表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
189/294

第188話 追憶⑤


眼下には広く荒廃した岩々。


かつて栄えたであろう広大な神殿の遺跡。


庭園跡の真ん中に底の見えない漆黒の沼が目に入る。


よく見ると、沼から人影のようなモノが湧き出ており、人の形を模したそれらはゆっくりと徘徊していた。


「このような場所があったとはな。あの人影、闇の力を纏っている。いや、闇の力で構成されている?」


「な、何ですか。あの気味の悪い連中は・・・?」


ティシポネは息を呑む。


「感じ取ったのはあの子達で間違いないです。私達を呼んでいました」


ペルセポネは神妙な面持ちで徘徊するそれらを見下ろす。


クロノスは改めて周囲を見渡す。


「俺の空間把握術でもこの場所は感知しない程離れた場所だ。それを感じ取るとは恐れ入った。お前の持つ潜在能力は底が見えんな」


「いや~ん! クロノス様に褒められちゃった~♪」


ペルセポネはティシポネの横で大袈裟にはしゃぐ。


「はいはい。分かったから」


ティシポネは呆れてため息をつく。


「それより、彼らは一体何なのでしょうか? 見た感じ害はなさそうですけど・・・」


「ふむ。俺もこのような場所が存在する事を知らなかった。おおよその予想はつくが、調べてみる必要がありそうだな」


「ま、まさかあそこへ行くのですか?」


ティシポネの顔色が青ざめていく。


「あらあら? ティシポネったら、もしかして怖いのかな? カタブツだと思っていたけど可愛いところあるじゃない♪」


「だ、誰が怖がってなんか! い、行くならさっさと行くわよ!」


ティシポネは軽快に浮遊する岩々を飛び移り下って行った。


その様子を見たクロノスとペルセポネは顔を見合わせ笑顔になる。


「ちょっと待ってよ! 私が見つけたんだから一番乗りは私よ!」


ペルセポネも後に続く。


「全く。頼もしい奴らだ」


クロノスはその様子に鼻で笑い二人の後を追った―――。



「誰も攻撃してこないのですね」


ティシポネは細心の注意を払い警戒する。


「意思が宿っているようには見えんな。まるで人形だ」


「う~ん・・・」


ペルセポネは一人難しい顔をして腕を組んでいる。


「どうしたのよ? そんな険しい顔して」


「いや~、どの子が一番イケメンか吟味していたんだけどね? なかなか判断がつかなくて大変なのよ。みんな良く見えちゃうから悩んじゃって」


ティシポネは口をあんぐりさせている。


「あんた、嘘でしょ? これのどこが良く見えるのよ? どれも一緒に見えるし、そもそも神や人ですらないじゃない。そこまで行くと流石にちょっと引くわ・・・」


「えー!? そんな事言わないでよ! 親友でしょ?」


涙目ですがりつくペルセポネにため息をつく。


「この沼・・・」


(僅かに俺の闇の力と波長が合っている。という事は、この沼もまた星の意思・・・?)


「何か分かりそうですか?」


ペルセポネはひょっこり後ろから顔を出す。


「まだ何とも言えんが、俺たちにとって必要なものなのかもしれん。一旦タルタロスに戻って・・・」


突如、ただならぬ気配を感じクロノスは警戒態勢に入る。


「あ、ああああああっ?!!」


ティシポネの身体がみるみるうちに黒く染まっていく。


赤色に光る肩の紋章が黒く塗り潰されていく。


「ティシポネ・・・?」


ペルセポネが手を伸ばすと、彼女の背中から生えた黒く長い腕が襲い掛かってきた。


「きゃっ?!」


クロノスはペルセポネを抱え何とか回避する。


手をかざすと、金色の美しい装飾を施された漆黒の大鎌が姿を現れた。


「クロノス、様・・・?」


「なんてことだ。まさかこのタイミングで覚醒するとは」


クロノスは大鎌をティシポネに向ける。


「かく、せい・・・?」


「ああ。ここは闇の力で満ちている。力に触れすぎたせいで誘発したのか、それとも本当に偶然このタイミングで星に選ばれたのか、原因は分からない。何より、ペルセポネに危害を加えようとしたという事は・・・」


