第155話 化け物たち
『ところで、アルテミスと言ったか。お主のエーテル量もずば抜けておるな。器としては、間違いなくこの中で一番の許容量じゃ』
「そ、そんな事ないですよ! ニケだっているし!」
ケライノの目が鋭く光る。
『あやつの場合はエーテルとかそういう類の物ではなかろう。闇の性質故じゃ。個人が持つ純粋なエーテル量で言えば、そうじゃな・・・ ギリギリ上と言ったところかの』
『儂は一目見れば大体その者のエーテル量は測れるのじゃが、お主だけは底が見えん。長く生きたがそんなヤツに出会った事は一度もない。相当なものじゃ』
ケライノは腕を組み激しく頷いている。
「ケライノがここまで言うのも珍しいね! 人は見かけによらないものだなぁ!!」
「そうだ! ぼくの代わりにケライノと契約してみる? おばあちゃんの説教はもううんざりしていたし、ちょうどいいや! ぼくよりも相性が良かったりして♪」
パンドラは軽快に指を鳴らす。
「ええっ?! いきなり何を言い出すの?!」
『そうじゃこの大馬鹿者め!! 相性はエーテル量だけで決まるほど単純なものではない!! 大体、本当にその素質があるなら儂の意思に関係なくとうにアルテミスに惹かれているはずじゃ!』
「わーい!! けらいのー!!!」
並走する隣のスキュラに飛び移ろうとするピュラの服を掴む。
『ひゃっ?! ピュラ?! ち、近寄るでない!!』
ケライノは急いで黒刀へ戻って行った。
捕まれたピュラはぶら下がりながら足をバタつかせている。
「落ちると言っているだろう」
そのまま片手でピュラを後ろに放り投げる。
パイドラとアリアドネの間に綺麗にすっぽりと収まったピュラは目をぱちくりさせている。
「ピュラちゃん、本当にケライノ様が好きなんだね」
「ケライノは歴代の長の中でも、特に高貴で洗練されたエーテルを持つ精霊ですからね。パンドラにしてもそうですが、ピュラさんは彼女たちのエーテルの質の高さに本能的に気づいているのでしょうね」
テッサはまじまじとアルテミスを見つめる。
「それにしても、あなたは本当に不思議な方ですね。控えめで照れ屋さんなのに、エーテル量は随一なんて、ギャップの塊みたいな方です。惹かれてしまうのも仕方のない事なのかもしれませんね・・・」
テッサの表情が次第に扇情的になっていく。
「ひっ?! また魅了されてる?!」
顔を近づけて来るテッサから逃げ出しパンドラにしがみつく。
「あっはは!! 君も随分気に入られたね! テッサがこんなに感情を出すところ初めて見たよ!」
「ち、違うの!! これは魅了がっ!!」
「ああ、ソルクフォードで言っていた? でもそれって動物や魔物にしか効かないんだろ? まさか・・・?!」
パンドラは後ろを振り返る。
頬を微かに赤く染め切なげな視線を向けてくるテッサと目が合う。
ゴクリと唾を飲む。
「お前・・・ 魔物、だったのか・・・? 道理で人間離れした能力を持っているわけだ・・・」
「もう! そんなわけないでしょ!!」
アルテミスは二人の間に割って入る。
「あははっ!! 冗談冗談!! いくらテッサが化け物じみていてもさすがにそれはない! これでも幼馴染だからね♪」
「真面目な話、テッサは昔から人一倍感受性が豊かなんだ。そのせいで精霊に好かれて、体内に精霊を取り込んでしまった事がある。それが原因で一度死にかけているんだ。まあ、だからこそ精霊を何体も受け入れる事が出来ているのだと思う。そんな感覚に敏感な彼女がアルテミスのエーテルに触れ続ければ、そりゃあ魅了もされちゃうだろうね」
「おお!? テッサにはそういう攻め方があったか! 意外な弱点発見♪」
パンドラは大きく指を鳴らした。
「そうだったんだ・・・」
アルテミスはテッサをそっと抱きしめる。
「ごめんねテッサ。何も知らずに逃げたりしちゃって」
テッサの目が元の輝きを取り戻し、火照った頬も元通りになっていく。
「アルテミスさん・・・? どうかされたのですか?」
「ううん。何でもないよ」
テッサを抱きしめる彼女の様子見ていたパンドラにも笑顔がこぼれる。
「君は優しいんだね」
再び空を仰ぐ。
「それにしても暇だなぁ~。そろそろカリュブディス出てきてくれないかな。このままじゃ退屈過ぎて死んでしまうよ。 ・・・ん?」
パンドラは並走していたスキュラが足を止めた事に気が付いた。
ニケは遠くを見つめている。
視線を追うが何もない広大な砂海が広がるのみだ。
「今、声が聞こえたな」
「あっち」
ピュラはニケの言葉に合わせ、声のした方向を指差した。
「上出来だ」
頭を撫でると、ピュラは嬉しそうに微笑んだ。
「聞こえましたか・・・?」
パイドラの問いにアリアドネは首を振る。
パンドラたちもキョトンとしていた。
「お~い、ニケ~。本当に聞こえたのかい? ぼくには全く聞こえなかったよ」
「匂いもするから間違いない。カリュブディスのものかは分からんが、確かに魔物らしき叫び声が聞こえた。それに、感じた匂いはその一つだけだ。そうだな・・・ ここからだと10kmくらい先か」
アルテミス達は目を丸くする。
「あれ、神術じゃないんだよね・・・? 分かっていたけどニケって本当にすごいなぁ。色々と・・・」
「ピュラさんもですね。ニケさんの反応に当然のように答えるあたり、さすがと言うべきか、化け物じみていると言うべきか」
(テッサがそれを言うの?!)
(あれ・・・? ていうか、もしかしてこのメンバー・・・ 化け物しかいないんじゃ?!)
アルテミスは一人頭を抱え、気付いてしまった事を激しく後悔していた。
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