第197話 大地のぬくもり
「ーーーフィー。アッフィー」
遠くで良く知る声が聞こえる。
子供の頃から知る、とても安心できる声。
「アッフィー。起きてアッフィー」
「うー・・・ん?」
ゆっくりと目を開けると、ガイアが優しく微笑んでいた。
「ガイア様・・・?!」
アフロディーテは飛び起きガイアの手を握る。
「ガイア様! 良かった!! 無事だったのね?!」
アフロディーテは安堵の息を漏らす。
「アッフィーったら大袈裟ねぇ。でも、ありがとっ♪ 心配してくれたのね」
「べ、別にそういうわけじゃ・・・」
照れ隠しにそっぽを向くアフロディーテに、ガイアは困ったように微笑む。
「アッフィーが優しいのはバレちゃってるんだから、そんなに照れなくてもいいのに」
「う、うるさいわね。こういう性格なのよ」
「はいはい。分かりましたから」
「母親面しないでって、言っているのに・・・」
ガイアは頬を膨らめるアフロディーテを優しく抱き寄せる。
木漏れ日の中にいるような温かいぬくもりに、アフロディーテは何も言わずただその身を任せる。
「ねぇ。ガイア様って、なんでそんなに寛大なの? 器が大きいっていうか」
「そんなの決まっているじゃない」
「何ですか?」
ガイアは得意気に指を立てる。
「地母神だからよ♪」
「・・・・・」
アフロディーテはガイアに抱かれたまま黙っている。
「ちょっと!? どうして黙るのよ!」
「いや、だって分かりきった事ですし。捻りがなくて面白くないなーって」
「い、いいじゃない! 本当の事なんだし!」
「はいはい。分かりましたから」
ガイアは頬を膨らます。
「もう! 真似しないでよ! アッフィーの意地悪っ!」
「あははっ!! お返しです♪」
ガイアは美しく流れる金髪を優しく撫でる。
「アッフィーの髪、本当に綺麗よね」
「ふふん。伊達に美の女神を名乗っていないから」
「肌もつやつやだし、身長も高いし、スタイル良いし。ほんと、世の女性の理想をそのまま具現化したような娘よね。ちょっとだけ羨ましいな」
アフロディーテはおもむろに起き上がる。
「ガイア様でも羨ましく思う事あるんですね。どうしたんですか? ベタ褒めするなんて、ガイア様らしくないじゃないですか」
「あのね、アッフィー。私だって女の子なのよ? 綺麗な人を見れば羨ましく思う事だってあるわよ。ほら、私ってばこんな体型でしょ? 実を言うとね、あなたにずっと憧れていたのよ。あなたのその芸術的な美しさに。あなたは私にとって理想の女性なの」
「おばあちゃんの間違いですよね?」
「ムキィー!! おばあちゃんじゃないって言っているのに!」
ガイアは荒ぶる獣のように鼻息荒く、両手を挙げ抗議する。
「じ、冗談ですって・・・」
「そういえば、アポロンとアシーナはどこにいるの? さっきから姿が見えないけど」
ガイアの表情に陰りが見える。
「アッピーもアッシーも、ここにはいないわ」
「え? どういうこと?」
「ここは私のエーテルが繋いだ精神世界みたいなものね。最後にアッフィーに会いたい!って想いが伝わったのかも」
アフロディーテの表情が一変する。
「ちょっと・・・ 最後って、どういう事?」
「私と繋がっていたエトナのエーテルは、私のエーテルと溶け合って完全に私の一部になっていたから。そんな私の身体を構成する大半を占める部分が奪われちゃったからね。さすがに、もう『私』を保っていられないってこと」
「そんな・・・ どうにかならないの? そうだ! アシーナなら治癒術だって得意だし、治してくれるかも!!」
ガイアは静かに首を振る。
「失った手足を元に戻せる治癒術はないでしょ? それと同じ」
「本当はちゃんとこの星の行方を見届けたかった。いいえ、あなたの成長を見届けたかった。でも、私達の時代はもう終わったの。これからはあなた達の時代。もう私なんかがいなくても大丈夫よね。アッフィーにはたくさんの仲間がいるんだもの」
