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第157話 孤独な月女神


刀状に変えた黒霧でカリュブディスの腕を上へ弾く。


「ゴオオオオオオオ!!!」


カリュブディスは咆哮を上げ、激しく尾爪を打ち付ける。


高く跳躍し、黒の鼓動(カルディア)を纏い戦闘態勢に入る。


「さて。どうやって喰らってやろうか。 ・・・ん?」


カリュブディスはニケを無視してそのままアルテミスに止めを刺そうと襲い掛かる。


「やれやれ。魅了効果がまさかここまでとは・・・」


突然、凄まじいエーテルの流動を感知した。


とてつもない重圧だ。


辺りが急に薄暗くなる。


「にけ・・・ あれ。」


呆気にとられるピュラの指さす方向を見る。


「何だ。あれは・・・」


ケライノとアルシオーネも異様なエーテルの重圧に空を見上げる。


【おいおいマジか。ありゃあシャレにならないぜ、御婆様】


ケライノは燃えるような赤き瞳で空に揺らめく鮮やかな緑のオーロラを注視する。


【そのようじゃな・・・ あの緑色に揺らめく光の帯。一本一本の矢でできておる。まさか・・・】


「み、みんな・・・ に、げて・・・」


アルテミスは痛みを堪え声を絞り出す。


「まずい!!! 離れろ!!!」


「わっ!!」


【うわぁっ?!】


俺はピュラを抱え黒霧の腕を伸ばしアルテミス達三人を引き寄せる。


空に輝く緑幕から一斉に矢が放たれる。


漆黒の翼を生やし全員を抱え思い切り羽ばたく。


無数の矢は地面が揺れ動くほど激しく降り注ぎ、いとも簡単に赤く分厚い甲羅を貫通していく。


凄まじい轟音がカリュブディスの叫び声をかき消す。


「何だ? 矢が俺達を避けている・・・?」


光の矢は空を舞う俺達を綺麗に躱し、標的の魔物のみに降り注ぐ。


陥没地帯を抜け振り返ると、カリュブディスは見るも無残にハチの巣と化し絶命していた。


【すげぇ。あれだけ固い甲羅を・・・】


【全く。ほんにお主は女子の扱いがなっていないようじゃな。見よ。お気に入りの着物が乱れてしまったじゃろ】


ケライノは着物の埃を払う。


「お前な・・・ そんな事言っている場合ではないだろう」


【ともあれ、儂らの出番はここまでのようじゃな】


ケライノは着物を正し背筋を伸ばす。


【ははは!! ほとんど何もしていないけどな!】


【アルテミスに全て持って行かれてしまった故な】


二人の背中の羽が消え、髪の色も元通りになっていく。


「テッサ!! 見たか?! すごいな!! 何だよあの矢の数!! それにあの破壊力!!」


目を開けるや否や、パンドラは目をキラキラさせてテッサの肩を激しく揺らす。


「分かりましたから、落ち着いてくださいパンドラ」


「だってさー! アルテミスのヤツ、あんなもん隠し持っていたんだぞ?! こりゃあ、アルテミスに一本取られた! こんな力があるなら本当にぼく達必要なかったなぁ! ピュラもそう思うだろ?」


「うん!! きらきらひかっててかっこよかった!!」


「さすが我が友!!」


パンドラは両手でピュラを抱き上げる。


「この光景をアシーナにも見せてやりたかったな」


「あなたという人は。またそういう事を・・・」


テッサは意地悪な笑みを浮かべるニケにため息を漏らす。


「それよりニケさん。急いでアルテミスさんを手当てしませんと・・・」


「私がどうかしたの?」


テッサの横に立っていたアルテミスは首を傾げる。


「ですから、早く手当てしないと手遅れに・・・」


横を向くと、すっかり傷が癒えたアルテミスの姿があった。


テッサは思わず手にした長刀を落とす。


「ど、どうして・・・」


「ああ、傷の事? 大丈夫だよ。ほら、この通り」


アルテミスは両手を広げて見せる。


身体を包み込んでいた深緑色のエーテルは、次第に薄まりやがて消えていった。


「前までは回復に時間が掛かっていたんだけどね。今は少し時間が経てばエーテルが自然回復してくれるんだ。攻撃に返還する力も増したおかげで、瀕死に追い込まれなくても威力を高められるようになったから、鍛錬の甲斐があったみたい」


