第191話 復活の悪魔
アレクトとメガイラは、タルタロスでの出来事を報告するためユピテリアを訪れていた。
「そうですか。クロノス様が・・・」
アマルティアの表情に陰りが見える。
「黒海のエーテルが半分以上奪われちまった・・・ クロノス様まで・・・ くそっ!!」
アレクトは歯を食いしばる。
メガイラもただうつむくしかなかった。
「クロノス様のエーテルの波動が急激に小さくなられたので、何かあったとは思いましたが、まさかそんな事が・・・」
アマルティアは口を噤む。
隣で聞いていたレトも何て言ったらいいか分からないといった様子だ。
「ネメシスという女。彼女の力は想像以上でした。三人がかりでも圧倒されましたから・・・」
「ペルさんが起きたら何て言うか・・・」
アマルティアはアレクトの肩に優しく手を置いた。
「確かに、クロノス様を失ったのは大きい・・・ ですが、ペルセポネ様が帰ってきました。不幸中の幸いだったと言えるのではないでしょうか」
「アマルティア様・・・」
「それに、クロノス様が身を挺してネメシスを退けてくれた事で、タルタロス全域のエーテルを奪われずに済みました。仮に全て奪い尽くされていたら、タナトスの召喚は確実に早まっていたでしょう。未だ大きなエーテルの流動は確認していない。召喚を遅らせる事はできているはずです」
「そう、ですね・・・」
二人の握った拳が小刻みに震える。
自責の念に駆られ、次第に怒りがこみ上げてくる。
「あなた方は最善を尽くされました。どうかご自分を責めないでください。そして何より、後ろを振り返る前にやるべき事があるはずです。クロノス様が命を賭して与えて下さった機会。最大限活かさなければ彼に申し訳が立ちませんよ」
アマルティアの言葉を聞いて二人の瞳に光が戻る。
「そうですね。悔やむのは全て終わった後。そうでしょう? アレクト」
「メガイラ・・・ うん。そうだな。アマルティア様の言う通りだ。ここで立ち止まっていたら、それこそクロノス様に顔向けできねぇもんな」
アマルティアに笑みがこぼれる。
「ペルセポネ様が待っていますよ」
「そうだな! 帰ろうメガイラ!」
「ええ!」
二人が地面に描かれた魔法陣に身を投じると、光の柱は二人を包み込みそのまま消えていった。
(アース神殿に入った途端に追跡が途絶えてしまいましたが、ガイア様は大丈夫でしょうか・・・?)
「どうかされましたか、アマルティア学院長?」
レトは不安そうな顔で見つめる。
「いいえ。何でもありません。それより、ミノス様の方が気になりますね。あまり無理をなさっていなければ良いのですが」
「あ、それなら先程連絡がありました。今のところ問題なく進んでいるそうです」
アマルティアは安堵の息を漏らす。
「タナトスが相手となると不安は拭えませんが、どこまで準備してもし過ぎという事はないでしょう」
「そうですね。私達も・・・ あ、れ?」
突然レトは酷い目眩に襲われ倒れ込んだ。
「レト教授?! しっかりしてください!!」
遠くでアマルティアが必死に叫ぶ声が聞こえる。
意識が朦朧とする中、レトはアマルティアの腕の中で静かに目を閉じた―――。
「ペルさんが目覚めない今、私達がしっかりしないとな」
「そうですね」
ニュクス城に戻ったアレクトとメガイラは、ペルセポネの眠る医務室へ向かった。
アレクトは音を立てないよう静かにドアを開ける。
「どうしました?」
ドアを開けたまま硬直するアレクトに疑問を抱いたメガイラは、半ば強引にアレクトを退け部屋へ入る。
メガイラも思わず目を見開いた。
「あら!! 二人ともおはよう♪」
ペルセポネはベッドの上で半身を起こし伸びをしていた。
「あらあら、どうしたの? 仲良く同じ表情しちゃって。私の顔に何かついているかしら?」
「ペルさん・・・」
「ペルさん!!!」
二人は我を忘れペルセポネにすがりついた。
「良かった…本当に良かった・・・!!」
「あらあら。心配かけちゃったわね。ごめんなさい」
二人はペルセポネの腕の中に顔を埋めたまま首を振る。
ペルセポネは優しく二人を包み込む。
「落ち着いた?」
しばらくすすり泣いていた二人は、ようやく立ち上がる。
「アレクト。あなた、それ・・・」
目を真っ赤にしたメガイラの指さす場所を見つめる。
「ん?」
ペルセポネの胸元からアレクトの鼻にかけて何かが糸を引いている。
「うわっ?! ごめん!!」
アレクトは慌てて拭き取る。
「あらあら。私は気にしないわよ」
ペルセポネは優しく微笑む。
「全くはしたない。泣きすぎですよ」
「うるさいな! メガイラだって同じだろ?」
お互い真っ赤にした目を見つめる。
「ぷっ!! あはははっ!!」
医務室に三人の大きな笑い声が響いた。
「ペルさん、体の方は大丈夫なのかい?」
「ええ。神術を使えるようになるまではまだ時間が掛かりそうだけど、すぐ元に戻ると思うわ♪」
ペルセポネは軽くウインクして見せる。
そんな彼女に二人は目を丸くする。
「結構長いこと寝込んでいたはずなのに、起きて早々これだもんな。ペルさんはホント底なしに元気だなあ・・・」
「その生まれ持ったエーテル量が故、なのかもしれませんね。やはり、ペルさんには敵いません」
「ちげぇねえ」
二人は感心して大きく頷く。
ペルセポネはふと辺りを見回す。
「クロノス様はどこかしら? 何だか長い事会えていなかった気がするし、きっと寂しがっているはずよ。お帰りなさいのキスを貰わなくっちゃ♪」
アレクトとメガイラに緊張が走る。
ペルセポネはベッドから飛び起きた。
「王の間かしら? さ、行きましょ♪」
泣きそうな顔をしてうつむく二人に首を傾げる。
「二人とも、どうしたのよ? この世の終わりみたいな顔しちゃって・・・」
「ペルさん・・・ 実は・・・」
しばらくの沈黙の後、アレクトは慎重に言葉を選びながら話し始めた―――。
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