第166話 創世の悪魔
レトは息を切らし走っていた。
普段はきっちりと整えられた髪と服もやや乱れている。
オリンポス神殿の中庭にアマルティアとクロノス達の姿があった。
「見つかったって本当ですか?!」
ふらつく足取りでアマルティアに駆け寄る。
「はい。アースにて、不自然なゲート及び三つのエーテルを確認しました。異空間迷宮で拾った僅かなエーテルの波と性質が類似しています。恐らくゼウスの仲間でしょう。それにこの膨大な数のエーテル・・・ これは、まさか・・・」
クロノスは静かに頷いた。
「ああ。アマルティアの想像通りだ」
「ガイア様は・・・ これらを一人で抱え込んでいたというのですか。これだけの数でありながら私の『万物の保護』に引っかからないなんて。一体どれほどの・・・」
「ガイアのエーテル操作は常軌を逸している。膨大なエーテルをその身に宿しながら、どこまでも繊細で滑らかな技術。この世界にあいつの真似ができる奴はまずいないだろう。そんなガイアがエーテルを隠す事は容易い」
考え込んでいたメガイラが口を開く。
「しかし、ゼウスの仲間たちはどうしてアースに・・・? アース侵攻戦の時は、ゼウスがその土地を狙っての事であったのは理解できるのですが、今回は違いますよね」
「そうですね。捉えたこの数多のエーテル。恐らくこれが狙いなのでしょうが、その理由が分かりません」
「どうかされましたか?」
レトは難しい顔をして考え込むクロノスを気遣う。
「うむ。一つだけ心当たりがある。だが、エーテルに満ちていた遥か昔ならともかく、枯渇寸前の現代でそれが可能だというのか・・・? そもそも実在するというのか・・・?」
「クロノス様?」
「思い当たる節がある。驚かないで聞いてほしい。実は・・・」
クロノスの神妙な面持ちに、アマルティアたちは息を呑んだ―――。
異空間迷宮のとある場所―――。
黒き大木に生った黒い実から、人形達が次々と生まれ落ちる。
人形達の目には薄緑色の剣の模様。
エーテルでできた緑色の剣が、泉と大木を囲う柵のように取り囲み地に刺さっている。
『あの人形達に任せて良かったのか? お前はアースに思い入れがあるのだろう?』
「構わん。あの人形達の試運転も兼ねているからな。この程度のお使いもまともにできないようなら処分するまでだ。この女の目の前で、な」
祭壇で眠るペルセポネを見下ろす。
『くくく。お前もだいぶ頭のネジが飛んでいるようだな。見ている分には楽しめるが』
「そのセリフを笑いながら発する貴様は一体何なのだろうな?」
眠るペルセポネに手をかざすと、供給されるエーテル量が増し反動で身体がはねる。
「う、ああああっ!!」
「ふむ。無限ともいえるエーテルの質もそうだが、やはり何度聞いても良いものだ。この女の断末魔は」
『おい。あまり粗末に使って壊すなよ? そいつが死んでは全てが台無しになる。召喚するにはまだ足りんのだからな』
「分かっている。私に命令するな」
ゼウスは黒き大木を見上げる。
『タナトス』
この世界には、神や人々に長きにわたり語り継がれる一つの神話がある。
その神話によれば、この世界は二人の神と悪魔の激突から始まったとされる。
創世記。まだこの世界がその形を形成する前のはなし。
聖を司る一人の創世神に挑み敗れた暗黒の悪魔がいた。
その名はタナトス。
神に敗れたタナトスの身体は引き裂かれ、現在の大陸を作ったとされている。
時代の記録が始まった原初の星の時代である、クロノスとウラヌスが争った神歴0年。
星の時代から更に1000万年ほど前まで遡った、創世の時代。
「その神話は知っていたが、まさかおとぎ話ではなく実在していたとはな。全知全能の私でさえ驚きを隠せなかった」
『まあそれも当然だ。何せこの星が出来た当時の話だ。信じる者の方が少なかろう』
『とにかく、タナトスを召喚するには相当量のエーテルが必要だ。そしてその要となるのがそこの女であるという事を忘れるな』
ゼウスは鼻で笑う。
「心配性な奴よ。案ずるな。エーテル源は何もペルセポネだけではない。だからこそ、人形達をアースに向かわせた。それにもう一つ、アースに等しくエーテルを抱える場所がある」
『ほう? どこにそんな場所があると?』
ゼウスはニヤリと歯を見せ笑う。
「タルタロスだ。あそこは星の核に最も近い特異な地。死した者のエーテルが星に還りにくい性質を持つ。場合によっては、アースのそれを上回る可能性も十分考えられる」
『なるほどな。確かに一理ある。歴史を考えれば、相当な量が溜まっているはず。それだけのエーテルがあれば足りるかもしれんな。だが、手は打ってあるのか?』
「当たり前だ。あの欠陥品を向かわせている。アースと同時に攻め入れば、奴らの戦力も分散できるからな。一石二鳥だ。もう少しでこの世界が我々の物となる。ククク」
『くははは!! 上出来だ!! やはりお前を選んだのは正解だったようだな!!』
黒き大木から次々と生まれ出る人形たちを眺め、ゼウスは高らかに笑い声をあげた。
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