09 どうしたらいいんだろう
結局今日も何もわからないまま薬屋を後にした。
聖教会が嫌われているなら、いくら保護が目的だとしても何度説得に行ったところで平行線だと思う。
それに、彼女たちからすれば、私たちは聖教会の関係者を名乗っているだけで、実際には何者かわからないのに、効果がある薬について話すわけがない。
だってそれこそ、その薬を狙っている悪者じゃないって証拠がないんだから。
「拒まれてしまえば、もうどうすることもできませんよね」
店の外で聖騎士たちと合流してから、私たちは宿屋へと向かって大通りを歩いていた。
「そうね。もっと時間をかけるべきだったのに、急ぎすぎたわたくしの失態だわ」
「でもそれは私たちが探していた行方不明の少女ではなかったんですし、ルル様はあの姉妹だけに構っている暇もないんですから仕方ありませんよ」
「そのことなのだけど……」
ルル様はそう言いながら物思いに耽ってしまった。あの薬屋にはそこまでルル様を悩ませる何かがあるんだろうか。
私はルル様の邪魔をしたくなかったから、話しかけるのをやめて町並みに視線を移した。
この町はゼ・ムルブ聖国との国境にあるので、国同士が争っていた頃のなごりが所々に残っている。一番顕著なのはゼ・ムルブ聖国側に位置する砦だろう。
現在は友好国なので、治安維持のための兵士はいても、そこに軍隊が待機しているということはない。
通行については、過剰な武装や見るからに怪しい風貌でもない限り、身分の証明ができるものを持っていなくても往来を止められることはないそうだ。
「あそこからはかなり遠くまで見渡せて、とても眺めがいいんですよ」
その存在を主張して、どこにいても目に入ってくる高い塀を見上げていた私に気がついたのか、ライルが声をかけてきた。
「あの塔に登ったことがあるんですか?」
ライルが指差している場所は、見張り用なのか、塀からそびえ立つように造られている塔の天辺だ。
「はい。聖騎士は国境にも配備されていますので、こちらに派遣された時に案内していただいたんです。シャンヒム王国とは防衛に関して同盟を組んでいますから」
「だからライルさんは今回の護衛に選ばれたんですね」
「それもあるのかもしれませんね」
やっぱりグラントやセレンが少女に関係していたように、今回の四人が護衛に選ばれたのはそれなりに理由があるからかもしれない。
トリスタンも宿屋とか詳しかったみたいだし、ライルのようにこの町に来たことがあるんじゃないだろうか。
そんな世間話をしながら宿屋に戻り、私たちはルル様の指示を待つことにした。
「様子をみたい気持ちもあるのだけど、これ以上彼女たちを怯えさせるようなこともしたくないの。だから、あとはこちらの支部にお任せしようと思っているわ」
「聖教会を嫌っているようでしたけど、大丈夫でしょうか」
「ええ、だからこっそりと見守っていただくようにお願いするつもりよ」
「ルル様がそう決めたのなら私は構いません。明日、聖都へ戻りますか?」
「いいえ、せっかくの機会だから、明日ローザは町で買い物でも楽しんで、羽を伸ばしたらどうかしら。この町は治安がいいみたいだもの」
「買い物ですか?」
「欲しいものがなくても、お店を見て回るのも楽しいと思うわよ。大司教様へのお土産を探してもいいし」
「ルル様がそこまで言うならそうします。ルル様はどこか行きたい場所とかありますか」
「ごめんなさい。わたくしはちょっと用事があるの」
「用事? 私もついて行ったらだめですか」
「今回はわたくしだけで動きたいのよ」
「――そうですか。わかりました」
ルル様がそう言うのなら私は従うしかない。ひとりでというからには何か理由があるんだろうし。心配でも自由に動けるルル様の足手まといになるわけにはいかないから私は我慢しよう。
突然丸一日時間をもらったけど、私はどうしたらいいんだろう。
とりあえず、明日の予定を部屋の外で待機している聖騎士たちに伝えるため、ドアを開けようとしたその瞬間、ちょうどノックをされた。
開けてみると、そこには困惑した表情のグラントが。
「どうしたんですか」
「薬屋の女性が訪ねてきました。ルル様とお話がしたいそうです」
念のため私たちが泊っている宿屋の名前は告げてきたけど……。
「あれだけ拒んでいたのに向こうから来たんですか?」
「はい。どちらでお会いになられますか?」
「ルル様どうしましょう」
「この部屋で構いませんので、こちらへお通ししてください」
「承知いたしました。ではすぐに」
そう言ってグラントが連れてきたのは、前髪で顔を隠している、姉ひとりだけだった。




