第150話 立ちはだかる大砂海
デロス島の玄関口ソルクフォードの町は北部最大の港町で、この町を起点に中部、南部へと南下していくことになる。
デロス島は方舟でしか渡る事ができないため、島を出るにも入るにも必ずこの町を経由する。
日が沈まない過酷な環境でも不自由なく生活できるように発展してきた北部は、ソルクフォードのみが栄えており中部まで大きな町はなく、南下するごとにその不便性が際立つ。
「さて。これからどうする? ズグラ密林とやらは南部と言っていたな。ここから一気に南下していくか?」
アルテミスは首を横に振る。
「それはさすがに無謀だね。ただでさえ中部のエピクリオス地域までは休める場所がほとんどない。しかも、それだけじゃなくてケオゲー大砂海を越えていかなければならないんだよ」
「ケオゲー大砂海?」
「ここソルクフォードの西から南西に渡り広がる大砂漠ですね。中部までの道中はほぼ砂漠だと思っていいでしょう」
パイドラとアリアドネが補足する。
南部へ向かうには中部のエピクリオス地域を経由するのだが、厳しい環境の中の長い道のりとなるため、休憩も兼ねしっかり準備を整えなければならない。
「ソルクフォードで通行用に利用される、スキュラと呼ばれる狼の魔物の背に乗って行くのが通例なのですが、一つ大きな問題があります」
「まさか・・・」
一つの嫌な予感がアルテミスを襲う。
アリアドネは静かに頷く。
「私達がソルクフォードに戻る為に北上しケオゲー大砂海を通過した時、異様な雄叫びが聞こえてきたのです」
「雄叫び?」
「恐らくカリュブディスでしょう。ケオゲー大砂海に住まう、一年の三分の二を寝て過ごす巨大なサソリの魔物なのですが、一度起きれば昼夜を問わず三か月間活動し続けるのです。その獰猛さに砂海への立ち入りが制限されるほどです。タイミングの悪い事に、そのカリュブディスが目覚めた可能性が高いです」
「先にお伝えしようとも思ったのですが、悠長な事も言っていられませんでしたので・・・」
パイドラとアリアドネは申し訳なさそうにうつむいた。
アルテミスが控えめに手を挙げる。
「どうしたのですか?」
アルテミスの様子にテッサは首を傾げる。
「実は私、魔物が好むエーテルの質みたいで、そのせいで魔物を呼び寄せてしまう体質なんです。カリュブディスが目覚めたのなら、ほぼ確実に私に引き寄せられる形で姿を現すと思います」
「そこまで言い切りますか。それほど強力な魅了効果なのですか?」
アルテミスは強く頷く。
「初めは動物だけだったからまだ良かったのですが、時が経ち成長する毎に魔物にまで影響を与えるようになり、それが原因で幼い頃に一度死にかけています。今は鍛錬のおかげで普段は制御できていますが、感覚の鋭い動物や魔物には隠し通せません。皮肉な事に、強力な魔物であるほど魅了効果が発動してしまいます」
パンドラは首の後ろで両手を組む。
「なるほどね~。ちょうどタイミングも良いみたいだし、ついでに討伐してあげればいいんじゃないか? そうすれば交通の便も解除できるし一石二鳥だよね」
「あなたは・・・ そんな簡単に討伐できるなら苦労はしませんよ」
テッサはため息をつく。
「でも、そのケオゲー大砂海とやらを通らないと南部へ行けないんだろ? それに、アルテミスの話が本当ならどの道カリュブディスと鉢合わせになる。だったらビクビクして様子を伺いながら進むよりも、初めから討伐するつもりで砂海を渡る方が気持ち的に楽じゃないか。大丈夫だって! ニケやピュラ、テッサがいるんだから♪」
「そうだ! アルテミスもいるじゃないか!」
パンドラは指を鳴らし高らかに笑う。
「そこにあなたは入っていないのですね・・・」
「そりゃあそうさ! ぼくはなるべく楽をしたいからね!」
「自慢する事ではないと思いますが・・・」
得意気に話すパンドラに呆れるテッサの横でケライノが姿を現す。
『まさかとは思うがお主、自分が楽をするために儂に体を貸しているわけではあるまいな?』
「人聞きの悪い! 身体は勝手に動かしてくれるしこっちは休憩できるしで、至れり尽くせりなとても便利な機能だなんて思ってないよ?!」
『大馬鹿者め! ふざけおって!! そこへなおれ!! その腐った根性叩きなおしてやる!!』
アルテミスはパンドラのふてぶてしさに苦笑いするしかなかった。
「パンドラの言う事にも一理あるな。南部へ向かうにはケオゲー大砂海は通らなければならない。その上呼び寄せてしまう可能性があるのなら、初めからカリュブディス討伐を目的にしてしまったほうが分かりやすい。」
「ニケ。本当に大丈夫・・・? 私も言い伝えでしか聞いた事はないけど、カリュブディスは巨大なサソリの魔物。毒を持っている可能性も高い。間違いなく強敵だよ?」
「問題ない。心配ならお前は後ろから見ていていいぞ。俺がやる」
不敵に微笑むニケの表情にアルテミスはしばらく釘付けになっていた。
(この安心感。すごいなぁ。何だかアシーナが夢中になるのも少し分かる気がする、かな)
「ぴゅらもやる!! こんどこそたべる!!」
「お前・・・ 戦いの話になるとそればかりだな。少しは我慢というものをだな・・・」
「うー。にけはうるさい・・・」
ピュラは頬を膨らめる。
うんざりしている俺の肩にそっと手が置かれる。
「ニケさん」
「何だ・・・?」
「お前ではありません。アルテミスさんです」
俺は思わず言葉を失う。
「それ、お前以外にも適用されるんだな」
その言葉を聞いたテッサの表情が一層険しくなる。
「当たり前です。大体、ニケさんは女性に対しての接し方が雑すぎます。もっと丁寧に接するべきです」
「い、いいよテッサ! 私は全然気にしていないから!」
テッサは両手を振るアルテミスの手を掴む。
「ダメです。そんな態度ではますます彼がつけ上がります。それに、アルテミスさんもアルテミスさんです。そのままではいつか殿方に騙されてしまいますよ」
「す、すみません」
アルテミスは反射的に謝罪した。
「あははっ!! テッサもたまに変なスイッチが入るよな~!! いいじゃないか呼び方なんて何でも・・・」
「あなたは黙っていてください」
テッサは鋭くパンドラを睨みつける。
「す、すみません」
アルテミスの横でパンドラも頭を下げる。
「肝心の本人からの言葉がありませんが?」
「わ、悪かった・・・」
射殺しそうなほど鋭く睨むテッサに頭を下げる他なかった。
そんな様子をパイドラとアリアドネは不思議そうに眺めていた。
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