第201話 兆し
「それは・・・ 本当ですか?」
エリスは半信半疑は顔のテッサの手を握る。
「この目が嘘を言っているようにお見えになって?」
睡眠不足による疲労を感じさせない力強い眼差しに、テッサは思わずエリスを抱きしめる。
「こんなになるまで・・・ 私なんかの為に、申し訳ありません」
「ふふ。こういう時は謝るのではなく、お礼を申し上げるべきですわよ」
「ありがとうございます・・・ エリスさん」
テッサは決意を秘めた瞳で俺を見つめる。
「心配するな。最後まで付き合うさ」
「ぴゅらもいくー!!」
「友が行くならぼくもー!!」
テッサは疑うようにパンドラを見る。
「観光に行くのではないのですよ? 別にあなたは無理に同行しなくても構いません」
「え~。ぼくだけ仲間はずれなんて酷いじゃないか」
パンドラはしおらしく指を合わせている。
「案内役も必要でしょうし、わたくしも行きますわ!」
エリスはくっきりとクマの出来た瞳をキラキラと輝かせる。
「エリスは元気だなぁ・・・ 僕は遠慮しておくよ。ちょっと疲れちゃったし、アレスのところへ戻らないと」
デイモスは、ぐったりと肩を落とす。
「危険が伴うかもしれませんよ。大丈夫ですか?」
「当たり前ですわ! 理想郷の為なら死んでも諦めません!」
パンドラはエリスに肩を組む。
「あははっ!! 君、いい根性してるね! 気に入った! 大丈夫、何かあったらニケやテッサが何とかしてくれるさ♪」
「・・・あなたは含まれていないのですね」
「そりゃもちろん! ぼくはケライノのせいで疲れやすい体質だからね♪」
〖そんなにお望みならエーテルを食らい尽くしてやるぞ?〗
顕現したケライノはパンドラの肩に座り、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「君に憑依された後はかなり負荷が掛かるんで止めてください。いや、ほんとに・・・」
〖仕方なかろう。お主のエーテルは美味なんじゃ。ついつい使いすぎてしまうんじゃよ。いいじゃろ、どうせピンピンしとるんじゃし♪ おっと・・・〗
ケライノは垂れる涎を急いで拭き取った。
「きゃー!! これまた気品に満ちた精霊ですわね!! とてつもないオーラを感じますわ!」
〖ふふん♪ そうじゃろう?! もっと崇めても良いのじゃぞ?〗
ケライノはパンドラの肩の上で仁王立ちし、これ見よがしに羽織る漆黒の着物をなびかせる。
あしらわれた真紅のモミジがうつくしい。
「あぁ・・・ 惚れ惚れしますわ・・・ いたっ?!」
エリスが浸っていると、ピュラが頭を踏んづけケライノに飛びかかった。
「けらいの~!!」
〖ひっ?! ピュラ?! ええい、寄るなケダモノめ!!〗
すんでのところでピュラの手を躱し、上昇する。
「あっはは! ケライノも大袈裟だなあ! そんなに拒否反応を起こさなくても大丈夫なのに」
〖お主は何も分かっておらんようじゃな。見よ。あの目は捕食者の目じゃ。本気じゃ・・・〗
「やめておけ」
目をキラキラさせて興奮するピュラを持ち上げる。
「さ、行くわよ。アマルティア学院長が見て下さるんだって」
「う、うん」
アフロディーテはガイアの手を取る。
「大丈夫よ。学院長とっても優しいから」
「ほんと? ままとどっちが優しい?」
ガイアはふわふわ浮遊するケストスの匂いに包まれながら尋ねる。
「お前の事だと思うぞ」
アポロンは呆気にとられるアフロディーテの肩に手を置いた。
「べ、別に。私は優しくなんかないわよ」
「あはは! アフロディーテ様も素直じゃないですよね」
「うるさいわねアルテミス。 ・・・あなた、ちょっと見ない間に強くなったわね。
何かこう、精神的に」
「へ? そうですか?」
首を傾げるアルテミスに、アフロディーテは肩をすくめた。
「アルテミス様」
アマルティアはアフロディーテ達の後をついていくアルテミスを引き留めた。
「どうかされましたか?」
「レト教授が倒れられました。今は自室でお休みになられております。レト教授の一番の教え子であったアルテミス様にはお伝えした方が良いかと思いまして」
「そんな! 大丈夫なのでしょうか?!」
アルテミスの表情が不安に変わる。
「命に別状はありませんが、実を言うと今回が二回目なのです。様子がおかしいので私も気に掛けていたのですが・・・ 身体的には異常は見当たらないので、恐らく精神的なものであると推測します」
「時間がある時に顔を出してあげてください。私も出来るだけ伺うようにしますが、あなたの顔を見れば安心すると思いますので」
そう言うと、アマルティアは一礼し王の間を出て行った。
アルテミスは足早にレトの元へ向かった。
ミュケナイ島・北東部―――。
俺達は島の真ん中の、何もない草原に立っている。
目の前に設置された転移用の魔法陣が刻まれているだけだ。
「本当にここから行けるのか? そんな雰囲気は少しもないが・・・」
「問題ないはずですわ。書物によれば、理想郷はエーテル濃度が高い場所から繋がる事がほとんどだそうです。エーテルは、その性質上、濃度が高くなるほど空気より重くなり沈んでいきます。ミュケナイ島はユピテリアの中でも随一のエーテル濃度。つまり、このミュケナイ島の下には超高濃度なエーテルの海が広がっていると見て間違いありません」
「そう言えば、ぼく達がエリュシオンに飛ばされた時も、タルタロスの海に身を投げた時だったもんなぁ。テッサには苦労させられたもんだよ」
笑顔でテッサに微笑みかける。
「あ、あの時は、その・・・ 申し訳ありませんでした」
テッサは頬を赤らめそっぽを向く。
「あの時は結果的に何とかなりましたけど、大丈夫でしょうか? タルタロスの海のエーテル濃度は相当なものですから、エリスさんの話も頷けます。しかし、それだけで行けるとは思えませんけど・・・」
エリスはビシッとテッサとパンドラを指差す。
「もちろん、それだけでは不可能に近いです。ですが、あなたがたには精霊が宿っています。理想郷へ渡るには、高濃度のエーテルと精霊の接触。この二つの条件が必要なのです」
〖ふむ。一理ある。試してみる価値はありそうじゃな〗
「ケライノが戻り方を知っていれば話が早かったのにな~。おばあちゃん言葉遣う癖に、肝心な事は知らないんだから」
〖う、うるさいわ! 里から出た事なかったのじゃから仕方なかろう! 出た事がないんじゃから、戻り方なんて知らなくて当然じゃ!〗
ケライノは顔を真っ赤にして憤慨する。
「あまり時間もない。そうと決まればさっさと行くぞ」
「おー!!」
ピュラは元気に手を上げた。
テッサは長刀を強く握りしめる。
「大丈夫。エレクトラはきっと戻って来るさ」
パンドラは肩を組み微笑みかける。
「そうですね。そう信じます」
「それでは、参りましょう」
俺達が魔法陣の上に立つと、魔法陣は淡い光を放ち静かにその場から姿を消した―――。
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