「うああああああっ!!!」


黒霧を纏ったティシポネは数本の腕を生やし、クロノス達に襲いかかる。


クロノスは大鎌を振り全て切り落とした。


「あああっ!!」


闇に染まったティシポネは苦痛に顔を歪める。


ペルセポネは大鎌を構え飛び出そうとするクロノスの腕を掴む。


「元に・・・戻るんでしょ?」


「こうなってしまってはもはや手遅れだ。命を刈り取るしか方法はない」


「戻るんでしょ・・・?」


握る手に力が入る。


「本来であれば、闇の力に覚醒したとしても性格が豹変する事はあり得ない。以前も話したが、本人の深層心理で破壊衝動が無ければこうはならないのだ」


「どういう、こと・・・?」


「俺の推測でしかないが、ティシポネはお前に何か強い恨みを持っていた。本人すら気付かないうちに、長い間その感情が蓄積し深層心理に定着してしまったのだろう。今の彼女は俺達のエーテルを喰らう事しか頭にないはずだ」


ペルセポネの表情が絶望へ変わる。


「そんな・・・ どうして・・・?」


「ペルセポネ・・・ ペルセポネェー!!!」


ペルセポネは戸惑いを隠せないまま、何とか闇の腕を躱す。


「お願いティシポネ!! 元に戻って!!」


「よせっ!! もう手遅れだ!!」


クロノスの制止を振り切り、ペルセポネは両手を広げティシポネの前に立った。


「どうしていつもあんたばかり!! ペルセポネェーーー!!」


ティシポネは黒き腕を思い切り突き出す。


「聞いてティシポネ!! 私はっ・・・?!」


ティシポネの黒き腕は無慈悲にペルセポネの脇腹を貫通した。


「か・・・はっ・・・!」


傷口から血が溢れ出る。


「いつも勝手に振り回しておいて、どうしてあんたばかり得するのよ!! ふざけるのもいい加減にしなさいよ!! 憎い! 許せない!!」


ペルセポネは貫かれたままティシポネを抱擁する。


「ずっと・・・ そんな風に思ってたんだ。ごめんね。私、鈍感だから気付いてあげられなかった・・・ いつも、一緒に楽しんでくれているのだと思っていた。喜びを分かち合えていると、そう思っていた・・・ だけど、ティシポネにとって私は足枷でしかなかったのね」


ペルセポネは一層強く抱きしめる。


「あ、ああああっ!!」


ティシポネは腕の中で必死にもがくが動けない。


「今までごめんね、ティシポネ」


「≪武装結界(ディアヴォロス)≫」


足元に真っ赤な魔法陣が展開され、傷口から滴り落ちる血液を受け止めゆっくりと溜まり始める。


やがて足首部まで血液が流れ出ると、血液は重力に逆らい彼女の頭上へと集まっていく。


大きな球体を形成した血液が、シャワーのようにペルセポネに降り注いだ。


血液のヴェールに包まれたペルセポネの頭の黒い角が急激に伸び、緑色のフチが映える赤き羽に長い尻尾が生える。


まさに悪魔そのもの。


「あ、ああああああっ?!」


ティシポネは貫通させた腕を引き抜こうとするが、筋肉を引き締める事で固定され動くことができない。


「『悪魔の愛撫(ミクロス・フィリア)』」


ティシポネの背後に、エーテルで形成された巨大な赤い悪魔が姿を現した。


悪魔はその巨大な腕でティシポネを引き剥がすと、そのまま剛腕で握り潰した。


握る拳から血が滴り落ちる。


やがてティシポネを形成していた身体は黒い霧を纏ったエーテルとなり宙を漂う。


悪魔はその手でエーテルをかき集めその体内に取り込むと、ペルセポネの体の中へ消えていった。


穴の開いた脇腹も次第に修復されていく。


「あなたの力は私が引き継ぐ。あなたは望まないかもしれないけれど、解放なんてしてあげない。だって・・・ それがあなたをこんな風にしてしまった、私のっ・・・ 責任だからっ・・・ 私が傍に居たいからっ・・・」


強く握る拳から一筋の血が流れ落ちる。


歯を食いしばる。


ふと足に力が入らず態勢を崩した。


感じた温かいぬくもりに振り返ると、クロノスが支えてくれていた。


クロノスのぬくもりに安心したペルセポネの瞳から涙があふれる。


「私・・・ そんなつもりじゃなかったの。大好きだったの。ティシポネの事が・・・」


「ああ」


クロノスは優しくペルセポネを包み込む。


「私にとって、唯一の親友なの。知らなかった・・・ こんなにもティシポネを苦しめていたなんて・・・ 知らなかったのよ」


「ああ。そうだな」


クロノスは何も言わず、腕の中で泣きじゃくるペルセポネをただずっと抱きしめていた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


ご意見等ありましたら感想も頂ければ幸いです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