第168話 愛ゆえに
「ねぇおばさん。素直にその光の玉を渡せば大人しく帰るよ?」
ミンテは後ろで手を組み上目遣いで問いかける。
「それは無理ね~。代わりにキャンディーで我慢してくれないかしら? エトナの美味しいお菓子屋さんを紹介してあげるわ♪」
ガイアは笑顔で手を合わせる。
「私、そんなに子供っぽいかなぁ? これでもそこそこあると思うんだけどな~。そりゃあママに比べれば全然スタイルよくないけどさ~」
ミンテは頬を膨らめ、やや控えめな胸を持ち上げる。
「ママ・・・?」
アシーナはミンテを睨む。
「そう! 私の大好きなママ! ママね! すごいんだよ! とっても強くてね! とっても優しくてね! スタイル抜群なんだよ! そこのおばさんとは大違いなんだ♪」
「な、何よ! あなただって私と大して変わらないじゃない! ふんだ! そ、その程度で誇られたって悔しくなんかないんだからねっ?!」
「悔しいのですね・・・」
アシーナは額に手を当てる。
「でも、ゼウス様のおかげで大好きなママと同じになれたんだ♪ 私はそれがたまらなく嬉しいの!」
ミンテの足元に巨大な青い魔法陣が展開される。
「下がっていてください。ガイア様」
アシーナはガイアの前に立ちミンテを睨む。
ミンテはエーテルで作り出した風のナイフで自分自身の腕を斬りつけた。
真っ青な血が滴り受け皿となった魔法陣に溜まっていく。
ミンテはしばらく立ち尽くし、愛おしそうに流血を見守っていた。
「ちょっと! 何しているの?!」
駆け寄ろうとするガイアにミンテは妖艶な笑みを浮かべる。
「だって、おばさんたち強そうなんだも~ん。これくらいの量はないとね」
溜まった青い血は球体となりミンテの頭上に昇っていく。
「『武装結界』」
頂点に達した球体が弾けミンテの身体を真っ青に染める。
やがて青い液体は鎧のようにミンテを包み込み禍々しい角や羽、長い尻尾を形成した。
「ああ・・・ 気持ちいい。ママに包まれているみたい」
「『絶対防御』」
「『モード・聖母』」
アシーナの周りに魔法の模様を模した光の盾が出現する。
「悪いけれど、子供が相手でも手加減はしないわ」
「あはっ! 本気で来てくれていいよ! 私もまだ馴染んでいないからね。量を間違えていたらうっかり殺しちゃうかも♪」
青き悪魔に武装したミンテは高速でアシーナに迫る。
「『聖域』」
ミンテの足元に巨大な黄金の魔法陣が展開され、素早く回転し彼女を覆い尽くすほどの太い光の柱が空へ伸びる。
「あははっ!! 無駄だよ♪」
ミンテは両翼で勢いよく羽ばたき光の柱をかき消した。
「『断幕』」
空から厚い光の幕が降り注ぎ、壁となってミンテとアシーナを分断する。
「こんなもの!」
ミンテは腕に力を込め光の壁に拳を打ち込む。
「やあぁぁっ!!!」
更に力を込めると光の壁に亀裂が入り始めた。
「何ですって?!」
アシーナは咄嗟に両手を添える。
ミンテは亀裂の入った割れ目にもう片方の腕をねじ込む。
そして扉を開くように勢いよく光の壁をこじ開けた。
「それじゃ、あなたから頂こうかな♪」
ミンテが巨大化させた青き掌でアシーナを飲み込まんと掴みかかる。
「モード・反射」
「え?」
気付いた時にはもう遅い。
掴みかかった手はその動きを止める事が出来ず現れた純白の縦長の盾を思い切り握り込む。
その瞬間、青い腕は一瞬で砕け散りミンテは衝撃で大きく弾き飛んだ。
「あうっ?!!」
ミンテは吹き飛んだ腕を押さえ苦痛に顔を歪める。
顔を上げると、神妙な面持ちでゆっくりと歩いてくるアシーナの姿が目に入る。
「うぅっ・・・」
「まさか優位属性を力技で覆されるとは思ってもみなかったけれど、残念だったわね」
「これで満足かしら? 今ならまだ許してあげてもいいわよ」
その圧倒的な力にミンテは言葉を失う。
「アッシーの神術、改めて見るとすごい力ねぇ。先が楽しみ」
ガイアは目を輝かせアシーナの戦いぶりに感動していた―――。
『時にゼウスよ。あの三人の人形に何を施した? あれらの術、あの人形達の持つ潜在的な力ではあるまい?』
「ああ。あれは開花の儀を応用しているのだが、ある時私は触れた事のあるエーテルを模倣する事ができる事に気付いてな。模倣の為に練ったエーテルを他者へと付与した場合どうなるのか試しておこうと思ったのだ。成功すれば、例えいくら駒が減ろうがエーテル情報さえ手に入れれば、この人形達を使っていくらでも再生産できる」
『ははは! なるほどな! つまり、お前にとってお前以外は正真正銘、ただの駒というわけだ!!』
ゼウスは顎に手を当てる。
「九割がた成功したと言っても良いが、女以外の二人は失敗かもしれん。男の二人は時折拒絶反応を起こしていたからな。恐らく力を完全に引き出せんだろうな」
「それに比べ、女は注がれたエーテルに抗うどころか、ありのままを受け入れた。喜んでいるようにすら見えた。あれほどスムーズに付与できれば本家にも負けず劣らずだろう。よほどこの女のエーテルと相性が良かったのだろうな」
『果たしてタルタロスへ向かった俺の玩具とお前の人形。どちらが優れているか見ものだな』
「そういう意味では、いささか愉快ではあるな」
ゼウスは期待の念を込めた眼差しで黒い大木を見上げた―――。
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