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うちの聖女様は怒らせたらマジでヤバイ  作者: うる浬 るに
聖母は延命を望まない「カッサ王国編」
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01 聖母からの依頼

「私まで、この豪華な馬車に乗ってしまっていいんでしょうか」


 待ち合わせ場所で、ルル様を迎えにきたその馬車を見ながら、私は困惑していた。


 今回の行先は、北の果てにあるカッサ王国。

 なんでも、その国の重要人物である聖母が不治の病を患っているそうだ。


 いつも通り、見習い聖女の私もルル様についていく予定なんだけど……。


 これまでは、悪目立ちしないように、飾りなどがほとんどついていない一般的な馬車を使っていた。

 しかし、今回は事情があって聖教会で所有している中で、あえて高級感のある馬車を使って移動するらしい。


 豪華絢爛の装飾が施されているそれは、貴族が使っているものでも、中々お目にかかれないほどの造りをしていた。


 これよりも上質な馬車となれば、教皇様が移動する時に使用する最上級のものになる。

 それが町を通り過ぎる時は、とても目を引くから、人々が振り返るどころか、何者が乗っているのかと騒ぎになるほどだ。


 それと同じ現象が起こるであろうこの馬車に、ルル様のおまけでしかない私が怖気づいてしまうのも仕方がないだろう。


「この馬車に私が乗ることは、許されるているのですか?」

「もちろんよ。二台も馬車を仕立てる方が不経済だもの。それに、ローザが一緒でなければ、わたくしは馬車の中で、ひとり寂しく過ごすことになってしまうわ」

「私もルル様とご一緒したいのはやまやまなんですが……」


 もとが平民の上、そのなかでも貧しい暮しをしていた私は、未だに贅沢な仕様には慣れない。高級宿では、身の置き所がなくて、部屋の隅っこにいる方が落ち着いた。


「もし、ローザが騎馬で向かう方が良いというなら話は別よ。わたくしはそれでも構わないわ。話し相手をしてほしい時は、窓から声を掛けるかもしれないけれど」

「えっとですね……馬の乗り方は習っていますけど、旅ができるかと言われたら、それはちょっと不安です」


 情けない声と顔でルル様に曖昧な返事はしたものの、たぶん、私に乗馬は無理だ。


「そうなると、この馬車に乗るしかないわよ」

「そうですね……」


「でしたら、私はローザさんと相乗りでもかまいませんよ」


「は!?」


 私たちの話に遠慮なく口を挟んだのは、ルル様の専任護衛として選ばれた聖騎士のライルだ。

 立候補をしていたみたいだし、グラントからも推薦されたらしい。


 話によると、前回任されたルル様の護衛で、その冷静な判断力と行動力が騎士団で認められて、専属として認定されたそうだ。


 でもあれは、セレンがあまりにもダメダメだったから、よく見えただけなのでは?


 大司教様から私を楽しませる要員として任命されていたとしても、訳の分からないことをされていた身としては、納得がいかない部分もある。

 まあ、『人のことをよく見ていた』ということだけは確かなんだけど。


 それよりも、なぜ私がライルと一緒に馬に乗らなければならないんだ。


「無理です。一人で馬に乗れないんじゃなくて、私は馬の歩き方に、リズムをうまく合わせられないから、乗りこなせません……というか乗り続けられません」


 お尻と太ももが鞍に擦れてしまい、乗馬の練習をしたあとは、鞍から降りた後もヒリヒリとした痛みが続いて、とてもつらかった。

 その記憶が蘇って思わず顔をしかめてしまう。


 一応、見習いでも聖女として癒しの力を使えるのだから、そうなったら、自分で治療すればいいことなんだけど、でもそれは通常だったらの話で、この旅の間に私のお尻が腫れる度に、いちいち治療の時間をとることはできない。

 間違いなく一緒に行動する人たちに迷惑をかけてしまうだろう。


「きっと慣れれば大丈夫ですよ。あと、乗馬に必要な筋肉をつけたら楽になると思います。練習するつもりがあれば私がお付き合いしますけど?」

「いえ、結構です。私はルル様の馬車に乗せてもらいますので」


 慣れるまでに、何度私のお尻の皮がむけることやら。それがわかりきっているんだから、わざわざ痛い思いをするのは絶対にごめんだ。

 それにライルと相乗りなんて、噂にでもなったら本当に面倒くさい。


 だから、ルル様が乗り込むのを確認したあと、私は誰の手も借りずに、さっさと馬車のキャビンへのぼり、ルル様のとなりに座った。


「おうっ? 椅子もふかふか。さすがは貴賓客用ですね」

「ええ。もしかしたら、ご病気の聖母様がゼ・ムルブ聖国で療養されるかもしれないもの。だから、体調を考慮して一番乗り心地がいい馬車を用意したのよ」

「そう言えば、そんなことを言ってましたよね」


 会話からもわかる通り、今回も訳ありの仕事である。


 だって、ルル様が治療すれば、どんな病気であっても完治することは間違いないのだから、カッサ王国の聖母が、ゼ・ムルブ聖国まで足を運んで療養する必要なんてないはずだ。


 詳細は実際に会ってからの話になるそうだけど、聖母は不治の病を患っているのに、延命治療をするつもりはないらしい。


 だったらルル様を派遣する必要なんかないと思う。

 それなのに、なぜ今回わざわざカッサ王国へ向かうことになったのか……。


 それは、()()()()()()()()()()()というお墨付きを、聖女から欲しいんだそうだ。


 全くもって意味が分からない。


「変な依頼ですよね。それも聖母様から直々にでしたっけ」

「一人娘のお嬢様にも、同じ症状が出ていて、二人とも胸に激しい痛みがあるそうなの」

「胸の痛みがある不治の病……心臓の病気でしょうか」

「それが、医師の診断書を見てもはっきりしないのよ。そのあたりは実際に診察してみないとわからないと思うわ」


 治療を受けるつもりがないのに、なぜか聖母はゼ・ムルブ聖国で余生を過ごしたいらしい。

 しかも、その娘も同じ考えだというから、私には本当に理解ができない。


 死の宣告を受けている者が、ゼ・ムルブ聖国の聖女を目の前にしたら、治せる可能性がないかと、ふつうは縋るだろう。


 もし、本当に本人たちにはその意思がなくても、我が国は医療大国で名を馳せていて、どんな病気でも治すことができるルル様がいるのだ。だから、カッサ王国で重要人物として扱われている聖母の命を、人命救助は当たり前として、こんな名を売れるチャンスに聖教会がそのまま放置するわけがないのに。


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