33 ハッピーエンドのエンドはいったいどこ?
「ルル様はファーガス皇帝のこと、本当のところはどう思っているんですか」
海風が冷たくなってきたので、コーデリアをマルセルのいる部屋へと送ってから船室へルル様と戻る。
現在は大海原の船の中。ウォークガン帝国も遥か彼方になったことだし、私たち専用の寝室でルル様と二人きりになったので、私は、思い切って、ずっと気になっていたことを、ルル様に聞いてみることにした。
「それは答えがとても難しいのだけど、ファーガス皇帝陛下の想いは、ずっとブレることがなかったわ。だから『人生が百年か千年かの違いだ、生きている間は楽しまないと損だからな』って言いそうだと思わない」
「えーっと、それは……」
曖昧な返事で、確かに答えにはなってない。
だけど、わざわざ千年なんて例えを出したってことは、それだけの年月、ルル様のそばに、超――長生きしているファーガス皇帝がずっとくっついているって意味だよね?
ファーガス皇帝が単独で千年も生きていられるわけがないんだから。
なんだかんだ言いながらも、ルル様はあんなファーガス皇帝のことを好ましく思っているらしい。
百年後、千年後、お婆さんのルル様とお爺さんのファーガス皇帝か……うーん。
大好きなルル様のそばにいることができればいいファーガス皇帝。すべてを受け入れてくれるファーガス皇帝だからこそ、そばにいることを許すルル様の関係。
やっぱりそこには、ルル様にも少なからず恋愛感情があるんだろう。
ルル様は博愛のイメージが強かったから、だれかひとりを愛するってことがぴんと来ないんだけど……しかもその相手がファーガス皇帝だし。
だけど、二人がそれでいいのなら、外野がとやかく言うことでもない。
普通の人間の私は、その頃は間違いなく神様のもとに召されているだろうから、すでに関りがなくなっているしな。
それに百年後だったら、コーデリアも私と同じで、この世にはいないだろうから、彼女が悲しんだり、ルル様が恨まれるような憂いもない。
さすがにそこまでいけば、ルル様のことをファーガス皇帝に任せてもいいか。
「私、いずれはファーガス皇帝でも祝福できそうです」
「祝福?」
「あ、あの、祝福って言っても、ファーガス皇帝を呪うんじゃなくて、本当にお祝いするって意味ですから、心配しないでくださいね」
「よくわからないけど、ローザにそんな風に思ってもらえてファーガス皇帝は幸せね」
いつものように『うふふ』と笑うルル様。
ファーガス皇帝には、いつになるかは定かじゃないけど、いずれはハッピーエンドが訪れるみたいだ。
でもこのふたりの場合ってハッピーエンドのエンドはどこにあるの?
ルル様がファーガス皇帝を受け入れたとき? それは始まりのような気がするんだけど。
まあ、ファーガス皇帝のことだから、きっとそのエンドがくるまでずっと楽しんで過ごしていくんだろうな。
「あと数日もしたらゼ・ムルブ聖国に戻れますね。ウォークガン帝国はさすがに遠かったから、母国に帰れると思うと安心します」
「そうね。だけど、これからもわたくしは各地を回ることになるわ。だからわたくしと一緒にいるローザも外国へ行く機会が多くなると思うの。つらくなったら遠慮せずに言ってちょうだいね」
ルル様についていかないということは、別の聖女つきに配置換えするということだ。
私の中でその選択はない。
すべてにおいてルル様以上の聖女は存在しないのだから。
「大丈夫です。ルル様となら私はどこへでも行きます」
「私もローザが一緒だと嬉しいわ」
私もこれからは、ファーガス皇帝を見習って何でも楽しんでいこうと思う。
余談だけど、ゼ・ムルブ聖国に帰ってから、ルル様の手によって、本当の姿に戻されたマルセルはびっくりするほどのイケメンだった。
それは教会ですれ違う修道女たちの八割は振り返るほど。
そんなマルセルが、見習いでしかも一回りも年齢差がある私のことを『ローザ様』って敬うもんだから、みんなからの羨望の眼差しがつらい。
だからと言って何があるわけでもないのに……。
ジャックへの手紙の返事と、サミュエル王太子からのミミ貸し出しの要請の断りなんかで、ゼ・ムルブ聖国にもどってからも私にはやることがたくさんある。
そんな日々の中、今日も私はルル様のもと、聖女を目指して頑張っていく。




