第202話 持つべき覚悟
アテネ島・アテナイ村―――。
アシーナとオリオンは各地の簡易ゲートを訪れていた。
「これからはクロノス様が設置してくださったこの簡易的なゲートを利用してくれて構わないわ。誰でも使えるようにしてくれているから」
「それなら言われなくても既に利用しているぞ。アキレウスのヤツが発見してな。組織の連中も味を占めて勝手に使っている」
「あら。そうなの? それなら話が早いわ。ゼウスがいつ攻めて来るか分からないから、緊急時にも役立つと思う。警告や警報だけならオリンポス神殿から発信できるけど、他の島で問題が起きた場合は直接出向かなければならないから」
オリオンは葉巻に火をつけ、空に向かい煙を吐く。
「実際、どういう気分なんだ?」
「何が?」
「世界を滅ぼそうとしているのはお前の実の父親だ。その父親と戦うってのはどういう気持ちなのか興味があってな。それに、お前が寝返る可能性だってゼロではないだろ? まぁ、そんな事するような奴には到底見えねぇが」
アシーナはオリーブの神木を見つめる。
「ゼウスのやり方には、物心がついた時からずっと疑問に思っていた。そう思えるようになったのはニケとミノス王のおかげ。ゼウスは自分以外の存在をただの駒としてしか見ていないわ。実の娘でさえも・・・」
「アース侵攻戦の時に、私はそれを身をもって痛感した。私の中では、とうに覚悟は出来ている。例えゼウスを殺す事になったとしても、私が止める。私がやらなければいけない事」
振り向きオリオンに微笑みかける。
「何より、皆のいるこの星が大好きだもの。万に一つも。何があっても絶対に裏切る事はないわ。皆を裏切るくらいなら、私は死を選ぶ」
アシーナの優しく力強い眼差しに、オリオンは思わず笑い声をあげた。
「なかなかどうして、信念を持った女新王だ。確かに覚悟は伝わった。面白れぇじゃねえか」
「巨星の力、当てにさせてもらうからね」
アシーナは肘でオリオンの脇腹を小突く。
「フン。姫の為だ。仕方ねぇ」
アシーナは何かに呼ばれたような気がしてオリーブの神木を振り返る。
「・・・・・」
「どうした?」
「ごめんなさい。先に行って。少し寄っていくところがあるの」
アシーナは簡易ゲートに消えるオリオンを見送り、神木へ向かった―――。
「何だかここへ来るのも久しぶりね」
『新たに生まれし創造の星が黒き破壊の星を喰らう』
『創造の星が半身削ぎし時、数多の光が世界を照らす』
『地に落つ半身から葉脈は芽吹く』
『若葉は歌う。循環する安寧の箱庭の中で』
「結局、受けた神託の意味は理解できないまま・・・ ソフィア様は、神託はこの星を救える可能性のある者にしか聞こえないと言っていた。ゼウスにも聞こえていたはずなのに、彼は道を踏み外した。いいえ。最初から踏み外していたのね・・・ 一体、どんな内容だったのかしら」
オリーブの神木がほのかに輝き出す。
「えっ?!」
辺りは深い霧に覆われるように白い光に包まれた。
神木から、黒い修道服に身を包んだ一人の女性が舞い降りる。
着地するや否や、女性はアシーナに飛びついた。
「アシーナちゃん久しぶり~!! 元気だった?」
「ソ、ソフィア様っ?!」
「も~。相変わらず綺麗な子ね~。いい匂いするし♪」
ソフィアは蕩けきった表情でアシーナに頬ずりする。
「あ、ありがとうございます・・・?」
呆気にとられるアシーナに、ソフィアは照れ笑いする。
「ごめんなさい。アシーナちゃんに会えたのが嬉しくて。つい」
「適切な表現なのか分かりませんが、ソフィア様もお変わりないようで安心しました。もう二度と会えないと思っていましたので」
アシーナの真紅の瞳がきらりと光る。
素直な言葉である事はすぐに分かった。
「ありがとう。でも、私も驚いたわ。まさかまたこの姿に戻れるなんてね。星にとって、私の存在はまだ必要だという事でしょうけど」
ソフィアは黙ってアシーナの瞳を見つめた。
「ど、どうかされましたか?」
「・・・・・」
「ソフィア様・・・?」
長い沈黙に、アシーナの不安は大きくなる。
「そっか。そうよね。なかなか覚悟は出来ないわよね」
「覚悟?」
ソフィアは、少し悲しそうに微笑み下を向く。
「それなら大丈夫ですよ。ゼウスを討つ覚悟なら既にできています。決して揺らぐことは・・・」
ソフィアは静かに首を横に振る。
「私には、あなたの受けた神託の内容は分からない。けれど、これだけは言える。あなたが、あなたの受けた神託を本当の意味で理解した時、受け入れなければいけない真実がそこにあるでしょう。それは必然であり、避けられない事。選択を迫られるのではなく、決断しなければいけない事でもなく、ただ受け入れるしかない真実」
「受け入れなければいけない、真実・・・?」
「そう。それは重き鎖となってあなたを縛り付ける。もしかしたら、その重みに押し潰されてしまうかもしれない」
不安を滲ませるアシーナの頭を優しく撫でる。
「でも、アシーナちゃんならきっと乗り越えられるわ。私はそう信じている」
「ソフィア様・・・」
「今はまだ、ただ不安で分からないかも知れない。でも近い将来、そういう事が起こるという事を覚えておけば、少なくとも何も知らないよりは気持ちが楽になると思う」
「大丈夫。世界はきっと、良い方向へ向かっていくから」
笑顔を向けるソフィアは光の玉となり、オリーブの神木の中へ消えていった。
辺り一帯を包んでいた白い霧が晴れていく。
「受け入れるしかない真実・・・ 覚悟・・・」
アシーナは神木を見上げ、心に刻み込むようにその言葉を繰り返した。
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