アフロディーテはきつくガイアを抱きしめる。
「全然大丈夫じゃないです。私にはガイア様が必要なんです。いつまでも。これからもずっと」
「もう。アッフィーったらこういう時ばかり甘えん坊さんなのね。 ・・・『あの子』の事、よろしくね。最初は大変かも知れないけど、あなたになら、きっと心を開いてくれるから」
「どういう意味・・・? 何を言っているの・・・?」
ガイアの体が仄かに光り出す。
「あら? そろそろお別れの時間かしら」
アフロディーテの頭を優しく撫でる。
「アッピーとアッシーにもよろしく言っておいてね。特に、アッシーはだいぶ気にしているみたいだから。ちゃんとフォローしてあげてね」
「アッピーとの事、お母さんちゃんと見ているからね。あまり我がままばかり言っていると愛想つかされちゃうからね」
アフロディーテは首を振る。
「嫌です。自分で伝えてくださいよ。いつだってそう。いつもそうやって面倒な事は全部私に押し付けて・・・」
目の前のガイアが涙で滲む。
「ごめんね」
ガイアは優しく微笑む。
「思い出がありすぎて、感謝しきれないくらい恩を受けて。愛情をもらって。それで・・・ ダメ。こういう時に限って言葉がまとまらない」
「あははっ♪ アッフィーったら大袈裟なんだから。心配しなくても、きっとまた会える日が来るわよ。この星に生きている限り、ね」
そっと撫でていた手を離す。
「今まで本当にありがとうね。ずっと、支えてもらっていたのは私の方。あなたがいてくれたから、アースを守ろうと思えた。あなたがいてくれたから、頑張ろうって思えた」
次第にガイアの体が光に包まれ透けていく。
『大水晶』を取り出しアフロディーテに手渡す。
そしてその手をそっと握った。
「・・・これは」
「アッフィーにはたくさんのものを貰ったから。そのお返し♪ 私が与えられるのは、これで最後」
アフロディーテは『大水晶』を優しく包み込む。
「・・・ありがとう。お母さん」
アフロディーテは涙を拭い微笑みかける。
ガイアもそれに応え、満面の笑みを浮かべた。
「それじゃ、元気でね。私の理想の女の子」
ガイアは光の玉となり空へ昇って行った。
「さようなら。地母神ガイア」
アフロディーテは立ち尽くし、空を見上げていた―――。
「あれ・・・? 私・・・」
眠い目をこすり体を起こす。
目の前には寝息を立てるガイア。
体の節々が痛い。
どうやら現実世界に戻ってきたようだ。
「アフロディーテ?!」
寝室に入ってきたアシーナとアポロンは驚いた様子で駆け寄る。
「どうしたのよ。そんなに慌てて」
「だって! 眠ったと思ったら、あなたまで目を覚まさなくなっちゃったから心配して」
「ふぅ。とにかく目覚めて良かった」
二人はホッと一息ついた。
「・・・・・」
(夢だったのかしら・・・?)
「う・・・ん」
ふと隣に目をやると、ガイアは眩しそうに顔を歪め目を覚ました。
重たそうに半身を起こす。
「ガイア様!!」
アフロディーテの表情がパッと明るくなる。
「良かった!! 死んでしまったのかと思ったんですよ! あまり心配かけないで下さい!」
小さなその手を取り喜びを露わにする。
ガイアはその手を振りほどいた。
「え・・・?」
疑うような目でアフロディーテを見る。
明らかに警戒している。
気のせいか、怯えているようにすら見える。
「ど、どうしたんですかガイア様? 何をそんなに怒って・・・」
「あなたは・・・ 誰・・・?」
ガイアの放った一言に、アフロディーテの頭の中は真っ白になった。
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