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第158話 王の血統


エピクリオス神殿の眼下には、デロス島最大の神殿でレオンダーリという中部最大の商業の町が存在する。


最大と言っても、アルカディアやサングラッセンと比べるとその規模は小さい。


エピクリオス神殿のお膝元であるレオンダーリは、南北に向かう行商人や要人が長旅で疲れた体を癒す休憩スポットとしての役割も担っており、デロス島を縦断するにあたって非常に重要な拠点だ。


エピクリオス神殿を治めるヒュアキントス王のアイディアにより、憩いの場から商業施設まで幅広い施策が実施され、その活躍が認められ民からの信頼も厚い。


コンパクトに纏まりつつも、活気に満ち溢れた町だ。


「あちらに見えるのがエピクリオス神殿です」


アリアドネは丘の上に小さく見える建物を指差した。


「神殿もそこまで大きくはないんだな」


「土地の広さや見た目は他の神殿に見劣りしてしまいますが、王であるヒュアキントス様の手腕により、その知名度は高いのです」


パイドラは指を立て説明する。どこか嬉しそうだ。


「では参りましょうか」


パイドラとアリアドネは丘に向かい歩き出す。


「身支度を整えなくていいのか? 宿の確保もあるだろう」


二人は華麗にターンし、勢いよく頭を下げた。


「お願いします!!」


「一目でいいから神殿を見学させてください!!」


律儀に頭を下げるものだから、思わず何かあったのかと勘繰ってしまった。


「そう言えば、サングラッセンでもやけに昂っていたな。そんなに見たいのか?」


二人は首がもげそうなほど激しく頷いた。


俺は呆れて頭を掻く。


「やれやれ。それなら早く済ませよう。こいつが限界だ」


お腹を抑えうつむくピュラの頭を撫でる。


「おなかへった・・・」


「あははっ!! カリュブディスとの戦いもあったもんね! 誰かさんが瞬殺しちゃったけど♪」


「はうっ?!」


ショックを受けたアルテミスはその場に崩れる。


テッサは手にした長刀でパンドラの頭を叩く。


「いてぇ?!」


「一言余計ですよ」


「悪かったって」


パンドラは涙目で頭をさする。


「では、こちらです」


鼻歌を歌うパイドラとアリアドネに案内してもらい、俺達は丘の上のエピクリオス神殿へ向かった―――。




賑やかにな出店が立ち並び食欲をそそる、肉の焼けたいい匂いが漂ってくる。


ピュラの腹の虫が一層強く鳴り響く。


「う~・・・」


「あとでたらふく食わせてやるから、もう少し我慢しろ」


黙って頷くピュラの頭を撫でる。


「それにしても、久しぶりだなあ。エピクリオス神殿。お父様もお母様も元気にしてるかな」


神殿を眺めながらアルテミスはしみじみと呟いた。


「アルテミス様はエピクリオス神殿出身とおっしゃっていましたね」


「俺の記憶では、エピクリオス神殿とは言っていなかったぞ?」


中部の神殿出身とは言っていたが、エピクリオス神殿とは一言も言っていなかったはずだ。


「デロス島中部はエピクリオス神殿以外に神殿は存在しないのです。周辺に小さな町や集落がちらほらあるくらいです。ですので、中部の神殿出身という事はエピクリオス神殿出身ということになります」


「アルテミス様のご両親は神殿に仕える者なのですか?」


「ううん。違うよ。ヒュアキントスとセレネが私の両親なんだ」


前を歩くパイドラとアリアドネの足が止まる。


「何ですって・・・?」


「へ? だから、ヒュアキントスとセレネだよ?」


二人は物凄い形相でアルテミスに迫る。


「それは本当なのですか?!」


「う、うん。一応・・・」


二人の食いつきにパンドラは首を傾げる。


「ヒュアキントスとセレネ? 誰だそれ?」


「失礼な!! このエピクリオス神殿の王様と女王様ですよ!!」


パイドラは大声をあげ抗議する。


「お、おう・・・?」


パンドラは訳も分からずただ勢いに押され頷いた。


「という事は、アルテミス様はエピクリオス神殿の王女様という事ですか?!」


「一応そういう事になるけど、別にそんな大袈裟なものじゃないよ」


「そんな事はありません! ヒュアキントス王は、当時まだ北部から南部へのまともな交通手段がなかった頃、長旅を強いられる商人や旅人を憂い少しでも旅の疲れを癒そうと立ち上がり、このエピクリオス神殿を建設し中部を中継地点として発展させたお方」


「スキュラを導入するきっかけを与えて下さったのもヒュアキントス王です。調教施設への経済的支援もしてくださっており、私たちの故郷である北部の発展にも多大な影響を与えたお方なのです」


怒涛の勢いで説明する二人に、アルテミスは堪らず苦笑いする。


「何だ。結構な血統じゃないか。それならエポヒとやらに選出されるのも納得だな。あのオモチャだけはその素養があるとは思えんが」


「そ、そんな事ないよ! エポヒに選ばれたのも運が良かっただけなんだ。偶然、教授たちが話しているのを聞いちゃったんだけど、元々はアシーナ達四人の中から決めるつもりだったのを、レト教授の推薦で私の名前が挙がって・・・ それで何とか王の試練を受けられるようになったみたいなんだ」


「ふ~ん」


パンドラは頭の後ろで手を組む。


そしてアルテミスに笑いかける。


「じゃあ、そのレト教授って人が唯一、アルテミスの才能に気付いていたんだな。他の教授たちは見る目がなかったって事だ♪」


「パンドラもたまには良い事言いますね。私も同意です。所詮はいち人間の身ではありますが、僭越ながら私から見てもアルテミスさんはエポヒに相応しいと思いますよ。何よりその王の試練を乗り越えた事が何よりの証拠です」


テッサとパンドラは顔を見合わせ笑顔になる。


「パンドラ。テッサ・・・」


「あるてみす、ぱんどらとおなじにおいがする! すきなにおい!」


ピュラは手を挙げ軽く跳ねる。


「たまにこわいけど」


俺はピュラの頭を乱雑に撫でる。


「神嫌いなこいつが神に対しここまで気に入る事も珍しい。自信を持っていいと思うぞ」


「ありがとう。ピュラちゃん・・・」


アルテミスはピュラに目線を合わせる。


「それじゃあ神族の中で一番好きな匂いは誰かな?」


「あしーな!!」


その言葉に、俺とアルテミスは思わず笑顔になる。


アシーナに聞かせてやりたかった。


「今の言葉、いつか本人に言ってやれ」


そう言うとピュラは恥ずかしそうに俺の後ろに隠れた。


「ニケは、神が嫌いなんだよね・・・」


寂し気な視線を送るアルテミスから目を逸らす。


「神がどうしようもなくクズだという思いは今も変わらん。だが」


「お前やパンドラ、ガイア達と関わるようになって少しはマシに思えるようになったかもな」


パンドラは勢いよく俺に肩を組む。


「あははっ!! ニケもほんと素直じゃないよね!! 割と好きなんだろ? ぼく達の事♪」


「別にそんなんじゃない」


耳を赤くしてはぐらかすニケの姿に、アルテミスは優しく微笑むのだった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


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