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うちの聖女様は怒らせたらマジでヤバイ  作者: うる浬 るに
聖女だからといって、万人が称賛するわけではないって話「シャンヒム王国編」
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14 伯爵家の出来事

お食事中の方、想像力豊かな方、お気をつけください。

「その貴族、伯爵って言ってたかな。その人がひどい頭痛もちだったみたいで、いつも鎮痛剤で誤魔化していたみたいなの」


 頭痛は原因がいろいろありすぎて完全に治すことは難しいとされている。だから薬で一時的に痛みをとることが多い。


「そんなある日、聖女様に癒してもらえることになって、それまでが嘘のように頭がすっきりしたらしいのよ。だけど、しばらくしたら再発しちゃって、また頭痛に悩まされることになっちゃったんだって」


 その時は治ったとしても、病気は生活習慣で繰り返すことがある。だからその説明も治療時にしているはずなんだけど。


「そしたら、それからは頭が痛くなるとイヴのお父さんのせいだって、八つ当たりするようになったみたい。『やぶ医者』とか『報酬泥棒』初めはそんな言葉だけだったのが、だんだん酷くなって『医者なら自分で治してみろ。聖女様ならできるぞ』って拷問まがいなことまでやり始めたらしいの。お父さんは鞭打ちされたり、腕も折られたって言ってた」


「なんてひどいことを」


「医者なんて聖女に比べたら虫けらのようなもので価値がないとか、聖女がいるんだからこの世に必要がない職種だとか、聖女様自身が言っていたらしくって」


「聖女がそんなことを!? 」


「それ、お父さんが聖女様に直接言われたわけじゃないけど、そんなことを聞かされながら傷つけられたから、恨みが募っちゃったんだと思う」

「それが本当だったら、許されることではありません」


 拷問も。聖女の言葉も。

 もし、聖女の話が伯爵の虚言であれば、聖女を貶める行為だから咎めることもできるんじゃないの?


「さすがにこれ以上は耐えられないと思って辞職の意思を伝えたら、役立たずだったんだから、今までの報酬を耳をそろえて全部返せって言われたらしいの。お金がなかったら娘を売ればいいって」


 イヴの父親は本当に悪辣な貴族の元にいたらしい。

 そんなことがあったら、聖教会に訴え出ればいいと思うんだけど、それにはちゃんとした証拠が必要だ。イヴの父親の場合は、痛めつけられていたことを、第三者の立場で証言をしてくれる人を探さなきゃいけない。伯爵家の使用人からそれを得るのはすごく難しいと思う。

 世の中は理不尽なことが多くて、腹立たしくても、権力を持っている者に罰を与えることは、そう簡単なことではないのだ。


「それで、その日うちに家族で逃げ出したんですって。だからその貴族に追われていて、目立つことはできないのよ。イヴのお父さんは今も後遺症で身体の具合が悪いのに日雇いの仕事をしてる。しかも貴族に顔を知られているのはお父さんだけだからって、万が一のことを考えてお母さんと二人だけであたしたちとは別に暮らしているし」


「それでも、逃げ出してから少なくとも五年はたっていますわよね。そこまでしつこく捜索するなんて尋常ではありません。実はもう探していない可能性もあるのではありませんか?」

「ううん、諦めてないと思う」


 そう言ったモニカの声は力強かった。確信できるだけの理由があるようだ。


「イヴさんのお父様とその伯爵との間にそこまでの確執があったんですか?」

「伯爵っていうよりも、伯爵家っていう方が正しいかも」

「伯爵家?」

「うん。逃げ出した日にね、後を追われないように伯爵家の飲料水と食材に強力な下剤を混ぜておいたんだって。それで、そこに仕えていた騎士や使用人にまで、そうとう恨みを買ってるみたいだから……」


 医者であったイヴの父親が言う『強力』ってどれほど? なんとなく状況が頭に浮かんでしまう。たぶんその日の伯爵家は阿鼻叫喚だったに違いない。


 ただ逃げ出しただけなら、いつかは忘れ去られていたかもしれない。だけど、やりすぎたせいで、伯爵家では忘れることができないほどの出来事が起きていたのかも。


「でも、逃げるために必死だったのよ。しかたないじゃない」


 状況を想像して何とも言えない顔をしていた私に、モニカが擁護の声を上げた。


「ええ、確実に逃げられる手段を選んだのはわかります……」


 これでイヴたちが聖女や聖教会を恨んでいる事情はわかったけど、それ以上に伯爵家への置き土産のインパクトが強すぎる。


 いや、実は私が思っているほどのことは起きていないのかもしれない。

 私はいつの間にか想像力が強化されてしまったようだ。


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