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第149話 集剣狂を魅了する者


「おお~~!!!」


ピュラとパンドラは方舟から乗り出し全身で風を受ける。


いくつもの小さな浮島が眼下に広がり、大きな鳥型の魔物の群れが横を羽ばたいていく。


燦々と輝く太陽に広がる青空。空を泳ぐように進む方舟からの景色は、思わず深呼吸したくなる程開放的だ。


『おお~~!!!』


いつの間にか顕現したケライノも目を輝かせ、興奮気味に漆黒の羽をバタつかせている。


「あ?! 危ないよピュラちゃん!!」


アルテミスは落ちそうになるピュラを何とか抱き留めた。


テッサは長刀でパンドラの頭を叩く。


「あなたまで何をやっているのですか・・・」


「いやぁー! 久しぶりだったものだからつい興奮しちゃったよ!」


パンドラは腰に手を当て大笑いする。


「ケライノ。あなたまではしゃぐなんて珍しい事もあるのですね」


『な、何の事じゃ?』


ケライノは口笛を吹いて誤魔化す。


テッサは顔を覆い見なかったことにした。


船内には食事処やリラックスできる部屋が用意されており、船旅が退屈なものにならないよう配慮されている。


俺はパイドラ、アリアドネと共にアンブルティーを飲みながらくつろいでいた。


「デロス島にはどれくらいで着く?」


「片道三、四時間といったところでしょうか」


「他の浮島間も同じくらいの時間がかかりますね」


パイドラとアリアドネは揃ってティーをすする。


「長いな・・・」


「ニケ様は方舟を利用するのは初めてなのですよね? 船内を見て回らないのですか?」


「さほど興味はないからな。たかが乗り物で気分が良くなるのはせいぜい子供くらいだろう」


アンブルティーを一口すする。


公共機関のものはお世辞にも美味いとは言えない。


コストを抑えるためにランクの低い果実を使っているのだろう。


サングラッセンで飲んだ物よりも明らかに味が薄い。


「やれやれ・・・ これでは時間を潰すのも一苦労だな」


カップを置いた瞬間、何かが後ろから抱き着いてきた。


「にけ!! あっち!! あっちいく!!」


「一人で勝手に行けばいいだろう。それが嫌ならパンドラにでも頼め」


「にけもいくの!」


ピュラは服が破れそうなほど激しく揺する。


「落ち着け。行かないと言っているだろう」


「う~~~!!」


ピュラは思い切り頬を膨らめる。


「お! ニケ! ここにいたのかい! あっちに眺めのよさそうな甲板があるんだ! 一緒に行かないか?」


興奮気味のパンドラが目を輝かせて駆け寄って来る。


「お前、やけに元気がいいな」


「当たり前だろ?! 空飛ぶ船なんて浪漫じゃないか! これがワクワクせずにいられるかって!」


前言撤回。どうやら気分が良くなるのは子供だけではないらしい。


『馬鹿者め!! 早くせんか!! お主を待っておるのじゃぞニケ!!』


・・・なぜケライノが顕現している?


いや、その前になぜこいつまで興奮しているんだ?


「友よ」


パンドラの合図にピュラは激しく頷いた。


そして二人に両腕を掴まれた。


骨がミシミシと悲鳴を上げる。


何かが引っかかる。


前にも似たような事があったような・・・?


考え事をしている間にそのまま二人に引きずられ、強引に外へ引っ張り出された。


気のせいか、去り際に視界の端で捉えたパイドラとアリアドネが手を合わせているように見えた―――。



「方舟の旅、楽しんでいますか? テッサ」


長刀を携え風になびく銀色の髪を抑え前方を見るテッサにアルテミスが声を掛ける。


「ええ。風が気持ちいいですね。こんなに落ち着いた気分になれたのは久しぶりです」


「テッサは人間なんだよね? その、差別するとかそういうつもりじゃないんだけど、結構大変じゃない?」


「大変とは?」


アルテミスの言葉にテッサは首を傾げる。


「だって、ニケがあんな感じでしょ? それに、アシーナを始めピュラちゃんやパンドラさんも、みんな色んな意味で突き抜けているし・・・ 気疲れしないのかなって」


「そういう気遣いをしてくれるのはアルテミスさんくらいですね」


テッサの表情に陰りが見え始める。


「もちろん、疲れますよ。非常に・・・」


いつになく低い声にアルテミスはゴクリと唾を飲んだ。


「ニケさんは一見まともかと思いきやまるで世間知らずな所があり見ているこちらが恥ずかしい思いをする羽目になりますし何より所見でお前呼ばわりする程デリカシーの欠片もなく人の心に鈍感な殿方ですしピュラさんは少し目を離すと人目を(はばか)らずにどこへでも行ってしまいますし一度食事処へ入れば三時間は拘束されますし初対面でも関係なく匂いを嗅ぎ回りますしパンドラは本当に神族かと疑いたくなるほど適当で大雑把ですしどうでもいい遊びほど子供も引くくらい本気で取り組みますしいちいち大袈裟にスキンシップを図りますし」


「そ、そう・・・なんだ・・・?」


町に響く、神術で録音された音声を再生する装置のように機械的かつ怒涛の勢いで話すテッサの気迫に、アルテミスは目が回ってしまう。


「これはまだ序章です。実はですね・・・」


永遠とも思える長い間、呪文のように愚痴を唱え続けるテッサに、軽々しく足を突っ込んでしまった自分を激しく後悔するアルテミスだった。


「そういう意味ではアシーナさんが一番まともですね。何より初々しい所がからかい甲斐があり、良い気分転換に・・・」


テッサが我に返ると、アルテミスの頭から煙が立ち上り魂が抜けかかっていた。


テッサは我に返り咳払いする。


「申し訳ございません・・・ つい話しすぎてしまいましたね」


「い、いいよ。 気にしないで・・・」


アルテミスは見るからに疲れ切っている。


「不思議ですね。アルテミスさんには何でも話してしまう魅力というか、魅了される一種の魔力のようなものすら感じます」


「また・・・ 話を聞いてくれますか?」


テッサはアルテミスの手を取り、真剣な表情で見つめる。


むしろやや情熱的、扇情的にすら見える紫水晶の眼差しは切なげに潤んでいる。


「へ?! も、もちろん!! 私なんかで良ければっ!!」


「そ、その時は事前に言ってくれると助かるかな! 色々と準備してから臨みたいから! なんて! あ、あはは!!」


魔物を魅了するはずの能力が、まさかこれほどまでにテッサに刺さるとは夢にも思わないアルテミスだった。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


また、評価・ブックマークもありがとうございます!


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