08 薬屋の姉妹?
次の日イヴのいる薬屋に向かうと、昨日はいなかった怪しい人物がイヴと一緒に私たちを待っていた。
きっとルル様が言った『今日は帰りましょう』の言葉で、再び訪れることを予測していたんだと思う。
「グラントさんとすり合わせた結果、薬屋に入って出てこなかったのは一人だけです」
この人物のことはトリスタンから店に入る前に聞いている。
「服装はシャツにズボンで男性のものを身に着けていましたが体格から女性だと思われます」
夜中にトリスタンと見張りの交代をする前に見かけたとグラントが言っていた。
一見男っぽい服装、ショートカットなのに前髪だけが長く、その茶髪が目までかかっていて瞳の色は判別できない。
あれで前が見えているんだろうか?
「イヴは、どこにも行く気はないんだから帰ってよ」
私たちが薬屋に入ると、こちらはまだ何も言ってないのに、その人物からすぐに声が掛かった。
容姿、声、話し方、この女性はとても落ち着いていて、二十代半ばに見える。
イヴはきのうのことを全部この人に話したらしい。聖教会が探している少女ではないことが確定したから、この女性は本当にイヴの姉だろうけど、ルル様はこの薬屋に対して何か引っかかっていることがあるようで、調査は続行するそうだ。
「それは残念です。腕のいい治療師は貴重な存在ですから」
「うちは治療院じゃなくて薬屋だから。何か勘違いしているんじゃないの」
女性の声には隠すこともなく怒気がこもっている。
「ここは本当に薬屋なんですか? もしそうなら、茶葉を薬と偽って販売していることは、すでに問題視されていますから、誰かに訴えられる可能性があります。そうなったら本格的な調査が入ると思いますし、それ以上に貴女たちはすでに危ない状況にあるんですよ。それはわかっていますか?」
詐欺が許せないという正義感からなら仕方がないけど、彼女たちを陥れるためとか、そのなんだかわからない薬で一儲けしようと企む者が、私利私欲で近づいてくるかもしれない。
「うそ、なんで?」
「誰がそんなことを!? 聖教会!?」
「イヴさんには治療師の心得がありました。ご自分でも修業しているとおっしゃっていましたもの。それなのになぜ薬屋と言い張るのですか」
イヴは、口に手を当てて目を見開いたまま固まっている。自分の言葉で墓穴を掘ったことを後悔しているのかもしれない。
「あたしたちは本当に効く薬を売っているんだから、悪いことなんて何もしてないよ」
姉だと思われる女性の方は怒りで震えていた。カウンター越しとはいえ、ルル様に万が一のことがないように、私はルル様の盾になる準備をしている。
だから不躾だとは思いつつ、その女性をずっと注視し続けていた。そんな私の態度も、彼女たちに不信感を抱かせることになったのかもしれない……。
「そうだとしても、先ほども言いましたが、このままでは、誰かに足元をすくわれてもおかしくはありません。わたくしたちはお二人の力になりたいだけなんです。その効く薬のことを教えていただくことはできませんか」
「あんたたち、お客じゃないなら、今すぐ出ていってよ!」
ルル様は手を差し伸べようとしているだけなのに、昨日のイヴと同じ反応をする女性。
こぶしを握る彼女の手が小刻みに揺れているのは、怒り心頭なんだろう。
ここまで頑なにいったい何を隠しているの? それに私たちはそんなに怪しくみえているのだろうか?
「イヴさん、貴女のためでもあるんです。製法が秘密だというならそれは誰にも言いませんし、聖教会からお墨付きをもらえれば、今後貴女方の商売には誰も文句を言えなくなると思いますよ。安心を得るためだと思ってお話ししていただけませんか」
「ちょっと待ってよ。イヴはただの店番で、イヴに聞いたって、何もわからないから。本当にもういい加減にしてよ」
イヴに話しかけるルル様に向かって姉が文句を言った。
ルル様の心配が、余計なお世話と言われたら確かにそうなんだろうけど。
「そんなに怯えないでください。わたくしはイヴさんに危害を加えるつもりもありません。もちろん貴女にもですが」
あの震えは恐怖心からだったらしい。
「お願いだから帰って。私たちは聖教会とは関わりたくないのよ。何かあったとしても自分たちでどうにかするから放っておいて」
イヴも頭を横に振り、ルル様の言葉を拒絶した。
これでは、まるで私たちが悪役みたいだ。
何故か彼女たちは、聖教会をとても嫌っている。だから私たちが何を言っても聞き入れようとしない。手助けしたくてもこれではどうしようもなかった。
行方不明の少女ではなかったのだから、私たちが手を引くという選択がないわけではない。
ルル様はいったいどうするつもりなんだろう。




