第163話 膨れる疑念
ガイアと合流したアシーナ達は、夕食のためレストランを探し歩いていた。
前を歩くガイアは鼻歌を歌いながらスキップしている。
「今日は何にしましょうかね~? 鳥のステーキでもいいし、鮭の煮込みなんかも良いわね! あ、デザートは林檎のコンポートで決まりね♪」
「お婆さんがスキップするなんてみっともないですよ」
「もう! アッフィーったらいつもいつも! 余計な事ばかり言わないの!」
「何よ。本当の事を言っているだけでしょ?」
アフロディーテは美しい金髪をわざとらしくなびかせる。
「アッフィーはどうして私に意地悪するの? 私はこんなにあなたを愛しているというのに寂しいじゃない」
ガイアは急にしおらしく目を潤ませる。
「そんな捨てられた子犬みたいな目で訴えないでよ・・・」
「あら、いいじゃない♪ 二人にもっと私達の仲を見せつけてやりましょ♪」
「そういうのいいですからっ!!」
アフロディーテは腕に抱き着くガイアを振り回す。
「あはは! お二人は本当に仲が良いのですね。羨ましいです」
「アッシーのお母さんて確か・・・」
「はい。メティスです」
アシーナは寂し気に微笑んだ。
「アッシー」
ガイアは可愛らしいポーズでアシーナに手招きする。
不思議そうに首を傾げ目線を合わせるアシーナの頭を優しく撫でた。
「私があなたのお母様の代わりになれない事も、その傷を癒してあげることができないのも分かってる。それでも、私にとってあなたはもう私の可愛い大切な娘。助けが必要な時はいつでも言ってちょうだい。あなたが望むなら、私は喜んで手助けするから。王としても、個人としても」
「ガイア様・・・」
「遠慮なんてしたら、お母さん怒っちゃうからね?」
アシーナの表情が次第に安らぎに変わる。
「ありがとうございます。ガイア様」
ガイアは見守るアポロンに向かいビシッと指差す。
「アッピーにも言っているんだからね! 分かった?」
「は、はい。ありがとうございます」
不意を突かれたアポロンは咄嗟に姿勢を正した。
ガイアは歯を見せ無邪気な笑顔を向ける。
「さ、早くいかないとお店が閉まっちゃうわ!」
小走りで駆けていくガイアに思わず笑顔になる三人だった―――。
「はぁ~。お腹いっぱいね~。幸せ♪」
ガイアのお腹はポッコリと綺麗な弧を描いている。
「年甲斐もなく食べすぎなんですよ、全く。どこに収まるんだか・・・」
アフロディーテはご満悦のガイアに呆れかえっている。
「だって~。エトナの料理は美味しいんですもの」
「はい。とても親しみやすい味でした。私は好きですよ」
「同感だ。やはりエトナの味付けは興味深いものがある」
アシーナもアポロンも幸せそうな笑顔を浮かべている。
「大袈裟ね~。私たちが入ったお店がたまたま美味しかったってだけでしょ。他の料理屋は案外普通よ」
ため息をつくアフロディーテを尻目に、ガイアはアシーナとアポロンの手を握る。
「分かってくれるのはアッシーとアッピーだけよ・・・」
嘘泣きして見せるガイアに呆れたアフロディーテは額に手を当てる。
「はぁ・・・ だからそんな分かりやすい演技は・・・ あら?」
アフロディーテは町を歩く人々の頭から光の糸が伸びている事に気が付いた。
(この糸、さっきも・・・)
「ねぇ。ガイア様」
「な~に? アッフィー」
振り向くと、そこにはいつになく真剣な表情のアフロディーテが立っていた。
「どうしたの? そんな怖い顔して。あ、さてはお母さんが二人に構ってばかりだから嫉妬して・・・」
「この人たちの光の糸。これ、何?」
一瞬ガイアの体が固まる。
「きゅ、急に何を言い出すのよ。 突然どうしたの? もしかして食べ過ぎて眠くなっちゃった? 疲れが溜まっていたとか・・・」
アフロディーテの表情が険しくなる。
「いい加減、とぼけるのは止めてくれます? ここ最近のガイア様の様子は明らかに不自然です。気付いていないとでも思っているのですか? 一体、何を隠しているんです?」
「そ、そんな隠しているだなんて・・・ 私は別に・・・」
アフロディーテは歯を食いしばる。
「そういうの止めてよ!! どう見たって隠しているでしょ?! 馬鹿にしないで!! 分かってるのよ!! 何で?! どうして何も教えてくれないの?!」
自分でもよく分からなかった。
どうしてこんなに腹が立つのか。
どうしてこんなに悲しいのか。
どうしてこんなに不安なのか・・・
息は乱れ、行き場のない怒りをぶつけるように頭を掻きむしる。
「お、落ち着いてアッフィー!! お母さんが悪かったからっ!!」
拒絶するようにガイアの手を振り払う。
「違うって言っているでしょ?! 隠し事している癖に何がお母さんよ! いつまでも母親面しないで!!」
「腹が立つのよ! その余裕ぶった態度が! 見下した態度が! 何なのよ!!」
アフロディーテは手を振り上げる。
「きゃっ?!」
ガイアは身体を強張らせ頭を抱える。
「やめなさい!! どうしちゃったのよ! さっきから様子がおかしいわよ?!」
アシーナは今にも殴り掛かろうとするアフロディーテを何とか取り押さえた。
ガイアはしばらく目を見開いていた。
いつもと違う。初めて向けられる心からの、攻撃的とすらいえる本気の拒絶。
一筋の涙が頬を伝う。
「そんなこと・・・ 言わないで。私、本当にそんなつもりじゃ・・・」
アポロンは庇うように、声を震わせ顔を覆うガイアの前に立つ。
「言い過ぎだ。これ以上は見過ごせない」
アフロディーテはスイッチが切れたように我に返る。
目の前には、嗚咽し泣き崩れるガイアの姿があった。
「わ、私は・・・」
例えようのない喪失感に囚われたアフロディーテは、その虚ろな瞳でただ泣きじゃくるガイアを見下ろしていた。
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