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悪役令嬢だと思ったら伝説の悪役になりました~ラスボスはアイテムに入りますか?~  作者: 繭式織羽


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48話 目立たないようにいくわよー!

「あらあ! よく似合うじゃなーい! 最流行のきゅーみードレスよお。これなら婚約者も舞踏会であなたに釘付けになるんじゃなくって?」


 きゅーみードレス!? 何それ、見たいわっ!


「素敵ねえ! やっぱりばくおースーツだとあなたの鍛えた体のラインが一層引き立つわあ! 奉納試合でご令嬢達に熱っぽく見つめられちゃうわねえ」


 ばくおースーツ!? つまりほぼ半裸!?


 銀髪のホムンクルスメイドに憑依している福籠(ふくごもり)(なぎ)は、隠れているミミックの中で身悶えた。


 セクシーマッチョ店主は次々に顧客らしい相手の部屋を回っては、注文された品はもちろんのこと、巧みな営業トークでさらに追加した品まで商品を売りさばいていく。


 様々な国の舶来品や高価な骨董品や希少な宝石類、ここたまプロデュースのフレグランスやむぃまな監修筋トレグッズのような流行りもの。梛が先日着させられてしまった大人のアハーンな下着とか、夜のお愉しみを演出する系のアヤシイ品々などバラエティに富んでいる。


「ちょっと生徒に何売ってるのー!? いくら貴族社会は結婚するのが早いからって……あ、でも声からして先生とかその辺の年齢の人かしら?」


「いくら小声だからってあんまり騒いでるとバレるでしゅよ」


 ホムンクルスメイドの額の宝石伝いに、リアルからサポートしてくれている白キマイラのキーマにたしなめられる。


 セクシーマッチョ店主と顧客とのやり取りが気になるものの、さすがに蓋を開けて出ていくわけにもいかず、楽しそうな雰囲気だけを聞いているのがつらい。


 それと、「サンプルがあるんだけど、ちょっとだけ試してみるう?」とセクシーマッチョ店主がたびたび顧客と隣の部屋に入ったまま、30分ほどミミックの中で放置されているのもツライ。


「何してるのよー……。お客さんの変な叫び声だの早口語りだの嬌声だの、たまに鞭で叩かれてる音みたいなのとか聞こえてくるんだけどー……キーマたん、何かお話して気を紛らわせてー……」


「米粉50グラム、水100ミリリットル、世界樹の実を絞った甘味料大さじ1、塩ひとつまみをタッパーに入れて混ぜ合わしゅて軽くふたをのせてから、レンジで600ワットで大体3分から4分。あっという間に簡単ういろうのできあがりにゃ。冷やしてもあったかいままでも美味しいらしいでしゅ」


「もしかしてそれ、今からキーマたんが作ろうとしてるおやつのレシピ? 何で大体3分から4分のひらきがあるの」


「ご家庭のレンジによって加熱性能が変わるのと後は個人のお好みにゃ」


 梛がキーマのレシピポイントに気を取られている間に、梱包された山盛りの荷物はあっという間にそれぞれの顧客の元へ納められていった。


「後はこの備品類をいつもの部屋に運んどいてちょうだい」


 従業員にいくつか指示を出してから、セクシーマッチョ店主は商品を確認するかのようにミミックの蓋を軽く開けた。


「ここから先は手を貸せないからね。この後は上手くやりなさいよ?」


 生地の隙間から目元だけ覗かせて梛は頷いた。


「ありがとうございます。店主さんのすぐ後ろに置いてあったのに全然気づかれなかったし、うまく潜入できそうです」


「あら、お礼を言うのは気が早いわよ。くれぐれも目立たないようにね。この辺とか」


「きゃっ!?」


 ムッチムチのお尻を生地越しに軽く叩かれ驚く梛に、セクシーマッチョ店主は笑って蓋を閉めた。


「健闘を祈ってるわ、可愛いお尻さん!」


「んもー! 人が動けないのをいい事にーっ……!」


 蓋が閉まるとミミックは他の箱と一緒に従業員によってしばらく運ばれた後、備品室に到着した。室内に人の気配がなくなってから、周囲を警戒しつつ、ミミックから抜け出す。


「さあ、潜入開始よ、キーマたん!」


 なんだかんだあったけど、やっと推しのレン君に会いに行ける……!


