第184話 追憶①
ヘメラはニュクス城のすぐ南に位置する、タルタロスの中で一番大きな町だ。
ハデスがニュクス城を建築した後すぐに開拓されたため、タルタロスの歴史で最も古い町の一つである。
城下町という事もあり、居住区には城に仕える役人や貴族が多く住んでおり、タルタロスの中でも治安の良い町である。
「はぁ~。どこかにいい男いないかなぁ~」
黒く長い角と尻尾が特徴的な葡萄色の長髪をなびかせる派手な出で立ちの女性と、長い黒髪に黒い羽を持つ、切れ長の目が気の強さを印象付ける女性がタルタロスを覆う地面を見上げ歩いていた。
「あんた、いつもそればかりね。あまりフラフラしていないでそろそろ働き口でも見つけたら? ペルセポネの実力ならニュクス城で働く事だってできそうなものじゃない。せっかっく学院を首席で卒業したのに勿体ない。そしたら一生安泰よ」
「嫌よ! そんな誰でも思いつきそうな将来なんて、全然ワクワクしないのよ。私はもっとこう、刺激的な生き方がしたいのよね。あなたはそうすればいいじゃないティシポネ。頭良いんだから」
「何で私の話になるのよ。私はあんたの心配をしているのよ? それに、頭がいいのはあんたも同じでしょうが」
ティシポネは額に手を当てる。
「私は働くなんてごめんよ。いい男見つけて養ってもらうんだから♪ イケメンで頼りがいのある男がいいわね~。あ、でもうるさいのは勘弁ね。どちらかと言えば言葉よりも態度で示してくれるような、そんな人♪ あと、子供は三人欲しいかな。一人だと遊び相手がいなくて可哀想だし、二人だと喧嘩した時大変だけど、三人いれば遊び相手には困らないし喧嘩した時も仲裁に入ってくれるじゃない♪」
ペルセポネの妄想全開のマシンガントークにティシポネは堪らず耳を塞ぐ。
「それでねっ! 家はっ・・・ むぐぅ?!」
「はいはい。一旦落ち着こうね」
ティシポネは眉をピクつかせながら留まる所を知らないペルセポネの口を塞いだ。
「ぷはっ?! いきなり何するのよ!!」
「あんたが妄想を垂れ流すからでしょうが! 妄想だけならいくらでもしてくれて構わないけど、言葉に出さないでよね。隣にいる私が恥ずかしい思いするんだから」
「ご、ごめんなさい。つい興奮してしまったわ。って、あら?」
ヘメラの町の真ん中には代名詞とも言える大きな広場があり、その中心にかなり凝った装飾の施された美しい噴水がある。
暗く陰湿な印象の作りの町や村が多い中、このような華やかな芸術性の建物はなかなかない。
噴水の周りは何やら人ごみで溢れかえっていた。
「あんなにたくさん何かしら?」
二人が首を傾げていると、人々が次々に道を開けていき人々の塊は綺麗に二つに割れていく。
大勢の武装した兵士が列をなす軍隊が通りかかっていた。
武装した重厚な足音が遠くのこちらにまで響いてくる。
ペルセポネは、先頭を歩く一人の人影に釘付けになった。
細身だがしなやかで美しい筋肉にスラッと伸びる手足。
一見女性と見間違えるほど美しく輝く黒の長髪。
寡黙な印象を与える顔立ちに引き込まれる金色の瞳。
ペルセポネはしばらくその瞳に魅入っていた。
「ペルセポネ?」
ニュクス城へ向かうその後ろ姿を、いつまでも見送っていた。
「なんて綺麗な瞳・・・」
「―――い。お~い。ペルセポネ~」
突然目の前に現れたティシポネの呼びかけに、ようやく現実に引き戻された。
「いきなり黙り込んでどうしたのよ?」
「え? あ、いや」
ティシポネは去って行く軍隊を見つめる。
「あの存在感。ハデス様かな? まさかこの目で拝めるなんてね」
ペルセポネは納得いかない様子で首を傾げる。
「なんか聞いていた容姿と違うような・・・?」
「そう? まあ、ハデス様は人前に姿を現さない事で有名だから、容姿についても噂が独り歩きしているだけなのかもね」
ティシポネは肩をすくめる。
「さ、そろそろ行きましょう。早く行かないと、今ヘメラで話題の林檎アイスが売り切れちゃうわ」
ペルセポネは歩き出すティシポネの腕を掴む。
「ねぇ! ちょっと追いかけてみない?」
「はぁ?! まさかハデス様を? やめておいた方がいいんじゃない? 私達とは住む世界が違うお方よ。それに、もしも粗相をしたらどんな罰があるか分かったものではないわ」
「大丈夫よ! 何か優しそうな雰囲気だったし、ビビッときちゃったのよね! きっと運命なのよ!! それに私、まだちゃんとニュクス城を見たことがなかったのよね♪ 上手くいけば、城の中へ入れてくれるかも!」
ペルセポネの瞳が子供のように輝いている。
「また早口になってる・・・ それ、思いっきりあんたの主観でしょうが・・・ 」
一人で盛り上がるペルセポネに、ティシポネはため息をついた。
「はぁ・・・ 分かったわよ。この埋め合わせはちゃんとしてもらうからね?」
「さすがティシポネ! やっぱり持つべきものは親友よね!」
ペルセポネは思い切り抱き着く。
「全く。ほんと調子いいんだから」
満面の笑みで手を引くペルセポネに呆れながらも、自然と笑顔がこぼれるティシポネだった。
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