「痛みはしっかりと感じるんだけどね。あはは」


アルテミスは恥ずかしそうに指を合わせる。


「その緑色のエーテルを纏っている間に攻撃を受けると、そのダメージが蓄積していくという事か。そして限界を超えたところで一気に放出、か」


「その通りだよ。さすがニケだね」


「しかし、なぜ俺達には矢が当たらなかったんだ? 矢は俺達を避けていたように見えたが」


「たぶん、私を抱えていたからじゃないかな。あの矢は私には絶対に当たらないんだ。私の近くにいたから標的にならなかったのかも?」


ピュラは俺の服の裾を掴み、何かを言いたそうに見上げる。


「どうした?」


「なんできゅーしゅーしなかったの?」


「感覚的に避ける事を選んだ。あの矢はそれほど危険だったという事だ」


テッサは思わず口に手を当てる。


「ニケさんにも取り込めないエーテルがあるのですね。驚きました」


「いや、取り込むことは可能だ」


「あの矢。俺一人だけならいざ知らず、あの量と殺傷能力で全員が標的となるとさすがに分が悪かった」


「直感的な推測に過ぎんがな」


実際、俺が直接全員を回収した方が早かった。


それに、もしも判断を誤っていたら・・・ 俺以外の連中は確実に致命傷だっただろう。


それくらいとてつもなく凝縮されたエーテルだった。


アルテミス・・・見た目とは裏腹にとんでもない能力を隠していたものだ。


「全く。そんな力があるなら事前に言っておけ。危うく壊滅的な被害が出るところだった」


「ご、ごめんなさい! なかなか伝えるタイミングがなくて・・・」


アタフタするアルテミスに思わずため息をつく。


「一ついいか?」


「改まってどうしたの?」


アルテミスは首を傾げる。


「お前のその神術。仮に、お前自身が死んでしまうような攻撃を受けたらどうなる?」


「う~ん・・・ 死んだことないから何とも言えないけど・・・」


アルテミスは頬に指を当て空を仰ぐ。


そして笑顔で言い放った。


「多分、その場にいる全員が死ぬまで矢が降り続けるんじゃないのかな?」


その場にいた全員が言葉を失う。


ピュラの顔はみるみる恐怖に染まり、震える手で俺の脚に抱き着いた。


「あるてみすといっしょにいたくない・・・」


その瞳には涙が浮かんでいる。


「そんな?! そんな事言わないでよピュラちゃん!」


「どうやらこいつもアシーナと同類だったようだな」


俺はピュラの頭を撫でながらアルテミスに憐れみの眼差しを向ける。


「え?! まさか、ピュラちゃんがしばらくアシーナの事を避けてたのってこういう事だったの?!」


アルテミスは頭を抱える。


「そ、そうだ! アルテミスは今、アシーナの代わりも兼ねているんだよな? 色々と大変だろ? いつまでもこんなところにいないで、そろそろオリンポスに戻った方がいいんじゃないか?」


「どうして?! 何か急に態度変わってない?!」


テッサはため息をつく。


「それではアルテミスさんが可哀想ですよ」


「テッサ!!」


救いの言葉にアルテミスの表情が明るくなる。


「エピクリオス神殿に到着したら、アルテミスさんはそこで待っていてください。後は私達がやりますから」


「あからさまに避けようとしてるよね?! 酷くない?!」


「お前の方がよっぽどタチが悪いだろ・・・」


瞳をウルウルさせるアルテミスを尻目に、パンドラの顔が引きつる。


「助けてよニケ!!」


アルテミスは涙ぐむ瞳で俺の肩を揺らし訴えかける。


「・・・・・」


アルテミスに揺すられながら晴れ渡る青空を見上げる。


そしてゆっくりと肩に手を置いて微笑みかけた。


「ニケ・・・」


アルテミスは安堵の息を漏らす。


「・・・安心してオリンポスに帰るがいい」


それだけ言い残し、俺はスキュラの元へ向かった。


「何でそうなるの?!」


動揺するアルテミスをよそに、ピュラもテッサもパンドラも、パイドラとアリアドネすらも激しく頷き彼女を残してせっせとニケの後を追った。


「うわ~ん!! どうして?! こんな大砂海の真ん中で置いてけぼりにしないでよ~!!」


泣きわめきながら皆の背を追うアルテミスだった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


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