21 ちょっとだけ
モニカたちは、ルル様と私に椅子を用意して、お茶と大学芋でもてなしてから、奥の部屋に四人でこもって話し合いを始めた。
その前に父親の怪我はルル様がすべて癒している。あっという間の出来事だから、モニカ以外は驚きをかくせなかった。
それでも、不自由だった腕がもとに戻ったことで、父親と母親は涙ぐみながら、ルル様にとても感謝していた。イヴだけはまだ少し、わだかまりがありそうな感じだったけど。
「これってモニカさんの水飴を使ってるんですかね」
「そうだとしたら健康に良さそうね」
サツマイモに蜜を絡めてあるお茶請けを味わいながら、私たちはここで四人が結論を出すのを待っている。
ルル様はもう一日だけ考える猶予を与えるつもりだったみたいだけど、イヴの父親から『聖女様に何度も足を運んでもらうのは申し訳ない』と、引き留められたからだ。
「ルル様はこうなることを予想していたんですか」
「そんなことはないわよ。話も聞いてもらえない状況なら、お父様のお怪我だけ癒して、わたくしは手を引くつもりだったもの」
「でも、モニカさんの能力に対しては、気にされていましたよね」
「独学で癒しの薬を作れるようになるなんて、とてもすごいことだもの。でも、もし聖教会を頼る以外の案を選ばれたら、モニカさんの才能を埋もれさせてしまうことになるわね。今はそうならないことを祈るしかないのだけど」
「そうですね。癒しの力を食べ物に閉じ込めて使おうなんて普通思いつきませんよ」
モニカの場合、最初に手で患部に触れることを拒まれたから仕方なく始めたことだろうけど、それでもちゃんと結果を出したんだからすごい。
「聖教会の教えだけに囚われず、これからは秘められた能力を開花させる方法を探す必要があるのかもしれないわ」
モニカの能力はモニカのオリジナルだ。私にもそんな才能がひとつでもあってくれたら嬉しいんだけど。聖都に帰ったら、いろいろ試してみようかな。
「お待たせしました」
一時間ほどしてから、奥から出てきた父親に声を掛けられた。ルル様はモニカを含むイヴの家族四人と向かい合った。
「結論から申し上げますと、聖女様からご提案いただきました、ふたつめの案でお願いしようと思っております」
残念なことに、この家族は聖教会とは決別して自分たちだけの道を歩むことに決めたらしい。
「我々は今後、聖都で暮らしていたころの名前と、この顔を捨てる覚悟ができました。申し訳ございませんがよろしくお願いします」
「皆様の人生ですもの。わたくしは出来ることをお手伝いさせていただくだけですわ」
ルル様も内心ではがっかりされているんじゃないだろうか。
「その上で聖女様にお願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「もしよろしければ、イヴとモニカを聖教会の治療院で修業させていただけませんか?」
あら?
「お二人だけですか?」
「はい。私は聖教会に守っていただくような立場ではありません。それに聖都に居たら、うっかり知り合いに声をかけてしまうかもしれませんしね。しかしモニカは癒しの能力を持っているようですし、イヴには治療の知識を私が教え込んであります。二人ともずぶの素人ではありませんから、これから先、みなさんのお役に立てると思うんです」
「モニカさんとイヴさんもそれを望んでいらっしゃるのかしら」
「あたし、自分のまぶたと、おじさんの腕を治してくれた聖女様には本当に感謝してるのよ。もしあたしに、聖女様みたいな力があるなら、今度は逃げないで頑張ってみようと思ってる」
「あたしは、モニカがそう言ってるから一人で行かせるのが心配でついていくだけよ。医師の勉強はついでだから」
「承知いたしました。わたくしがお二人をお預かりいたします」
結果、モニカとイヴは私たちと一緒に聖都に向かうことに決まった。
それで、四人の顔についてなんだけど……。
「ほんの少し変えるだけで、お顔の印象が随分と変わりますでしょ?」
今回ルル様が行った改造は、まぶたを一重から二重にしたり、二重を一重にした。あとは眉尻を少し下げてたれ目っぽくしたり、またはその逆。団子鼻を小さく整え鼻筋を通したり、口角を上げる、下げるなど、ほんの少し手を加えた程度の処置を施しただけだ。
「本当。父さんだけど父さんじゃないみたい」
「わたしはお父さんのこの顔に慣れるまで時間がかかりそうだわ」
「イヴは幼くなったか。前も可愛いかったが、今の顔も可愛いぞ」
「ちょっと何言ってるのよ、もう」
「モニカさんはどうされますか。たぶん薬の副作用で成長しすぎたのだと思われますが、十五歳程度のお顔に戻すことも可能ですよ」
「あたしはこのままでいいよ。追われているわけじゃないから」
「承知いたしました」
これでイヴの家族が伯爵家の者と会ったとしても、今後気づかれる恐れはないだろう。
「聖女様。ローザさん。これからよろしくお願いします」
「――お願いします」
「ええ。おふたりのことは、わたくしにお任せくださいね」
「こちらこそ。私もお二人と同じ見習いですから、一緒に頑張りましょう」
まだ、完全には打ち解けられないイヴの横で、モニカが笑っていた。前髪を短くしたので、ちゃんと笑顔を見たのはこれが初めてだ。
聖都に戻ったらコーデリアを紹介してみようと思う。年齢も近いし、みんなで友達になれたらイヴも少しは楽しく過ごせるんじゃないだろうか。




