第196話 悪魔も惚れる女神
「こうして直接お会いするのは初めてですね。無事に戻ってこられて何よりですペルセポネ様。私はアマルティア。オリンピア上級学院の学院長を務め、現在はアシーナ様によりユピテリアのかじ取りを任されている者です」
アマルティアは胸に手を当て深々とお辞儀をした。
「は、はじめまして。ペルセポネです。ご丁寧にどうも・・・」
ペルセポネもつられて頭を下げる。
アマルティアの気品溢れる所作に釘付けのようだ。
「あはは! 見ろよメガイラ! あのペルさんが緊張してらぁ♪」
アレクトは腹を抱え笑っている。
「あ・・・」
メガイラは笑顔でアレクトの後ろに立つペルセポネの姿に戦慄する。
「あらあら。アレクトったら、今日も調子がいいようで何よりね」
ペルセポネはアレクトの耳を思い切り引っ張る。
「いででででで?!!!」
「わ、悪かったって!! やめてくれ!! 千切れるっ!!」
俺はテッサ達と顔を見合わせ肩をすくめた。
「やれやれ。病み上がりとは思えん元気さだな」
突然ペルセポネは勢いよく腕に抱き着いてくる。
「そんな事はありませんっ! 実は衰弱が酷くて~。今にも倒れそうなんですよね~。あ、ニケ様のキスがあれば元気になるかもしれません♪」
「とてもそうは見えんがな・・・」
目を閉じキスを迫るペルセポネを引き剥がす。
「あん♪ ニケ様ったらシャイなんだから♪」
テッサは指で作ったフレームに二人を収める。
「アシーナさんがここにいない事が実に惜しいですね」
「君もほんと好きだねぇ・・・」
どこかワクワクした様子のテッサを見てパンドラは苦笑いする。
「そういえば、アシーナ達の姿がないね。まだ戻ってきていないのかな? お?」
パンドラが周囲を見渡すと、見慣れた二人を捉える。
「てめぇら、下僕の分際でこの俺を無視するとは良い度胸じゃねぇか」
「ほ、ほら。私達あまり目立たないから」
「姫はともかく、さすがにこの俺が目立たないって事はないはずだぞ?!」
アルテミスは怒りを露わにするオリオンを必死になだめる。
「巨星については先程アルテミス様からお伺いしました。結果的に争う事がなくなったのは、とても素晴らしい事だと思います」
「フン。利害が一致するから一時的に休戦するだけだ。勘違いするなよ」
オリオンはアマルティアをまじまじと見つめた。
「たとえ一時的であったとしても、情勢を鑑みての決断でしょう。あなたは見た目以上に冷静な判断が出来るお方。こうしてお話しさせていただいておりますが、あなたはそのような蛮行は行わないと思います。反神族組織のリーダーは、とても聡明なお方のようですね」
アマルティアの慈愛に満ちた微笑みに、オリオンは思わず見入ってしまう。
「べ、別にそういうつもりじゃねぇよ」
「ぷっ! オリオン君タジタジじゃないか。アルテミスに情熱を注ぐ割に、何だかんだ言って美人に弱いんだ♪ ほら、テッサも何か言ってやれよ」
パンドラは笑いながらテッサに片を組む。
「私はそこの野蛮人には微塵も興味がないので特に言う事はありません」
「だっ、誰がだ?! 俺には姫という心に決めた人がいるんだ!! その辺の女なんかに揺らぐわけねぇだろうが!!」
「そ、その辺の女・・・」
これまでそのような言葉を受けた事がなかったのだろう。
アマルティアはショックで呆然とする。
「あわわわっ?! も、申し訳ございませんアマルティア学院長!! オリオン様も悪気があるわけではっ!!」
「その辺の女・・・」
アマルティアの頭の中は、『その辺の女』で埋め尽くされていた。
「あの野蛮人のせいで話が進みませんよ。責任取ってくださいね、アニキさん」
テッサは俺の脇腹を小突く。
「その呼び方は止めろ。それと、勝手についてきたのはあいつだ。俺は知らん」
「あはは! ニケも酷いヤツだなあ♪」
「あいつ、うるさい・・・」
呆けるアマルティアと騒ぎ立てるオリオンに挟まれるアルテミスに、ただため息をつくしかなかった―――。
アース神殿―――。
「ガイア様、なかなか目覚めないわね・・・」
ベッドで静かに寝息を立てるガイアと、看病で疲れ傍らで仮眠をとるアフロディーテを悲し気に見つめるアシーナとアポロン。
「仕方のない事だ。だが、見たところ外傷はなく普通に眠っているようにも見えるが、ガイア様を繋いでいた数多のエーテルの糸・・・ それを無理矢理引き剥がされたんだ。精神的に無事でいられるとは思えない・・・ さすがに心配だな」
「・・・ここでは二人が休まらないわね。ちょっと外しましょうか」
アシーナとアポロンは広がる廃墟を見下ろす。
「それにしても、まさかエトナや人々がエーテルで復元された幻だったなんて、未だに信じられないわ。こうして廃墟だけが残る現実を突きつけられても」
「ガイア様は、言ってしまえばエトナの歴史そのものをその身一つに留めていた。それはやろうと思ってできる事ではない。本人の能力もさることながら、それに耐えうる肉体・精神的な適性も必要なはずだ。長い月日をかけて積み上がった情報量は相当なもの。それを一気にその身に受けようものなら、大抵の者は負荷に耐えられず一瞬でエーテルに帰すか、良くて精神崩壊だろう」
「それを、一つ一つのエーテルの記憶を確実にコントロールしかつてのエトナの町を再現していたのだからな。それもこの広さを、だ。驚きを通り越して崇拝する次元だ」
アシーナは拳を握る。
「だけど、ガイア様が守っていたかけがえのない記憶が奪われた。私のせいで・・・ 私が集中を切らす事さえしなければ・・・ ガイア様を押し切ってでも彼女に止めを刺していれば、あんなことにはっ・・・!!」
アポロンは静かに首を振る。
「過ぎた事を悔やんでも始まらない。俺たちにできる事は、同じ過ちを繰り返さない事。そして、何としてもゼウスの野望を阻止し、星を救う事だ。違うか?」
「・・・そうね。ごめんなさい。ダメだと分かっているのに、どうしても感情的になってしまう・・・ いつまでもこんなじゃ、ガイア様に叱られてしまうわね」
「ガイア様を怒らせると面倒だからな」
アポロンは思わず笑顔になる。
「それ、ガイア様が起きたら伝えてあげるわね♪」
「勘弁してくれ・・・」
二人は覚悟を持った眼差しで、静まり返った廃墟を見つめていた。
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