「……でも、待って。こんな所まで追いかけてきたのを知ったら気持ち悪がられない? 私が今やってる事って何だかストーカーっぽくない? レン君はリアルでは10歳のピュアな男の子なのよ? メイドの格好をした中身25歳に待ち構えられるのって怖くない? それって小学校付近に出没していた下半身丸出しの変態とほぼ同じじゃないかしら!?」


「にゃんで今さらおのれを客観視しゅてるでしゅか。ここまで来たら変態だと思われるのも一興でしゅ」


「一興で済むの!?」


「クヨクヨするより楽しむでしゅ。迷惑だったらちゃんと謝ればいいにゃ。嫌われたら我がましゅたーをヨシヨシしゅるでしゅよ」


「慈愛に満ちたキーマたん、しゅきっ! ……そうよね、ここまで来たら全力でやり遂げるわ!」


「ちゃんと準備整えてから行くにゃ。制服あるでしゅか、用意しゅてもらった学園内の見取り図諸々わしゅれずに持ってくでしゅよ」


「何で急に登校前のオカンになるのよ、キーマたん」


 盛り上がったところをレシピの材料をまぜまぜしつつも冷静なキーマにツッコまれる。ぷるぷるの唇を軽くとんがらせながら梛はミミックに隠していた道具を取り出した。


「制服一式が入ったスーツケースとー、生徒付きメイドの入館証とー、変装用の眼鏡とかつらとヘッドドレスとー、見取り図はどこだったかしら?」


「ミミックの底に護身用の短剣とかと一緒に入れたって言ってたにゃ」


「底? 何にもないけど……」


 隠れ蓑にしていた生地を全て取り出して、ミミックを覗き込む。暗くてはっきり見えないが、手探りで確かめると底板に溝と蝶番(ちょうつがい)があるのが分かる。


「あっ、これの事ね」


 溝の隅に持ち手の帯が挟まれていたのを見つけて底板の蓋を持ち上げると、二、三段ぐらいのカラーボックスサイズの空間が現れた。確かにホルダーに収まった短剣らしき物と一緒に梱包された袋がいくつかある。


「このミミック見た目より中が狭いと思ってたけど、こんな作りになってたのね。結構かさばるわ……。次元収納使えればいいのに。……これ、もしかしてレッグホルダーじゃなくて、ガーターベルトタイプ……?」


 梛はメイド服のスカートをめくり上げて、裾をエプロンのウエスト部分に挟んで仮止めすると、下着丸見え状態でむっちりした太ももにガーターベルトを装着し、短剣をセットする。こんなおへそ丸出しの格好、レン君にはお見せできない。


 ところでこの短剣を使おうと思ったら、またスカートをたくし上げなきゃいけないの? ショーツが丸見えになるんだけど。やっぱりセクシーマッチョ店主に遊ばれてる?


「魔導学園内でキューブ出したら、しゅぐに女神の御使いがいるってバレるでしゅ」


「店主さんにもそう言われたけど、そんなにすぐ分かるものなの?」


「女神の御使いがもたらす異界の知識があれば、飛躍的に技じゅちゅ革新ができるにゃ。魔導学園はしょんなのを研きゅーしゅてるのばっかりでしゅよ。あっちこっちで探知系じゅちゅ式ちゅかってるから、ちょっとでも引っかかったらハウリング起きてしゅぐ居場所を突き止められるにゃ。貴族ならともかく身元不明の御使いなんて、骨の髄まで吸われるでしゅよ……あ、ういろうできたにゃ」


「こわっ。気を付けるわ……」


 脳裏に浮かぶ手術台の宇宙人。ぶるりと身震いすると梛は見取り図を広げて目的地までの経路をしっかりと確認した。ここは主に貴族層の生徒の寮が近い、海に面した東側の双塔だ。


