第185話 追憶②
ペルセポネたちは軍隊がニュクス城て前にある兵士用の神殿へと入って行くところを目撃する。
「へえ~。すぐに出動できるように近くに神殿を構えているのね」
「ほら、こっちよティシポネ! 一般人なんかに現を抜かしている場合ではないわ!」
コキュートス湖に浮かぶ岩々を飛び移り、ニュクス城の正門前に到着する。
刺々しく天井の大地に伸びる黒城に、重厚な真っ赤の門。
「こうして目の前まで来てみるとすごい威圧感ね・・・」
「そうかしら? あの赤い扉とか可愛いじゃない。 意外とチャーミングな作りなのね♪」
「この城を見てそんな事言うの、あんたくらいよね」
ティシポネは大きく落胆する。
「あ! ほら! 早くいかないとハデス様が入って行っちゃう!」
ペルセポネは全速力で走り出す。
「あ! こら! 待ちなさい!」
二人が城の手前まで来ると、突然上方にただならぬ気配を感じ取った。
「な、なに・・・?」
遥か天井を塗りつぶすように黒い液体が染みわたり、雷鳴と共に大きく粘り気のある一粒の黒い雫が赤き門の前に落とされた。
やがて雫は獣の姿を形作り、三本の頭部が形成された。
「グオオオオオオーーーー!!!!」
巨大な漆黒の身体に竜の羽、三叉の尻尾を持つ魔獣が激しい咆哮をあげる。
「うそ?! やばっ!!」
三つ首の魔獣は体勢を崩すペルセポネに襲い掛かる。
「ペルセポネ!!」
ティシポネは駆け出し手を伸ばす。
「・・・あれ?」
咄嗟に頭を抱えしゃがみ込んでいたペルセポネの前に、全身黒ずくめの男が立っていた。
鼻筋を優しく撫でられ、魔獣は雷のように大きく喉を鳴らし気持ちよさそうにしている。
「間に合ったようだ。危うくこいつのエサになるところだったな」
金色の瞳がペルセポネを見下ろす。
「もういいぞ。戻れ、ケルベロス」
ケルベロスは大きく羽ばたき、その巨体をゆっくりと浮かせ天井の黒沼に消えていった。
「ケルベロスはニュクス城の門番だ。知らない匂いや気配を察知した時に攻撃するよう命令を書き込んでいる。お前達、初めて城に踏み入れたな? 何か用でもあったか」
「い、いえ・・・」
ペルセポネは真っすぐ見つめる金色の瞳に、すっかり引き込まれていた。
ほのかに身体が火照っているのが分かった。
「勝手に城へ侵入してしまい、申し訳ございませんでした」
ティシポネは深々と頭を下げる。
「気にするな。気を付けて帰るといい」
黒ずくめの男は重厚な門を軽々と開ける。
「あ、あのっ!!」
ペルセポネは男の腕を掴む。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「わ、私の話し相手になってください!」
ティシポネは慌ててペルセポネの手を引く。
「ちょっとあんた! 助けてもらっておいていきなりそんな事言うなんて失礼にも程があるでしょ?」
「だ、だって仕方ないじゃない。もっと話したいんだから。せっかくこうして会話できたんだから、もう少し仲良くなりたいの」
「あんたね、学院の生徒が相手じゃないんだから・・・ この冥界を治める王ハデス様なの。忙しいの。私達とは格が違うの。分かっているの?」
ティシポネは額に手を当てる。
「はははっ!!」
男は突然笑い出した。
「実に面白い女だ。この俺に面と向かって思いをぶつけてきたのはお前が初めてだ」
「え・・・?」
ティシポネは思いがけない反応に目を丸くする。
「実は城の者達からも敬遠されていてな。俺としても気軽に話せる相手がいなくて悩んでいた所だ」
「あははっ! 分かります! 何だか近寄りがたい雰囲気出てますもんね!」
「こっこら!! なんてことを!!」
ティシポネは暴走するペルセポネの口を慌てて塞ぐ。
「ふははは!!」
「お前、本当に面白いな。名は何という?」
「ぺ、ペルセポネです」
金色の瞳に真っすぐ見つめられ、急に恥ずかしくなったペルセポネは思わず視線を逸らした。
男はティシポネの方を向き直る。
「えっと、ティシポネです・・・」
「ペルセポネにティシポネだな」
男は重厚な赤き門を軽々と片手で開ける。
「見ていくか?」
「はい!! ぜひっ!!」
ペルセポネは男が話し終える前に食いついた。
興奮して息が荒くなっている。
「よ、よろしいのですか? お忙しい身なのでは・・・」
「構わん。忙しさを理由に美人二人の申し出を断るほどつまらん男のつもりもないしな」
男に案内され奥へ進んでいくと、どこまでも伸びる大きな螺旋階段が目に入った。
階段を登って行くと、金色の豪華な装飾の施された真黒な扉が佇んでいた。
呆然と扉を見上げる二人を見て男は鼻で笑う。
「さあ、入ろう」
男が扉を開くと、信じられない光景が広がっていた。
空に瞬く満天の星空。
大きな円を描くように広がる星空に引かれた一本の星の帯。
部屋全体に星が散りばめられている。
まるで宇宙空間に立っているかのような錯覚に陥ってしまう。
「綺麗・・・」
驚いた様子で辺りを見回している。
男は真ん中に鎮座する真っ黒の玉座に腰かけた。
「ようこそ。我が城ニュクス城へ」
「す、すごい光景ですね・・・」
ティシポネは四方八方に美しく輝く星空に言葉を失う。
「とても綺麗ですねハデス様!! これはハデス様の趣向ですか?」
男は静かに笑みを浮かべる。
「俺はハデスではない。お前達はクロノスという神を知っているか?」
「え・・・?」
二人は顔を見合わせる。
「えぇ~~~~~?!!!」
クロノスの突然の発言に、ただひたすら動揺する二人だった―――。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
また、評価・ブックマークもありがとうございます!
ご意見等ありましたら感想も頂ければ幸いです!




