第161話 霞中の記憶
「う・・・ん・・・?」
レトが目を覚ますとアマルティアが心配そうに見つめていた。
「良かった・・・ 目を覚ましましたね」
「あ・・・れ・・・? 私・・・」
レトはゆっくりと体を起こす。
「急に倒れられたので心配していたのですよ」
「ご迷惑をおかけしてしまってすみませんでした・・・」
「体調の方はどうですか? まだ優れませんか?」
レトは額に手を当てる。
「体の方は大丈夫なんですけど、まだ頭がぼーっとします」
「きっと疲れが溜まっていたのでしょう」
アマルティアはおもむろに立ち上がると、部屋のカーテンを閉めた。
「あまり長居してもお身体に障りますし、そろそろ失礼させて頂きますね」
「申し訳ございません。せっかく来ていただいたのに・・・」
アマルティアは首を振る。
「謝らないでください。それに、とても有意義な時間を過ごせました。ありがとうございますレト教授」
アマルティアはドアノブに手を掛けると、思い出したようにレトに振り返る。
「アンブロシアのお店、楽しみにしていますね」
そう言って微笑みかけると、アマルティアは静かにドアを閉め部屋を後にした。
しばらくドアを見つめていたレトはそのまま横になり天井を見上げる。
「何だかまだ長い夢を見ている気がする。私、どうしちゃったんだろう・・・?」
呆けていると、ほのかに漂う華やかな香りに気が付いた。
「アンブルティー?」
レトは静かに起き上がりベッド横の小さな机に置かれたカップに手を伸ばす。
カップの下にメモ書きが置いてある。
『お大事に』
「ありがとうございます。アマルティア学院長」
メモをそっと握りしめ笑顔を浮かべる。
柔らかい香りに包まれながら、カップを口へ運ぶレトだった―――。
エピクリオス神殿はドリス式と呼ばれる建築様式を採用している。
この技法はユピテリアにおいてもっとも古く、伝統的な建築技術である。
神殿を支える柱には二十本ほどの溝が縦に刻まれており、柱頭は派手な装飾はなされていない。
全体的にシンプルな作りをしているが、柱のデザインが神殿全体に重厚感を与えている。
「はぁ~。素晴らしい神殿ですね。幸せです」
パイドラとアリアドネは両手を合わせ、拝むように神殿を見上げている。
「お前達、エピクリオス神殿の事になるとキャラが変わるな」
「良いと思いますよ。熱中できるものがあるのは素晴らしい事だと思います」
「そういうものか?」
首を傾げる俺にテッサは微笑みかける。
「ニケさんはすでにお持ちのはずですけどね。それも二つも」
難しい顔をするニケに、パンドラは勢いよく肩を組む。
「あははっ! ニケも鈍感な奴だなあ!! そういうところ、嫌いじゃないけどね!!」
「何だ? お前まで知った風な・・・」
ふとアルテミスを見ると、口を開け呆けながら神殿を見上げていた。
「どうした? 久しぶりの実家なのだろう?」
「え?! あ、うん! そうなんだけど・・・ 久しぶりだからか、こんな作りしていたかなーって。おかしいよね、実家の外観を忘れちゃうなんて。あはは」
アルテミスは恥ずかしそうに頭を掻く。
神殿の正門から一人の女性が出てきた。
女性はすぐにこちらに気付き、物凄い形相で近づいてくる。
「あなたたち、何者ですか? あまり神殿の周りをうろうろしていると王に報告しますよ?」
「す、すみません!! エピクリオス神殿を一目見たく参った次第でございます」
「すぐに帰りますのでご安心ください」
パイドラとアリアドネは慌てて頭を下げる。
女性は滑らかなウェーブがかった青髪をなびかせる。
「全く。貴族でもない庶民が軽々しく神殿に訪れるなんて・・・」
アルテミスは皆の前に立ってお辞儀をする。
「ただいま帰りました。セレネお母様」
「あら! アルテミスじゃない! 久しぶりね! なかなか顔を出さないから心配していたのよ? アポロンは元気?」
セレネはあからさまに態度を変える。
「うん。お兄様も私も変わらずだよ」
「そう。元気なら良かったわ」
セレネは安心したように胸に手を当てる。
「失礼な態度を取ってしまったわね。ごめんなさい」
セレネは俺達に向かい頭を下げる。
「お父様は神殿にいるの? せっかくだからお父様にも挨拶したいな」
「ヒュアキントス王は公務で外しているわ。私もこれから用事なの」
「また時間がある時にゆっくりいらっしゃい」
セレネはアルテミスの頭を撫でる。
俺たちに軽く会釈すると、彼女は神殿を後にした。
「何かごめんね。タイミング悪い時に来ちゃったみたい」
アルテミスは困ったように微笑みかける。
「そんな! 神殿を見られただけでも光栄でした。それにセレネ様とも話す事ができましたし、感謝いたします」
話を遮るようにピュラの腹の虫が鳴り響いた。
「全く。便利なお知らせ機能だな」
「あっはは!! 早く飯食わせろってさ!」
パンドラは後ろで手を組み豪快に笑う。
「そうだな。もうじき日も暮れる。そろそろレオンダーリに戻るぞ」
げっそりしたピュラの手を引き歩き出す。
アルテミスは振り返り、夕陽に照らされ佇む神殿を眺める。
首を傾げどこかすっきりしない表情のまま神殿を後にした。
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