとか言われると、より一層恐怖が際立つ。


 キーマたんだけど、キーマたんじゃない何か。


 あの手を取ったら、間違いなく自分だけど自分じゃない何かになる。


「しかも増えてる!?」


 泥濘が凝縮した地面のあちこちからリッチが這い出てきていた。じわじわと増殖するリッチが梛を取り囲み始める。


「お願いにゃー……我も(なれ)もリッチー……我も汝もリッチー……我も汝もリッチー……」


「何かクセになるコワイ歌を歌い出したわ!? いくらキーマたんのお願いでもそれは無理よー!」


 前にリッチ、後ろに三途の川。背水の陣なんてことわざだけで十分なのに、リッチ包囲網はどんどん狭くなってくる。だからと言って、三途の川に飛び込むのはさらに危険だ。うっかり流されて向こう岸に渡ってしまったら、そのままあの世歓迎会に連れていかれかねない。


「ちょ、ちょっと待って! 私まだレン君に会えていないのよ!? いくら最初に転生したのが骨だったからって現実でもリッチになったら、もう推し活出来ないわーっ!?」


「……全く手がかかるのう」


 ふと、どこからかそんな声が聞こえたかと思うと、にわかに一体のリッチが激しく震え出す。


「我も汝もリリリリッチー……我も汝もリリリリッチチチチ……我も汝も……リッチに非ず!!」


 凛とした少女の声が轟き渡った。震えていたリッチの衣装が弾け飛ぶ。


 こめかみに凍れる炎の如き銀色の巻き角と、腕に同じく銀色の刃を生やした姿。


 梛が異世界ミラーで初めて転生した竜牙兵がそこにいた。


 梛が使っていた時よりも大きく長い刃が、周囲のリッチを薙ぎ払う。


 一瞬で銀色の粒子となって消えていくリッチ達。


「あ……あなたもしかして……」


 リッチの時とはまるで佇まいの変わってしまった竜牙兵は、腕を組んでツンとそっぽを向いた。


「そなた……骨が嫌いなのか?」


 さっきの凛とした態度はどこへやら、妙にそわそわと落ち着かない様子だ。


「骨というか何というか……」


「我もか?」


「え?」


「べっ、別に我はそなたにどう思われても何とも思わぬがな!」


 そう言った途端、自分の言葉に動揺して慌てて言い直す少女声の竜牙兵。


「あっ、いや、別にそなたが我にそんな薄情極まりない冷酷無比とは思わぬがな!」


 何なのこの分かりやすいツンデレさんは。


「えっと、あなたのことは嫌いじゃないわよ」


 梛がそう言うと、竜牙兵は顔を両腕で隠して赤面した……ように見えた。それぐらい分かりやすく照れている。もじもじして何だか可愛いわ。身長二メートル以上あるけど……。


「そ、そんな急に好きとか申しても……!」


 好きとか言ったかしら? 言葉の受け取り方がめちゃくちゃポジティブだわ。ツッコみたいが、それはそれでややこしくなりそうなので、梛は黙っておく事にした。


「その……確かに我も大人げなかったとは思うておる……。そなたにはそなたの生き様や事情というものがあるのだろうし……。だから、その……これからは、か、勝手に使えばよかろう……!」


「え、何を……?」


 意味が分からずきょとんとして聞き返した梛に、竜牙兵は手で顔を覆い、恥ずかしさに首を振りながら言った。


「わっ、我の大切なものを全部やると言っておろう!」


 骨の大切なものって、何……?


「その代わり、今まで通り供物を忘れぬでないぞ!」


「く……供物?」


「これじゃ」


 言った途端、竜牙兵があるものを身に着けた。


「すっけすけのシースルーメイド服ー!?」


 何故サイズが合っているのかは謎だが、竜牙兵がシースルー素材のメイド服を着ている。絵面がシュール過ぎてコワい。


「そなたが捧げておいて何を驚いておる。じゃが次はもっと破廉恥でないものをよこすがよい。そなたが着ておるミニドレスとか、そういう……か、可愛い感じのものを!」


 破廉恥だという割にシースルーメイド服を着こなした竜牙兵は、腕から銀色の刃を生やすと、梛の後ろから襲いかかってきた数体のリッチを切り伏せた。


「い、今そなたを助けたのも次の供物が欲しいからじゃ! 別に好きだと言われたからではないぞ!? だから早う現世に戻れ」


 竜牙兵が梛の体を押す。


「えっ? きゃーっ!?」


 花畑だと思っていたのに、足元がなくなっていた。落下する。


 底が見えない崖を落ちている。花畑の明るさはあっという間に見えなくなり、暗闇になった。


 何も見えない。落ちているのかすら分からないぐらい、深く深く沈んでいく。


 意識がかすむ。


 昏い風のうねりの中から、鱗を鈍く反射させた巨大な生き物が身をくねらせ、静かにこちらへ近づいていた。


 暗闇の奥で、刃のような歯列が開かれた瞬間、さらに深い底の底から、一条の光が差し込んだ。眩しさに驚いて鱗の生き物が闇に紛れて去っていく。


 光は梛の体をそっと受け止め、周囲に広がり満たしていった。


 それは黄金に輝く世界樹の若枝だった。


 光が満ちるほど無数の蕾をつけ、金の花を(ほころ)ばせ、それは果実となる。


 果実の重みでしだれた枝から、果実が零れ落ちた。それは金の雫となって梛に降り注ぐ。


 梛の全身が金色の光で満たされていった。


 果実が一粒、唇の中へと滴り落ちる。体の内側に燦々と輝く星の光が生まれて弾けた。


 感動を覚えるほどの瑞々しくも濃厚な甘み。こんなに美味しい甘さは初めてだ。


 再び唇に触れた果実を残さず味わおうと、梛はぱくりと頬張った。


 あむあむと噛むと弾力のある芯がある。ちゅっと吸ってみても果汁が出てこない。舌先でぺろりと芯の感触を確かめると、すぐそばで変な声が聞こえた。


「ぅおあ゛ーっ!?」


 驚いて目を見開くと、尖った耳の先まで真っ赤になった超絶美青年エルフが、梛を見下ろして固まっている。


 そのエルフの指を、梛はスルメの如く噛みついて味わっていた。


「んむ゛も゛ーっ!?」


 梛も変な声で叫ぶしかなかった。

今回もお読み下さいまして本当にありがとうございます!初めましての方もようこそお越し下さいました!

お陰様でこっそり引いてた風邪は何とか治りました。流行り出したインフルもお気を付け下さい。エアコンかけて湿度40%~60%維持って、加湿器とかないと難しいですね……

次回は2月28日頃更新の予定です……いつもより早い……!?コツコツ頑張ります……!

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