第151話 友の為に
『この器たちもようやく成長してきたな』
「フン。気が早いヤツだ。実際のところ、せいぜい3割くらいだろう」
ゼウスは赤黒い木に吊るされた三人を見上げる。
赤黒い木は以前よりも一回り大きく成長していた。
「う・・・ ああっ!!」
ミンテはペルセポネから供給されるエーテルに反応し体を痙攣させる。
それに連動するようにアドニスとザグレウスの体も痙攣する。
『時にゼウスよ。気付いているか? 地上領域アースの大量の養分に。これを利用しない手はないと思うが?』
「当たり前だ。とはいえ、気付いたのはほんの数日前だがな。五割を超えた辺りで試運転を兼ねて送り込むつもりだ」
『大丈夫なのか? 失敗しましたでは済まされんぞ』
ゼウスは高らかに笑う。
「案ずるな。五割でも十分すぎる力を有している」
『あくまでヤツを召喚する前座だ。ヤツの召喚が成功するまで油断は禁物というものだ』
「分かっている。あの災厄どもを地獄に叩き落とすにはヤツの力が必要だからな」
ゼウスの瞳の剣模様が怪しく光る。
「それに、養分はアースだけではない。タルタロスにも十分な養分があるからな。エネルギーとしては申し分ないだろう」
『そのタルタロスはどうするつもりなのだ?』
「あの欠陥人形に行かせる。いくら欠陥とはいえ、お使い程度の命令なら失敗することはあるまい。奴らの抵抗があると予想出来るが、用だけ済ませて何もせずのこのこ帰還しようものなら、私が直々に粛清するまでだ」
ゼウスは気を失い眠るペルセポネを見下ろす。
「くくく。まさか己のエーテルで本物の悪魔を召喚する事になるとは夢にも思っていないのだろうな。絶望に染まった貴様の顔はさぞ美しいだろう」
ゼウスの高笑いに反応するように、赤黒い木は淡く光を放っていた―――。
エリスはデイモスを連れ、神殿の敷地内にある実家に訪れていた。
エリスのメルヘンチックな部屋の壁は四方を本棚で囲まれ、様々な種類の書物がぎっしりと並んでいる。
そのほとんどが精霊や理想郷エリュシオンに関する物だ。
「ねえ、エリス。さっきから何を必死に調べているのさ?」
「うるさいですわね。文句を言う暇があったらあなたも探してくださいまし」
エリスは本棚から出した、大量の古びた書物をデイモスの前に乱雑に広げる。
「そんな事言ったって、こんな大量の本の中から一体何を探せと言うんだい?」
「当然、精霊を復活させる方法ですわ」
「精霊って、テッサが抱えていた長刀の中の? 無理だって。僕たちは精霊に関して全くの無知じゃないか。そんな僕らが解決策なんて見つけられないと思うけど・・・」
エリスは手にした本を静かに閉じる。
「そんなの関係ありませんわ。友達が困っているのです。こういう時に手を差し伸べず、いつ差し伸べると言うのです? それに、実際に解決できるかどうかなんてどうでも良いのです。これはただ、わたくしのわがまま。テッサを助けてあげたい。力になってあげたい。それだけですわ」
エリスは再び本に目を通し始める。
「もしも、あなたにその気がないのなら無理してわたくしに付き合う必要はありませんわよ」
デイモスは大きくため息をつく。
「ここまで連れてきておいてよく言うよ」
デイモスは乱雑に置かれた書物を手に取る。
「僕だってテッサの力になってあげたいのは同じさ。もちろん手伝うよ」
エリスは難しい顔をしながら熱心に本に目を通すデイモスに思わず笑顔になる。
「テッサって、何か不思議な感じですわね。人間なのに神族のような潜在能力の持ち主で高貴。常に冷静で冷たいと思いきや、意外と優しい。何故か助けてあげたくなってしまうのです。余計なお世話かも知れませんけど」
「急にどうしたのさ? 僕たちは元々神も人間も差別していなかったじゃないか。まあ、神殿育ちで人間を知る機会なんてなかったようなものだし、実際のところ気にしていなかったというのが本音だけど」
デイモスは本にかじりつきながら尋ねる。
「それはそうなのですけど。やっぱり、中には礼儀知らずの輩もいるらしいですわ。お父様によくそんな人間の話を聞かされましたもの」
エリスは手に持つ本のページをめくる。
「それは神だって同じさ。ゼウスやその取り巻きの連中を見ていればそれがよく分かるよ。今はそう思う」
「それはそうと」
デイモスは思い出したように顔を上げる。
「なんですの?」
エリスも作業を中断し、顔を上げた。
「今日の夕飯はエリスのおごりだからね」
「はあ?! 何でわたくしが! レディにお金を払わせるなんて、殿方として恥ずかしくありませんの?」
「いいじゃないか。エリスの家は神殿に仕える貴族なんだし。お金には困っていないでしょ? たまには豪華な食事でもしたいなーって!」
エリスは呆れ言葉を失う。
「奢られる気満々の上に注文をつけてくるなんて信じられませんわ・・・ わたくしに向かってそんな事言うの、あなたくらいですわよ・・・」
「あはは! 幼馴染の特権だね!!」
「全然嬉しくありませんわ! ああもう・・・ どこで間違えてこんな腐れ縁になってしまったのでしょう」
愉快に笑うデイモスを尻目に窓に映る月明かりを見つめるエリスだった―――。
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