第194話 急行
「なるほど。分かったよ。オリオン君が持っていた闇の力は既にニケ君に吸収され、結果的に和解。ユピテリアに協力する意思表示の為にニケ君たちに同行中ではあるけれど、ネメシスへの制裁は最優先される、と。そういう事だね」
「勘違いするな。俺はアニキに協力するのであって、ユピテリアに協力するわけじゃねぇ」
「ごめんごめん! 君の言う通りだけど、結果的にユピテリアに協力してくれるという事に変わりはない。そこに対して素直に感謝したいだけだよ」
ミノスは鼻息が荒いオリオンをなだめる。
「あなたではネメシスに勝てないと思いますけどね。秒殺されるのがオチです」
テッサは肩をすくめる。
「うるせぇ。勝つ勝たないの話じゃねぇんだよ」
オリオンは覚悟を持った眼差しをテッサに向ける。
「・・・そうですね。少し意地悪が過ぎました」
「ところで、お前は一体何をしているんだ? あのオモチャに王位を丸投げしておいて、まさか遊んでいるわけではあるまい?」
「オモチャじゃねぇって言ってんだろうが!」
テッサは今にも飛びかかりそうなアレスの腕を引く。
「ああ。アマルティア学院長に頼まれて、島中の神殿から招集した兵士たちに僕の力で能力を引き上げていた所なんだ。相手が相手だからね。何もしないよりはいいと思ったのさ。それに、島間のパイプ役を任されているからね。与えられた任務は全うしないと」
「島中の?! お身体は大丈夫なのですか?」
パイドラとアリアドネは珍しく動揺した様子で問いかける。
「ああ、大丈夫だよ。僕も無理できる年ではないしね。その辺はちゃんと調整しているさ。それに、島中と言っても兵士の数は一般人に比べれば少数だからね。一般人を徴兵するなら話は別だけど、よほどの事がない限りアシーナちゃんはそれを選択しないだろうしね」
アリアドネは、さりげなく肩に手を回そうとするミノスの腕を強めに叩く。
「いたっ?!」
「訴えますよミノス」
「『様』まで取らなくても・・・」
ミノスは泣きながらがっくりと肩を落とした。
「ニケ、どうしたの? 何か難しい顔しているけど・・・」
アルテミスは考え込む俺の顔を覗き込む。
「オリオンの話だと、オデュッセウスとやらがネメシスにやられたのはタルタロス。そもそもネメシスは何故タルタロスにいた? 奴はゼウスの配下だ。意味もなくタルタロスにいたとは思えない。何か目的があったはずだ」
「そういえば、私達が初めて彼女に会った時もエーテルを集めていると言っていましたね」
テッサは顎に手を当てる。
「集めたエーテルによるタナトスの召喚が目的なら、かなりのエーテル量が必要なはず。そんなエーテルが存在する場所など・・・」
俺とテッサは顔を見合わせる。
「あの大海・・・ 確かエーテルが溶け込んでいたよな?」
「はい。タルタロスは天地が逆転した世界。あの黒海を模した空はタルタロスの半分以上を占める。そこに長い年月をかけ溶け込み浸透したエーテル・・・」
「ミノス。すぐにゲートを開いてくれ」
すぐに状況を察したミノスは神妙な面持ちでゲートを開く。
「私はオリオン様をアマルティア学院長の元へ連れて行くよ。こっちは任せて!」
「ようやく姫と二人きりになれるぜ!!」
オリオンはひとりガッツポーズをする。
「クロノス様が設置してくれた簡易ゲートですぐだから・・・」
アルテミスは苦笑いする。
「行くぞ」
オリオンの事はアルテミスに任せ、俺達はタルタロスへ向かうべくミノスの開いたゲートに身を投じた―――。
あれだけ大地に満ちていた海水はすっかり無くなり、空の代わりに底知れぬ峡谷が広がっている。
変わり果てたタルタロスの光景に息を呑む。
峡谷の先端に立つ一人の女性が目に入った。
「ぺるせぽね!!」
ピュラはペルセポネを見るや否や、猛ダッシュで背中に飛び込んだ。
「わっ?! ピュラちゃん?! どうしてここに・・・?」
「一足遅かったか」
「ニケ様・・・?!」
パンドラは峡谷を見下ろす。
「ひゃ~。こりゃ落ちたら戻ってこられないね。エーテルと同化するのも嫌だけど、これはこれで物理的に痛そう・・・」
「ど、どうしたのですか? みんなお揃いで」
ペルセポネは目元を拭う。
「ネメシスがここへ来たという話を聞いてな。まさかと思って駆けつけたが、どうやらエーテルは奪われたようだな」
「ゼウスに囚われていたようだが、無事なようで何よりだ」
ペルセポネの様子を見て安堵の息を漏らす。
「目覚めたばかりで、まだ本調子ではないですけどね」
ペルセポネは舌を出し苦笑いする。
「アシーナが心配していた。そのうち顔を見せてやってくれ」
「自分の事でいっぱいだったあの子が? 随分変わったのですね」
ピュラは楽しそうにペルセポネの角にぶら下がっている。
微笑みかけるピュラに、テッサは笑顔で手を振った。
「君がペルセポネか! こりゃまた相当な化け物だ! 今まで見た中で一、二を争うかも! ニケってば、つくづく化け物に好かれるんだね♪」
パンドラは嬉しそうにニケに肩を組む。
「別に狙っているわけではない」
能天気なパンドラにため息をつく。
「ちょっと?! 私のニケ様に気安く触らないでちょうだい!」
ペルセポネは俺の腕を思い切り引っ張る。
「ええ~?! いいじゃないか減るもんじゃないし! ニケの傍は居心地いいんだよ! 君こそぼくの心の友を独占しているじゃないか!」
パンドラは嬉しそうに角にぶら下がるピュラを指差し抗議する。
「そんな事知らないわ!」
二人はニケの腕を引っ張り合っている。
「おい。見ていないで何とかしてくれ」
「フフ。アシーナさんが見たら大変な事になりそうですね」
ニケの訴えを気にも留めず、一人妄想に耽るテッサは口元を押さえ三人を見つめていた。
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