「教授たちの研究室は、この塔の上層階ね。階段登るの大変そう……」


「階段そばに昇降機あるでしゅよ」


「この筒状のエリアね。研究室への通路も近いし、これならいけそうだわ」


 銀髪は目立つらしいので黒髪お下げのかつらに顔が隠れる大きめのヘッドドレス、反射で瞳が見えづらい丸眼鏡、入館証を付けて、片手にスーツケース、片腕に残りの梱包された袋を抱え、備品室を出る。


 廊下には何人かの生徒がいたが、梛は無表情を装って廊下の端を静かに歩いた。傍目にはご主人様に予備の制服を用意して届けに行くメイドに見えるはず。


「どうしよう、キーマたん。何か小声で叱られてる気がするんだけど……私、作法的にどこかおかしい事してるのかしら?」


 ひそひそと宝石伝いに話しかけると、キーマはフォークで出来立てのういろうを食べながら言った。


「ましゅたーの胸をガン見しゅて、けしからんって喜んでるだけにゃ。うにゃうにゃ、美味しいにゃ。学園では作法に関してはあんまり厳しく言われにゃいから大丈夫でしゅよ。甘みの中に高純度の生命エネルギーも溶けてるにゃ。顔は全然見られてないから安心するにゃ」


「何か複雑だわ……」


 顔が記憶に残らないのはありがたいが、胸だけ目立っているのも落ち着かない。抱えた袋で胸を隠すようにして廊下を進む。何だか奇妙な感覚がする。歩いているのは異世界ミラーなのに、リアルの建物の中を歩いているような違和感。それがどこから来るのかは、よく分からない。


「生徒の数が多いわね……」


 今日の授業は終わっている時間だが、廊下にはひっきりなしに生徒が忙しく行き交っている。


「祭典がちゅかいから、準備で残る生徒が多いでしゅ」


「ああ、前に言ってたあれね。要するに学園祭みたいなものかしら」


 教室で展示でもするのか、画材を抱えた女子生徒たちが梛の前を歩きながら楽し気に話している。


「ねえ聞いた? 魔道科の生徒が例の実験室で幽霊を見たんですって!」

「騎士科の先輩も夜の巡回中に誰もいない音楽室から助けてくれってすすり泣く声を聞いたそうよ」

「わたくしは学園の地下水路で何かを引きずるような音がするって聞いたけど……」

「やだ、こわーい! でもこの学園の幽霊話に地下水路入ってたかしら?」

「それよりあなた、いつ騎士科の先輩と仲良くなったのよ」

「えっ、それはその、ほら、道具を取りに行った時に手助けして下さって……」


「あらー、こっちでもこういう七不思議系の話って盛り上がるのねー。いいわねー、友だちと恋バナとか青春っぽくて」


 十代の初々しいやり取りが眩しくてたまらない。学生時代に自分もこんな経験をしてみたかった。制服のデザインも可愛いし、うらやましい事この上ない。


 生徒たちの和気あいあいとした雰囲気。廊下の端で背中合わせにこっそりと手をつないでいる恋人らしき生徒。忙しくも充実した笑顔で作業に没頭する生徒たち。美しく整えられた中庭の生け垣に咲く花々を揺らすやわらかな風。ひるがえる乙女たちのスカートをどぎまぎしながらチラ見しては柱に顔をぶつける男子生徒。やだもう、甘酸っぱーい。


 そして中庭の中央で、獣人の男子生徒を取り巻きを使って無理矢理四つん這いにさせて高笑いする金持ちそうな男子生徒。その手には羽をつかまれてじたばたともがくふわふわの小鳥。


「犬なんだろ? 芸のひとつでも見せてくれれば、こいつを返さない事もなぃぐべぼほおっ!?」


 最後まで言い切る前に、金持ちそうな男子生徒は梛の飛び膝蹴りを顔面に受けてど派手に転がっていった。

いつもお読み下さって本当にありがとうございます!うわー……気が付けばもう一年です……月に3回のスローペースにも関わらず、皆様がここに来て下さるお陰で今日まで続けることが出来ました。本当に本当にありがとうございます!これからもほんの少しでも皆様の息抜きや楽しみになれますようにコツコツ書き続けてまいります。

次回更新は4月10日頃更新の予定です。

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