20 主役ですがいつも通り第三者やってます
「あたしは本当にあの人のことは知らないんだけど、その言い方だと、もし、あたしが結婚したいって言ったら、相手が聖教会の関係者でもおじさんは許してくれるつもりなの?」
たしかに、さっきの父親の態度はそんな感じだった。
「ああ、たとえ聖教会の者であっても、モニカが決めた相手なら頭ごなしに反対するつもりはない。もちろんモニカを任せられる男かどうか、人柄の確認はするつもりだがな」
なんか意外だ。
モニカの話では、そんなことは絶対に許されない感じだったのに。
「なんで? おじさんは聖教会の聖の字を聞くのも嫌がってたんじゃないの」
「聖都から逃げ出した当初はそうだったが、今は違う。そのことがイヴに悪い影響を与えていることがわかったから、できるだけ口にはしないようにしていただけで、聖教会に対してはもう何も思うところはない」
「え? あたし?」
「そうだ。いまだに聖教会や聖女のことを嫌ってるのはイヴだけだ。俺の腕がこんな状態だから、きっとイヴの目に入るたびに憎しみが増してるんだろうって、おまえたちと別々に暮らし始めたのも、危険だという理由からだけじゃなかったんだよ」
父親の腕は何度も痛めつけられたんだろう。骨折後にきちんとした処置ができなかったのか、変な方向に曲がっていた。
「それにモニカの能力は聖女に関係あることも薄々気がついていたしな」
それはそうだろう。医師だったならなおさらだと思う。
「なんで? どうして今頃そんなこと言うのよ」
「そうよ。あたしだけがこだわっていたなんて、そんなこと信じられない」
「モニカはそれを隠したがっていたし、それに、今後俺たちの生活に、聖教会が絡むことはないと思っていた。隠れ住むことは元より、イヴのことを考えてゼ・ブルムから出たんだ。突然こんなことになって驚いてる」
「ねぇ、ちょっとまってよ。恨んでいるのはあたしだけだって言うの? そんな腕にされて、父さんたちが怒ってないなんておかしいじゃない」
「あの頃は卑劣な伯爵の言葉を真に受けてしまったが、考えてみれば聖女が医師を貶める理由なんて何もないんだよ。だから、そのことは忘れろと何度も言ったのに、イヴは言葉通りには受け取らなかっただろうが」
「お父さんとわたしは、もう何とも思っていないと言っているのに、その度にイヴは、お父さんはつらいことから目を背けたくて、思い出したくないだけなんだよねって言っていたわね」
「だってそうでしょ。とっても酷い仕打ちをされたんだから」
話を聞く限り、父親と母親はすでに聖教会に対しての憎しみは消えているようだ。それも逆恨みだと自分たちで自覚していたみたいだから、当たり前なのかも知れないけど。
「だからそれをしたのは伯爵だ。モニカの相手が聖教会の関係者だったとしても、いいやつなら俺も母さんも反対なんてしないし、ちゃんと祝福するつもりだ」
「だって、そんな……」
イヴは自分だけが過去を引きずっていたことに戸惑いを隠せない。
「ねえ、だったら聖女様の話も聞いてくれるよね。選択次第ではあたしたちの力になってくれるんだって。だから考えてみてよ」
そう言いながら、モニカがルル様の方に手と視線を向ける。
「あ、本物の聖女様とは思わなかったので、大変失礼いたしました。ご提案いただいた件でしたね」
イヴ一家は、やっと、ルル様を放置していることに気がついたらしい。
「ええ、先ほど申し上げた案からお選びいただければと思います。わたくしのことはお気になさらず、そのままご家族でご相談ください」
「ありがとうござます。ですが、二案がよくわからないんですが? 我々はもうすべて捨て去っていますので」
「いえ、まだすべてではありませんわ。端的に申し上げますと、捨てていただきたいのは容姿です」
「容姿?」
「どういうこと?」
「今までと人相が変われば、あなたたちを知っている者が誰ひとりいなくなりますから、追われる心配もなく、安全に暮らすことができますでしょ」
「人相って、そんなことができるんですか」
「ええ、わりと簡単に」
いや、それはルル様だけだろう。
顔を変える――それはとても悩ましいことだと思う。でも別人になるということは、それもやむを得ない。
今後の提案について、それすらも耳に入れることを拒絶されると覚悟していたのに、思っていたよりすんなり話が進んだ。
セレンの乱入が、怪我の功名になったと思うんだけど、そのことはなんとも言えない。
だけど、もしかしたらルル様はそこまで読んでいた?
セレンが店を覗くことは前例があったから可能性が高かったし、モニカが顔を晒すことも、この家族を説得するためにはあり得ることだった。
それが私の予想通りだとしたら、ルル様、すごすぎるんだけど。
まあ、それはあとでルル様に聞けばわかる。
それより今はイヴたちだ。この家族はいったいどの案を選択するのだろうか。




