第183話 理想的エーテル
タルタロス・黒の大海沿岸部―――。
小さな黒いゲートが開かれ、赤いドレスの女性が投げ出された。
クロノスを失った悲しみに打ちひしがれていたアレクトとメガイラは、大きな音に後ろを振り返る。
「ペルさん?!」
二人は急いで駆け寄りペルセポネを抱きかかえる。
「ペルさん!! しっかりしてくれペルさん!!」
メガイラは激しく揺するアレクトの手にそっと手を添える。
「今は安静にしてあげましょう。大丈夫、息はありますから」
「す、すまねぇ。そうだな・・・」
「ニュクス城へ戻りましょう。すぐにペルさんを治療しないと」
二人はペルセポネを背負い城へ急いだ―――。
「どうなんだ?! ペルさんは治るのか?!」
アレクトは険しい表情で医者に詰め寄る。
「アレクト」
メガイラはアレクトの肩に優しく手を置いた。
「が、外部の損傷は見た目ほど重傷ではありません。一日、二日で回復するでしょう。しかし・・・」
医者はバツが悪そうにアレクトから目を逸らす。
「何だ?! 言いたいことがあるならちゃんと言え!!」
医者の胸倉を乱暴に掴み上げる。
「エ、エーテルの流れがかなり不安定で濁ってしまっています!」
「濁っている? どういう事だ?」
「通常であれば、その者に流れるエーテルは常に安定していて穏やかな波長なのですが、ペルセポネ様の中に流れるエーテルから非常に多くの悪性不純物が検出されました。これらは、本来ペルセポネ様が持つエーテルではない異物です。これらの異物がエーテルの波長を著しく乱しています」
メガイラは顎に手を当てる。
「外部から無理矢理エーテルに干渉された結果なのでしょうか?」
医者は胸倉を掴まれたまま必死に頷く。
「お、おっしゃる通りです。通常、エーテル不足や血液不足の患者に注入するエーテルや血液は、対象者の身体が受け入れやすいよう滑らかに調節して施術するのです。万が一、拒否反応を起こしてしまえば命にかかわる事もありますから・・・」
「つまり、どういう事なんだ?!」
アレクトの腕に力がこもる。
「か、彼女のものではないエーテルが身体中を巡ってしまっている結果、血管や内臓、筋肉に至るまで内部的にとても傷ついた状態で危険であるとういう事です!」
「ちっ!」
アレクトはぶつけようのない怒りを押し殺し、乱雑に医者を解放する。
「ごほっ! ごほっ!」
メガイラは医者の背中を優しくさする。
「何か私達にできる事はないのでしょうか・・・?」
「体内に侵入したばかりであれば、すぐに施術を施せば除去も可能ですが、ペルセポネ様の中に流れる不純物は既に彼女のエーテルに溶け込み全身に巡ってしまっている故、正直これ以上手の施しようがありません・・・」
「・・・治るんだろうな?」
アレクトは医者を睨みつける。
「何とも言えません・・・ 今はまだ彼女の中のエーテルが不純物に対抗しているため、何とか命を繋いでいますが、仮に抗えなくなり不純物に負けてしまえば、最悪このまま目覚めないという事もあり得ます」
「そ、そんな・・・」
二人は力なくうつむく。
「ペルセポネ様のエーテルは他に例を見ないほど強くしなやかです。医療の世界で言えば、非常に上質で理想的なエーテルと言えるでしょう。ほぼ完璧と言ってもいいかもしれません。加えて、そんな高い性質を持ったエーテルが、彼女の内側からまるで湧き水のように生み出されている。このような体質はかつて見たことがありません。とても恵まれた身体です。不純物に打ち勝つ可能性も決して低くはありません」
「ほ、本当か?!」
医者は力強く頷く。
「自分は医者である立場ですので不明瞭な事は申し上げられないですし、無責任な事は言葉にできません。しかし、ペルセポネ様は必ずお目覚めになられる。そう信じております」
医者の思いのこもった言葉に、二人は救われたように安堵の息を漏らす。
「何か変わったことがございましたらすぐに呼んでください。それでは」
医者はなるべく音を立てないよう配慮し部屋から出て行った。
アレクトは強く拳を握る。
「ペルさんは、目覚めるよな?」
「ええ。必ず」
メガイラは大きく頷いた。
「アマルティア様に連絡しないといけませんね。クロノス様の事も・・・」
メガイラは眠るペルセポネの毛布をかけなおす。
「そう、だな・・・」
しばらく沈黙が続く。
「いつまでも悲しんではいられません。お二人のためにも、タルタロスのためにも」
「そうだな。私達がしっかりしないと」
「ペルさん・・・ ゆっくりお休みになってください。また来ますから」
そう語りかけ、二人は部屋の扉を閉めた―――。
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