12 モニカがサリーだったころ
「あたし、小さいころ、なぜか聖女候補って言われてたんだけど、ほとんど何もできなかったんだよね。その時は何かの間違いだと思っていたんだけど、候補程度じゃそれが当たり前だったんだね」
「ええ、それでもモニカさんがおまじないを掛けると、擦り傷や打撲が早く治っていませんでしたか?」
「そう、ただそれだけだった。なのに、叔父さんたちが大騒ぎしちゃってさ、おかげで家に大怪我している人とかが訪ねてくるようになったのよ。だけど、そんなの治せるわけないから、恥をかかすなっていつも怒鳴られていたんだよね」
意外にもモニカは、普通の思い出話でもするようにあっけらかんとしている。まぶたの傷のことも考えると、もっと深刻な感じになるかと思ったんだけど、叔父さん夫婦の元ではそれほどつらいことはなかったってこと?
「あの二人、すごい見栄っ張りで、あたしのことなんてお荷物扱いしていたくせに、だったら孤児院に行くって言っても、体裁が悪いから駄目だって許してくれなかった。家事を押し付けられたし、怒られてばかりだったけど、三食ちゃんと食べさせてもらってたんだから、それでもましな扱いだったって今なら思うけどね」
「叔父さん夫婦が嫌になって逃げ出したのですか」
「うーん、嫌っていうか、怖くなってかな」
「怖い?」
ルル様の言葉にモニカがうなずく。
「叔父さんたちが聖教会が迎えに来るんじゃないかって話してるのを聞いたから。あたしを引き渡す代わりに報酬がもらえるんじゃないかって二人がすごく喜んでいたけど、さっきも言った通り、その時はあたしにそんな力あるわけないと思っていたのよ。聖教会に行ってから嘘をついたって咎められたらどうしようって思っちゃって。だって相手は国で一番偉い人たちでしょ」
「そんな風に思ってしまったんですね」
「そう、それで、どうしようかって悩んでいた時に近所で火事があって、あたしも見に行ったんだけど……」
たぶんセレンが救助に向かったっていう件だ。
「火傷をしたり、怪我をした人がいたらしくって『この近くに聖女がいるらしいな、だったら連れてきてくれ』そんな声が聞こえてきたから、それがあたしのことだったらどうしよう。そんな大怪我を治すことなんてできないのにって、聖女って言葉が聞こえる度にどんどん怖くなっちゃったのよ」
当時モニカは十歳の子どもだった。
自分は聖女じゃないと思っていたところに、大きなプレッシャーが掛かってしまったらしい。
「だから見つかりたくなくて人をかき分けて逃げ出した。その時に、やじ馬で見に来ていた人に突き飛ばされて顔面から垣根に突っ込んじゃったの。それが運悪く剪定したばかりだったらしくて、鋭い枝が刺さって切れちゃったのがさっきの傷なんだけど」
ルル様が治した、まぶたのひどい傷のことらしい。
「もう、すごく痛かったんだけど、自分の傷さえ治せないのに、ここにいたら火事の現場に連れていかれちゃう。どうしようって、とにかく目を抑えながらその場から走った。走れるだけ走り続けたから、そのまま道端で倒れちゃったみたいで、気がついたらイヴの家族に助けられていたの」
「イヴさんはご家族がいらっしゃるの?」
「――いる」
「それから、一緒に暮らしていらっしゃったんですね」
「――そう」
自分のことは淡々と語っていたモニカが、なぜかイヴのことになったら急に口が重くなった。
「私が聖女候補だってことは絶対にイヴたちには知られたくないの。それに聖女様のことも。だけど、助けてもらえるならお願いしたい。もう逃げるのは嫌なの」
それほどイヴが聖教会や聖女を嫌っているのは、もしかして私の父と同じように何か勘違いしているからじゃないだろうか。だけど逃げるって誰から?
「わたくしはモニカさんたちの力になりたいと思っています。お話を聞いてから一番いい方法を探しますから心配しないでください」
ルル様が太鼓判を押しているんだから大丈夫だろうけど、聖教会から逃げてるって、その家族が犯罪者だったらどうなるんだろう?




