第189話 犬猿の仲は最初から
ペルセポネは立ち尽くし、ただ行き交う魂なき人形を見つめていた。
その眼に光はなく、視界はただぼやけるのみ。
ただ一点を見つめていた。
「私は・・・ こんな形で力を望んだんじゃない・・・ ティシポネ」
ペルセポネは肩を抱き地面に座り込んだ。
呼応するように、彼女の周りに黒霧が渦巻く。
見かねたクロノスはペルセポネの肩に手を置いた。
「闇の力は選ばれし者にしか扱えない。例え今回のように取り込んだとしても、即座に闇に支配され自我が崩壊するか、目覚める事なく死に果てるかのどちらかだ。皮肉にも、お前は間接的とはいえ闇の力を自分のものにした。星に許された初めての事例なのかもしれんな」
ペルセポネは渦巻く黒霧の両手を見つめる。
「私・・・ この力は使わない。この力に頼るのは、きっとティシポネは許してくれない。私は・・・ 星に許されるよりも、ティシポネに許されたい。一生許してくれないかもしれない。それでも、彼女の恨みは私が一生背負っていく。ずっと傍に居たい。私にとって、ティシポネは大切な親友だから」
クロノスは優しく頭を撫でる。
「ああ。そうだな」
クロノスは大きなエーテルの流れを感じ取った。
「このエーテル・・・」
「クロノス様・・・?」
目を真っ赤にしたペルセポネが不安そうに見上げる。
「以前察知したエーテルに間違いない。近いな。これから接触を図ろうと思うのだが、ついてこれるか?」
ペルセポネは必死に目をこする。
「当たり前じゃないですか。私は眷属ですよ?」
クロノスはゲートを開く。
「でも、この場所は放置していていいの?」
「この場所は既にマーキングした。もしもこれらが星の生み出したものなら、しっかり覚醒するよう見守る必要があるな。その方法はまた後日ゆっくり考えよう」
ペルセポネは名残惜しそうに振り返り、しばらく沼を見つめていた―――。
雷鳴が轟く中、ひっそりと佇む廃墟の神殿。
朽ち果てた扉の前に、屈強そうな巨体の男が仁王立ちしていた。
「何者だ?」
男は大きく一歩前に踏み出す。
「やはり、お前も闇の力に目覚めし者だな。この奥から巨大なエーテルの波動を感じる。その者に会って話がしたいのだが」
クロノスはペルセポネを庇うように前に立つ。
「断る。得体の知れぬものに我が主に会わすわけにはいかぬ」
男の頬の黒き炎の紋章が光り出す。
「ふっ!!」
男が突き出した拳から黒い炎が発生しクロノスに襲い掛かった。
「いきなりとはご挨拶だな」
クロノスの手に漆黒の大鎌が握られる。
一閃。
「なっ?!」
鎌に両断された黒き炎は一瞬にして霧と化した。
「満足したか?」
「・・・私の術を一振りで無に帰すとは恐れ入った」
「おーいアトラス。姉さんが呼んでるよー」
扉の奥から青髪の飄々とした態度の男が軽やかに歩いてきた。
男はすぐに黒い角の生えた女性に目を奪われた。
「ん? おお!! これまた美しい人だ! 特にそのエーテル!! こんなご馳走目にしたことないよ! 極上だ!! ラッキー♪」
ペルセポネを見るや否や青髪の男は黒霧を纏いペルセポネに飛びかかる。
「う~ん。イケメンだけどちょっとタイプじゃないかな」
「うわっ?!」
男は突然何者かに掴まれ放り投げられる。
「ちっ!! 何だ?!」
男は舌打ちし後ろを振り返る。
廃墟の神殿ほどの大きさの真赤な悪魔が男を見下ろしていた。
圧倒的な威圧感を放つエーテルに、男は言葉を失う。
「うそ・・・」
ペルセポネは軽やかにステップを踏み男の顔をじっと見つめた。
「うーん。やっぱり好みじゃないわね。い~らない」
クロノスは腕を振り上げるペルセポネの前に立つ。
「不要な争いは裂けよう」
「貴様もその辺にしておけヘリオス」
「ちぇっ! 分かってるよ」
ヘリオスはそっぽを向く。
「ついて来い。主は中におられる」
アトラスに促されクロノス達は神殿の中へ入って行った。
「何やら騒がしかったようだな?」
長い階段の前でアトラスとヘリオスは跪いた。
ヒールの音が鳴り響き常盤色のウェーブの女性が二人を見下ろす。
両脇には物静かな印象の女性と、ピアスの光る爽やかな男、そしてやや後ろにフードで顔を隠している男が控えている。
「申し訳ございませんメティス様。悪意を感じなかった故、勝手ながらお連れしました」
「俺達は争うつもりで訪れたわけではない。お前達も闇の力に目覚めた者達だろう? 覚醒者に共有しておきたい情報があってな」
メティスは高笑いする。
「ははは! 舐められたものだ。貴様がどこの誰で、何を知っているのかは知らんが、私はこの力に目覚めると同時に神託を受けている。他者の力など必要ない」
「そうだな。タルタロスを統べる者、とだけ言っておこう」
「タルタロス・・・ なるほどな。冥界を統べる気高きハデス様が、一体何を教えてくれるというのだ?」
ペルセポネは頬を膨らめクロノスの前に立つ。
「ちょっとおばさん!! 私のご主人様に対して口の利き方がなっていないんじゃないの?」
ピアスの男は軽快に笑う。
「ははっ!! 気の強いお嬢ちゃんだ!!」
癖毛の女性はパラスの肩に手を置いた。
「パラス。殺されますよ?」
「大丈夫だってアスタリア。メティス様はああいうタイプは意外と嫌いじゃないはずだぜ」
「そうかしら。 ・・・あら?」
後ろに控えた黒フードの男の身体が小刻みに震えていた。
「ははっ! こりゃ珍しい! 見ろよ、ペルセスのヤツもツボにハマったようだぜ?」
「私はどうなっても知りませんからね・・・」
二人の様子にアスタリアはため息をついた。
メティスの眉間にシワが寄る。
「よく吠えた小娘。だが、身の程を知らんようだな? 世間知らずなのは結構だが、私は学生気分のお子様と話しているほど暇ではない」
「あらあら! 私の姿が子供に見えるなんて、あなたの目は節穴なのかしら? ていうか、そういうこと言うって事は自分がおばさんだって認めたようなものよね♪」
「無駄に頭の回る小娘だ。無知とはもはや、罪を通り越して幸せな事なのかもしれんな」
メティスの腿が黒く光り出す。
「あ、姉さんそれはまずいって!!」
ヘリオス達は一斉にメティスから距離を取る。
「私、あなたとは仲良くなれそうにないわ」
「ふはは! 誰にでも苦手なものはあるものだよ小娘」
「苦手? 勘違いしないで。あなたは『嫌い』よ」
ペルセポネの足元に真っ赤な魔法陣が展開される。
「・・・・・」
ペルセポネの中に宿る闇の力を感知すると、メティスは一瞬悲し気な表情を見せる。
そして静かに解放しかけた術を解除した。
「止めだ」
「あらあら。どうしたのよ? 怖気づいた?」
「フン。口の減らない小娘だ。だが、その意思の強さは悪くない」
メティスは鼻で笑い朽ち果てた玉座に腰かける。
「話せ。全てはそれから判断しよう」
「一時はどうなるかと思ったが、ようやく落ち着いたか」
こうして無事にメティス達と協定を結んだタルタロスは、彼女達の協力のもと闇の力の管理に本格的に手を付けていく事になる―――。
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