第154話 水魚の交わり
スキュラは頭が六つ、足が十二本生えた大型の狼の魔物だ。
見た目は禍々しい魔物の姿をしているが、魔物の中では非常に頭が良く俊敏である。
その特性を利用しようと、ソルクフォードでは商業のために調教技術が発達した。
そのためソルクフォードのスキュラは野性のものと違い温厚だ。
「おお~!! はやい!! でかい!!」
ピュラはスキュラの体に取り付けられた長い鞍から身を乗り出し大砂海の風を受けている。
「落ちたらそのまま置いて行くからな」
俺は綱を握ったまま前方を眺める。
燦々と降り注ぐ陽光に澄み渡る青い空。
乾いた風が頬を撫でる。
さすが大砂海と呼ばれるだけあって視界を遮るものは何もない。
スキュラの砂を駆る音が響くだけだ。
「おーい!! 我が友―!!」
もう一頭のスキュラが横に付けてくる。
「えへへ!! ぱんどらー!!」
珍しい体験にご機嫌なピュラは元気に応える。
全員が乗れる大きさの鞍がなく、俺達は二手に分かれた。
向こうはパンドラが綱を握り、後ろにはテッサとアルテミスが乗っている。
「このまま真っすぐ進めばいいんだな?」
後ろで静かに揺られるパイドラとアリアドネに確認する。
「問題ありません。私達がカリュブディスの雄叫びを聞いたのは砂海の中腹辺りです。まだしばらくは鉢合わせになる事はないでしょう」
「今すぐに現れてくれた方が楽なんだがな」
「本当に頼もしいお方です」
二人は顔を見合わせ笑顔になる。
「それにしても暇だなー。そのカリュブディスってヤツ、早く現れてくれないかなー」
パンドラは手綱を握ったまま空を仰ぐ。
「戦う気がなかった癖によく言いますね」
「もちろん!! 今もないよ!!」
親指を立てはにかむパンドラに、テッサとアルテミスは苦笑いする。
「最悪、戦う事になってもケライノに体を貸せばいいだけだしね! 楽勝楽勝♪」
腰の黒刀がパンドラの頭を叩く。
「いてっ?!」
堪らずケライノが顕現する。
『たわけ!! あまり低俗な事をほざくようなら、もう力を貸してやらんぞ馬鹿者め!!』
「とか何とか言って~。本当はぼくの身体が居心地いいんだろ? でなきゃ普通、こんなにほいほい顕現できないもんね。ね? ケライノちゃん?」
『な、何を馬鹿な事を?! そんな事ないわ! うっかり契約してしまったから離れられないだけじゃ!』
『それに何じゃそのふざけた口調は?! 小動物の分際で儂を子ども扱いするでないわ!』
耳元で声を張り上げるケライノに、パンドラはたまらず耳を塞ぐ。
「こんなに近くで精霊を見たの初めて。何て言うか、もっと近寄りがたい存在なのかなって思ってた」
テッサの後ろで目を輝かせるアルテミスに、ケライノは腰に手を当て頷いた。
『お主は精霊というものが分かっておるようじゃな。そうじゃ。本来、儂ら精霊は小動物ごときと会話をすること自体が稀なのじゃ。そもそも・・・』
「はいはい。分かったからケライノちゃん。あまり講釈を垂れると余計に老けるよ、おばあちゃん♪」
ケライノの顔が真っ赤に染まる。
『うるさいわ!! 儂はまだまだピチピチじゃと何度も言っておるじゃろうが!!』
「実際はどうなのテッサ?」
罵倒し合う二人を尻目にテッサに問いかける。
「パンドラはあのようにふざけた言動を取っていますが、精霊に身体を貸す事は当人にとってかなり負担になる行為です」
「え?! そうなの?!」
アルテミスは驚いた様子でパンドラを見る。
「はい。何体もの精霊と契約を交わしている私が言っても説得力がないかもしれませんが、肉体的にも精神的にもかなり負荷がかかります。というのも、契約した精霊は基本的に宿主のエーテルを消費して活動するので、精霊が力を発揮できるか否かは宿主のエーテル量による所が大きいのです。その為、場合によっては一日寝込むこともあるのです。」
「何体もの精霊と契約している私でさえ、ケライノのように長時間、それも精霊の意思であんなに自由に顕現させてあげる事は難しいです。精霊本人の能力の高さ、宿主とのエーテルの相性、量など一言に相性がいいと言っても、どれも複合的に高い水準で噛み合わなければあの二人のような関係にはまずなれません」
「そうは言っても、精霊と契約できるという事は宿主に相応のエーテル量があるという事ですので、精霊が力を発揮できない事というのはそうそうないですけどね。そういう意味では、パンドラはケライノの力を120%引き出せていると言ってもいいと思います」
アルテミスはポカンとしたまま文句を言い合う二人を眺める。
「それを、あんな調子で精霊と会話しているなんて・・・」
二人を見つめるテッサの表情も自然と柔らかくなる。
「それを疲れた様子など一切見せないのですから、尋常ではない体力と精神力です。そして、お互いこの上なく相性がいいという事でしょう。むしろそのおかげで余計なエーテル消費をしないで抑えられているのかもしれません」
二人の視線に気づかない程、パンドラとケライノは夢中になって文句を言い合っていた。
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