11 聖女を目指すのも大変なんです
「違っていたら申し訳ありません。あの薬を作っている方がモニカさんだとしたら、本当の名前はサリーさんではないかと思ったもので。もしそうでなければ、お店にはイヴさん以外に、もうおひとりいらっしゃるのではないですか?」
「それは……」
口ごもるということは図星?
モニカでは年齢的にあっていないから、きっとそうなんだろうけど、まぶたの傷が治ったというのに、今まで通り前髪で目を隠したままでいるので、口元の動きで表情を読み取るしかない。
「あの……聖女って……今みたいなことが普通にできるの?」
否定も肯定もしないまま、別のことを質問するモニカ。
「いいえ、聖女と言ってもそれぞれ得意分野が違いますので、誰もが同じことをできるわけではありません。聖女の癒しは何もしないよりは断然怪我や病気の治癒は早くなるのですが、あくまでも痛みを取る、患部を治すといった能力がほとんどで、傷口まで消して綺麗な状態にできる聖女は一握りかと」
ルル様が私に視線を向けた。
「私はもちろんできません。まだ見習いで修行中ですから当たり前なんですけど」
「見習い……聖女の力って修行しないと習得できないの?」
モニカが私に話しかけたので、ルル様は答えず私から返事をするのを待っている。
「そうですね。修行の成果も人それぞれで、私は見習いを始めてから九年になりますけど、聖女の称号をいただけるのはまだ先です。それもいつになるか見当もつきません」
「そうなんだ……だから……」
そう言ってからモニカはまた口を閉ざしてしまった。ただ、その姿は今までとは違って話しづらいという感じではなく、何か悩んでいるように見える。
ルル様は彼女の気持ちが固まるまでまた待つつもりらしい。
暇になった私はぬるくなった紅茶を飲みながらドライフルーツを再び摘まんだ。
これは本当に美味しい。あとでトリスタンに買った店を聞いてみようと思う。
それから数分後、なぜかモニカは自分の話はせず、ルル様に聖女のことを聞き始めた。
「ねえ、もし、聖女の力を持っている人がいたとしたら聖教会はどうするの? その人はどうなるの?」
この質問からして、やはりサリーはモニカと一緒にいるのではないだろうか。
「その方の素質などを見極めてから、基本は聖教会で見習いとして修業を積んでいただくことになります」
「放っておいてはもらえないってこと?」
「それは場合によりますわね。教皇様のおひざ元で経験を積まなければ、聖女の癒しを本当の意味で開花させることはとても難しいので、能力があまりにも弱かったり、それほど関心がなさそうな方はそのまま聖教会からお声がけをしないこともありますから」
「だったらやる気がなければ聖教会に行かなくてもいいのよね?」
「そうですね。聖女になる気が最初からない方では何も身につきませんから」
それは必須条件だと思う。
怪我や病気に向き合う以上最低限の医療や人体の知識は必要になってくる。なりたくないのであれば、いくら修行を続けても癒し方を覚えられないだろう。
ルル様は別格だから例外だけど、普通は修行が十年は当たり前の世界。それに加えて聖女になるにはそれ相応の努力が必要で、簡単に認められるものではないのが現実。
「だったら、あたしはまったくやる気がないから大丈夫よね」
「え?」
「さっき聞いたでしょ。薬屋にサリーがいないかって。それ聖女様が思った通り、あたしのことだから」
モニカは自分がサリーだと告白した。
ここで嘘をつく必要はないと思うし、それが本当かどうかはグラントとセレンに顔を見てもらえばはっきりすることだ。
「だけど、イヴには絶対にそのことを知られたくないの。イヴにわからないようにあたしたちを守ってもらえる方法ってない?」
どうやら、聖教会に対してわだかまりがあるのはイヴのようだ。
「わたくしの方から聖教会に貴女たちのことをお願いすることはできます。ですが貴女自身のことや薬のことを知っておきたいのでお聞きしてもよろしいですか」
「――あたしたちが安全に暮らせるなら」
それから私たちは、モニカから驚くべき身の上話を聞くことになった。




