第186話 追憶③
「―――というわけだ」
クロノスの途方もない話に二人は呆然としている。
ようやくティシポネが口を開いた。
「ずっとハデス様だとばかり・・・ こうしてアステルマキアの神と会話しているなんて、とても信じられません」
「俺自身も自我が目覚めた時は似たような反応をしたものだ。何せ俺は2000年前のティタノマキアでゼウスに負けたのだからな。目覚めたのは少し前。お前達が勘違いするのも仕方のない事だ」
ペルセポネは空に輝く星々を見上げていた。
「こんなにきれいな輝きが人々のエーテルだなんて・・・」
「信じられないか?」
「とってもロマンチックですね!」
ペルセポネは目を輝かる。
意外な反応にクロノスは目を見開いた。
「だって、この星たちはこの星の記憶。この星の歴史そのものって事ですもんね。不謹慎かもしれないけど素敵だなって。私達は、死んでいった人達がこうして創り上げた美しい景色を見て、今まさに心奪われている。先人達からの、今を生きる私たちへのプレゼントなんじゃないかって、そう思うの」
「すごい自分勝手な解釈ですけど」
ペルセポネは悪戯っ子のような微笑みを向ける。
クロノスは、ペルセポネのどこまでも純粋で柔軟な感性に素直に驚いた。
「本当よ、全く。綺麗なのは分かるけど、私はペルセポネのようには思えないな。何だか申し訳ない気持ちになってしまうわ」
「あははっ! ティシポネってば真面目なんだから~♪ そんな大袈裟なものでもないでしょ」
「う、うるさいわね! こういうのは人それぞれ感じ方が違うのよ!」
頬を赤らめペルセポネの頬を両手でつまむ。
「フッ。お前達は本当に面白いな。お前達が良ければ俺の眷属にならないか? このまま燻らせるのは実に惜しい」
「はいっ!! なりますなります!! 私、眷属になりま~す!!」
「ちょっ?! あんた本気で言っているの?!」
ティシポネは手をあげ飛び跳ねるペルセポネの肩を掴む。
「眷属になるって、どういう事か分かってるの?」
ペルセポネは首を傾げる。
「召使い的なものでしょ? 従者の方が近いのかな? それがどうしたのよ?」
ティシポネはクロノスに聞こえないよう耳元で囁く。
「眷属って、主従関係の契約を結ぶ事よ。クロノス様の率いる巨神族の軍は、眷属の契約を結んだ者で構成されていたって歴史書に書いてあった・・・」
「それが?」
「眷属になるという事は、主人と従者の明確な線引きが引かれるの。主人、つまりクロノス様の命令は絶対という事よ。強制的に服従させるの。そういう契約を結ぶ事なの。それ以上は言わなくても分かるでしょ?」
それでもピンと来ていない様子のペルセポネを見て苛立ち始める。
「だから! 命令には本人の意思に関係なく言う事を聞かせられるという事よ! 相手は殿方なのよ! だっだから! そ、その。え~と・・・」
ティシポネは恥じらいながら頬を掻く。
「よ、夜の相手をさせられるかも知れないって事。クロノス様は見たところ、まだ伴侶も後継者もいないようだし・・・」
ペルセポネは目をぱちくりさせる。
「それがどうしたのよ? そんなに気にする事ではないと思うけど。だって、もしそうなれば国王の子供を授かれるじゃない。私はむしろ大歓迎よ♪ そうだ、クロノス様押しに弱そうだし、いっそのこと私が夜這いしようかしら♪」
それを聞いたティシポネは開いた口が塞がらなかった。
「夜這いってあんた、それ女の子の遣う言葉じゃないでしょうが。どれだけ性欲が強いのよ・・・ あんたのそういう後先考えないで行動できるところ、ある意味羨ましいわ」
「あはは! ありがとう♪」
「いや、褒めてないから・・・」
ペルセポネはクロノスに向き直り姿勢を正す。
「覚悟は決まったか?」
「はいっ!! お願いします!!」
ペルセポネの健気な態度に思わず笑みがこぼれる。
「よかろう」
クロノスはペルセポネの前に立ち、胸元に手を当てる。
胸元の紋章が、服の上からでも分かるほどに赤く輝き出す。
ペルセポネは静かに目を閉じ意識を集中させる。
しばらく紋章は赤い光を帯びていたが、クロノスが手を引くと次第に光は消えていった。
「・・・あれ? もう終わり?」
ペルセポネは両手を見つめる。
「契約完了だ。これよりお前は正式に俺の部下だ。このニュクス城に居住し、俺の補佐役として尽力してもらう」
「か、身体は大丈夫なの?」
ティシポネは心配そうに駆け寄る。
「大丈夫だよ。むしろ身体が軽いというか、すごく調子が良くなった気がするわ。何となく」
「お前も契約するか?」
「い、いいえ! 結構です!!」
ティシポネは両手を振って拒否した。
「え~。契約しないの? あなた今特定の相手もいないでしょ? ちょうどいいじゃない。正妻は私だから~、愛人としてのポジションなら用意してあげるわよ♪」
「だ、誰が愛人だ! いいの。私はそういうのはちゃんと自分で見つけるから」
顔を真っ赤にしたティシポネはそっぽを向く。
「しかし、ここまで俺のエーテルと相性のいい者は過去にいなかったな。それに、お前の内側に秘められし潜在能力は相当なものだ。その尋常ではないエーテル量は、あのゼウスにすら匹敵する可能性がある。星に愛されているのかもしれんな」
「星に・・・」
ペルセポネは嬉しくなり胸に手を当てる。
寂しいような、恨めしいような、何とも言えない複雑な感情を抱いたまま、ティシポネはクロノスと楽しそうに会話する彼女を見つめていた。
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