第167話 劣化品
「『参の弦』」
アポロンは瞬時にザグレウスの周囲に青く燃える導線を張り巡らせる。
「動くのはあまりお勧めしない。一歩でも踏み込めばお前の身体は灰と化す」
「へっ! 敵の言う事に素直に従う奴なんているのかよ!!」
ザグレウスが手をかざすと、青い導線を塗りつぶすように黒い導線が引かれアポロンを取り囲んだ。
「これは?!」
手を振り上げると黒炎が激しく燃え上がりアポロンを包み込んだ。
「ははは!! そのまま焼き尽くしてやるよ!!」
「『拾の弦』」
立ち昇る黒炎の中から蜘蛛の巣のように細い導線が伸びる。
「ちっ!!」
ザグレウスは後方へ飛ぶ。
まるで位置を把握しているかのように素早く追尾し炎が上がる。
「うわぁ?!」
アポロンを囲う黒炎が弱まった瞬間に飛び出し、ザグレウスの前に立った。
「なぜ俺の術の真似事が出来るのか興味の対象ではある。だが、黒い炎とは品がないな。見ていて不愉快だ」
「へっ! 青い炎だって大差ないだろ!」
ザグレウスが手をかざした瞬間、遮断するように光線が走る。
同時に青い炎が燃え上がりザグレウスの腕を灰に変えた。
「ぐあああああっ?!」
「命は取るなと言われているが、傷をつけるなとは言われていないからな。お前の戦意を削ぐまでいたぶってやろう。その不愉快な術については後でゆっくりと調べてやる」
「はぁ・・・ はぁ・・・ 勝った気でいるなら早いぜ!」
ザグレウスは痛みを押し殺し左手に意識を集中させる。
地面に片手をつくと、衣服の繊維のように細くしなやかな導線が扇状に広がった。
「死ねぇっ!!」
「『氷炎の音色』」
黒炎が燃え立つ瞬間に赤い氷が一気に黒炎を凍らせる。
同時に青き炎が氷を木っ端微塵に粉砕した。
青赤の氷の残骸が宙を舞う。
「え・・・?!」
炎を象った紋章が刻まれた赤い右目と、雪の結晶が刻まれた青い左目。
冷たい視線にザグレウスは言葉を失う。
「命拾いしたな。お前に使っていれば即死だ」
「くっ・・・」
「あんたのその木。それ、あなたの術ではないわね?」
アフロディーテはおどおどしたアドニスに詰め寄る。
「ど、どうして分かるの?」
「ガイア様に散々教わったからね。頼んでもいないのに半ば強制的に。嫌でも流れるエーテルの質が分かるわ。本人のモノでないなら尚更、その違和感は顕著なのよ」
アドニスの周りに虹色の風が渦巻く。
「それも、あなたのモノではないわね」
「ぼ、僕のものかどうかは関係ないよ。今使っているのは僕なんだから」
アドニスの動きに合わせ、虹の風がアフロディーテに襲い掛かる。
「『大海に咲く薔薇』」
アフロディーテの周りに大量の赤い薔薇の花びらが舞う。
「弾けなさい」
虹の風と赤い花びらが触れた瞬間、爆発が起こりアドニスを大きく吹き飛ばした。
「な、何だよその花びら! 危ないじゃないか!」
「ふ~ん。やっぱりね。どうやら本家には遠く及ばない劣化品のようね」
アドニスの周りをそよぐ虹の風が強さを増す。
「さ、さすがにそんな言い方されると苛立っちゃうな」
虹の風がうねり四方からアフロディーテに襲い掛かる。
「無駄よ」
アドニスの足元に大きな赤い薔薇の模様が描かれる。
「『開花』」
真っ赤な薔薇の模様が光り輝くと、虹の風をなぞり次々と爆発を起こしアドニスを吹き飛ばす。
「うわあーーー!!!」
アドニス衝撃でザクロの木に打ち付けられた。
揺れた木からザクロの実が落ちる。
「うぅ・・・」
アドニスは痛みに悶えながら足元に転がるザクロの実に手を伸ばす。
一口食べると、アドニスの傷だらけの身体がみるみるうちに回復していった。
「あら、便利な果実ね。あんたたちが強気なのはそういう理由なのね」
「あ、あげないよ。これは僕の意思じゃないと取れないんだ」
アフロディーテは妖艶な笑みを浮かべる。
「あらそう。じゃあその実、私にも一つくれないかしら?」
アドニスはスイッチが入ったようにザクロの実を一つもぎ取り、アフロディーテに放る。
「あ、あれ?! ど、どうして・・・?」
「フフ。餓鬼は素直に言う事を聞いていた方が可愛げがあるわよ」
アフロディーテはザクロの実を一口かじる。
「ふーん。特別美味しいわけではないのね。これなら新鮮なアンブロシアの方がまだマシ。な~んだ、つまんない」
アフロディーテは食べかけの実を投げ捨てた。
「も、勿体ない事して。いい年したおばさんがする事じゃないと思うよ」
「何ですって?」
「お、大人げないって言っているんだよ!」
アドニスが両手をかざす。
「それ。自分に向けて放ってくれない?」
アドニスは従順に虹の風を自身に放ち切り刻んだ。
激しい血しぶきをあげる。
「うあああああっ?!」
我に返ると同時に全身を駆け巡る激痛に叫び声を上げる。
「あはっ! 可愛い声で鳴くのね! 久しぶりに昂ってきちゃうわ♪」
「ど、どうして・・・ 身体が言う事を聞かない・・・?」
アフロディーテは優雅に髪を掻き上げる。
「あんたが男として私の前に立ちはだかった時点で既に詰んでいたのよ。既にあんたの体の主導権は私が握っている。諦めなさい」
アドニスはその魅惑の身体から目を離す事が出来ずただ恐怖に震えていた。
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