13 薬の真実
「あたしが家にはもう帰れないって言ったら、イヴたちは自分たちも大変だったのに、そのまま面倒見てくれたのよ。たぶん目の傷のこともあったから、あたしのことを放り出すことができなかったんじゃないかな」
「優しい方たちなんですね」
「そうよ。だからあたしも何か恩返しがしたくて、家事なら叔父さんの家でやってたから任せてもらうことにしたわけ。そうしたら、あたしが作ったものを食べると傷の痛みが和らぐってイヴのお父さんが言ったの」
「イヴさんのお父様はお怪我を?」
「うん。それもあとで聖女様にお願いしたいんだけど…………それでその時、あたしでも、もしかしたらあのおまじないで、少しは役に立つかもしれないと思ってお父さんの傷に手を当ててやり始めたら、イヴが『やめて!』ってすごく怒っちゃったんだ。訳を聞いたらお父さんの怪我は聖女様のせいだって言うから、その後はもう何もできなくなっちゃったのよ」
「怪我が聖女のせい?」
そんなことがあったら大問題。しかもサリーは聖都に住んでいたんだから、総本山で起きた出来事のはずだ。ルル様さえ知らないとなれば、関わっていた誰かが隠蔽したのだろうか。
「それ直接じゃないから」
私たちの表情で、誤解していることに気がついたのか、モニカがすぐにそう付け足した。
「だけど、イヴの家族は聖教会と聖女様のことを恨んでる。本人たちも逆恨みだってわかってるみたいだけど。それでも許せないみたい。だからあたしはなんとかできないかと思って考えたの。食事で効果があったから、料理を作る時にこっそりおまじないを続けていた。それで、いろいろ試しているうちに水飴ならそのとろみの中に治癒効力が閉じ込められて一番効果があることがわかったのよね」
「ひとりで研究していたんですね」
「研究っていうか、とにかくあたしを拾ってくれた親切な家族の役にたちたい一心だったかな。あまりお金も掛けられなかったから、水やお茶なんかで繰り返してただけよ。自分の目の傷もうずくことがあったから効果をみるには丁度よかったし」
そうして、できたのが治癒効果のある水飴らしい。
確かルル様が、あの薬屋で飲んだ水が甘いと言っていたから、そこにそれが混ぜてあって炎症に効いたんだろう。
茶葉はやっぱりただの茶葉でしかなかった。
薬っぽく見せるために、代用していただけのようだ。
「最初はみんなびっくりしてた。でもイヴのお父さんが医者だったから、もっと効率よくするには患部に届いた方がいいって教えてくれて、イヴと一緒にいろいろやった結果、今の方法にたどり着いたの。お父さんに医術を習っていたイヴが診察して、水飴で患部を治療する方法よ」
あの時イヴは本当にルル様の喉を診察していたんだ。ちなみに外傷だった場合は水飴を直接患部にぬるらしい。
モニカが作った水飴だって神の御業としか思えないはずなんだけど、一生懸命だったモニカの気持ちを台無しにしたくなくて、そこは目をつぶっていたのかな。
「それでしたら、薬屋ではなく治療院の方が良かったのではありませんか」
「それは無理。さっきも言ったけど、イヴの家族はある貴族から逃げているから、治療院なんて開いたらすぐ見つかっちゃうもの」
聖教会を恨む理由は、その貴族との間で何かあったから?
基本的に聖教会の者は貴族との癒着は許されていない。ゼ・ムルブ聖国の貴族は教徒ではあるけど、貴族だからと言って優遇されることはないから、そこそこ権力がある司教以上になるには助祭から段階を踏まなければなれないはず。
だから、その貴族と聖教会に繋がりあったとするなら、権力がある者の縁者ということになるだろう。でも、他国でのことでもあるまいし、周りの目はかなり厳しいんだけど。
「貴族から追われているのですか?」
「ねえ、本当に助けてくれるの? ここであたしが話したせいで、その貴族が捕まえにきたりしないよね?」
「それは大丈夫です。神に誓ってお約束いたします。お疑いでしたら誓約書もご用意しますわよ」
ルル様がそう言っても、モニカは自分の左まぶたに指でふれながら悩んでいた。ルル様が本物の聖女だと言うことは理解しているんだろうけど、信用するかとなると葛藤がまだあるらしい。
「うん。決めた。あたしもこうやって目の前が明るくなったんだから、イヴたちの未来も明るくなって欲しい」
話し続けたせいで喉が渇いたのか、モニカは一度紅茶で口を潤す。
「イヴのお父さんは貴族のお抱えの医者だったのよ」
医者の中には治療院で働くわけではなく、報酬のいい貴族家専属を選ぶ人もいる。
そうなると聖教会の管轄外。
だから何かトラブルがあったとしても把握はできないだろう。どうりでルル様の耳に入っていないわけだ。




